その6:徳川家の暮らしの興味

長い栄華と平和を誇った徳川の時代にもひたひたと終わりが近づいている。七郎麻呂の父で、徳川御三家のひとり徳川斉昭(竹中直人)が、息子に英才教育を施している。食生活の心得から痔の用心まで実際に行われていたらしき習慣はおもしろおかしい。また、軍事訓練の様子はスケールが大きく、見応えがあった(雉が飛翔し矢で討たれるところまでの動きも細かい)。

斉昭は、日の本を外国から守ろうという一心で軍事訓練をはじめていたが、それが過激であると警戒され隠居を申し付けられてしまう。徳川家に世継ぎがなかなか生まれなくなっていたところ、斉昭が大切に育てた七郎麻呂が一橋家の当主となり、名を慶喜とした。水戸からはじめて征夷大将軍が誕生する可能性に斉昭は「快なり」「快なり」「快なり」と満足そう。七郎麻呂のクールさと竹中直人演じる斉昭の豪快さ。親子ながら雰囲気がまるで違っているのも面白い。

その7:明確なメッセージ性

大人たちの教えが栄一を導いていく。東照大権現のお言葉で説教する栄一の父・市郎右衛門(小林薫)。「東照大権現とは」と語り(守本奈実アナウンサー)が振ると「徳川家康です」と家康が出てくるところも楽しめる。父は「上に立つものは下のものへの責任がある」と上に立つ者の心得を語り、栄一はそれを胸に刻む。母・ゑい(和久井映見)は、「あんたが嬉しいだけじゃなくて、みんなが嬉しいのが一番なんだで」と教える。満月の晩に出会った高島は栄一に「このままではこの国は終わる」と警告し、どうしたら終わらないか考えさせようとする。

その8:さわやかな朝を求めて

第1回の終わりは、少年・栄一が高島と話をし、日本を終わりにしないために立ち上がろうという気持ちで高島の囚われていた陣屋を出ていくと、空が明け、あさが来た。「夜明けだで」と空を仰ぐ栄一たち。『青天を衝け』の脚本は、朝ドラ『あさが来た』(2015年)を書いた大森美香氏。『あさが来た』は朝ドラでは初めて江戸時代の終わりから、渋沢栄一と同時代人の実業家・広岡浅子をモデルにしたヒロインの半生を描いたドラマだった。今回は、『あさが来た』ではちょっとだけ登場した渋沢の人生を描く。この時代のことをすでに研究している作家だけに、密度の濃い脚本になるであろうと期待されている。

夜明けとは時代が変わる希望の現れとも解釈できる。『青天を衝け』の第1回は一貫して日本の新しい朝のはじまりを意識しているように見えた。2020年コロナ禍で疲弊してしまった日本、夜がいつ明けるか不安な気持ちでいっぱいなときに、未来の希望に満ちあふれた少年たちのキラキラした瞳と、全速力で駆ける気迫は、過去の話でありながら、今の話であるような、こんなふうにたちが上がる人の出現を待ち望む気持ちを強く刺激された。これほど清々しく力強い物語は、これからも続けて見たくなることは間違いない。

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