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番組のサブタイトルが『~泣き虫同期 4年の記録~』となっているとおり、家族からの手紙に涙、レポートのメッセージに涙……といったシーンがたびたび登場している。それは、今回密着した2017年入社組だけでなく、どの期も同じだそうで、「親元を離れて1人になって、初めて親の気持ちを知るんです。自分がこんなに愛されていたんだと分かって、ほとんどの子が号泣しますね」とのことだ。

こうして涙を流すたびに成長していき、番組でも前編の冒頭と後編の終盤では、まるで顔つきが違うことに驚かされる。この成長は、技術面はもちろん、精神面も大きい。1日は早朝の清掃に始まり、ランニングを行い、自分たちで朝食を用意し、仕事の合間にはそろばん、書道といった教養も学んでいくことで、人間性が養われるという。

「社長は『心が磨かれれば技も磨かれる』とよく言っています。技は勝手に身につくけど、それだけでは自己流になりがち。だから、人を思いやったり気づかったりする気持ちがないと、人の話を聞かなくなって傲慢になり、一流の職人にはなれないということなんだと思います」

■部下を叱れない上司が増える中で放送する意義

名将と呼ばれた野村克也さんも、プロ野球の監督時代にミーティングで人間教育に力を入れていたというが、「考え方としては近いですよね。僕から見ても“職人アスリート”という感じがします」と通じるところがあるようだ。

人間性も豊かな職人を育てることで、「秋山社長は日本を良くするということを本気で考えてらっしゃる」と、野望を持っているのだそう。

「秋山木工の丁稚制度は、8年間の修業期間を終えると、職人として一番脂の乗り切った時期に、世に放つんですよ。全国や海外の家具製作会社に入れてあげたり、独立したりする人もいる。そこからまた戻ってくる人もいますが、秋山木工で囲わないというのが流儀なんです」

この制度を30年続け、これまで育て上げた職人は100人近くにも。秋山社長は、その弟子に当たる孫弟子まで含めて交流を続けているそうで、「先日なんて、孫弟子に誕生日会を開いてあげてましたから(笑)。途中で辞めていった子の誕生日もお祝いしてあげたりとか、それだけ面倒見がいいんです」と人柄が伺える。

「パワハラ」「モラハラ」と言われることを恐れ、部下を叱れない上司が増えているという今、この番組を放送する意義をどう考えているのか。

「放送されると『教科書に載せたい』と絶賛する人もいるし、『なんであんな会社があるんだ』と批判する人もいることは社長も承知していて、世の中に逆行していることは自分でも分かっています。ただ言えるのは、丁稚制度に来る子たちは望んで入ってきているということ。そして、生活や言葉はキツいかもしれないけど、そこには愛情があって、親御さんも理解して託している。その上で、見てくださった方がどう判断されるかだと思います」と話している。

  • 山田貴光ディレクター

●山田貴光
1970年生まれ、千葉県出身。制作会社・ドキュメンタリー SAMURAI代表取締役。『ドキュメント にっぽんの現場』(NHK)、『ガイアの夜明け』(テレビ東京)、『奇跡の地球物語』(テレビ朝日)、『夢の扉プラス』(TBS)、『ザ・ノンフィクション』(フジテレビ)といったテレビ番組のディレクターや、『わたし家具職人になります』、『あい ゆめ わ 出会いのアート』といった映画の監督を務める。