お金と投資をもっと身近に! ―― をコンセプトにした楽天証券の投資情報メディア「トウシル」が、2020年12月に月間PV数2,100万を達成し、さらにYouTubeチャンネル登録者数も4万人を超えたという。投資に積極的でない人が多い日本でこれほどの人気を得たのはなぜなのか? トウシルの編集長 武田成央氏にその秘密を伺った。

  • 月間PV数2,100万を達成した楽天証券の投資情報メディア「トウシル」

楽天証券とトウシルの関係は?

2017年7月に誕生した「トウシル」は、楽天証券のオウンドメディアでありながらも中立性を維持した、投資初心者から上級者の方まで全体をフォローする投資教育のためのメディアだ。武田成央氏は産経新聞出版「月刊ネットマネー」を経て、2016年4月からトウシルの編集長として活躍している。

  • 楽天証券 カスタマーエクスペリエンス部 マネージャー 兼 「トウシル」編集長 武田成央氏

楽天証券の顧客にごく一般的な消費者が増え始めたことにあったという。楽天証券はもともと、デイトレーダーやスイングトレーダーのような、高頻度で金融商品の売買を行う中・上級者ユーザーに人気のある証券会社だったが、楽天グループとしての経済圏が拡大する中でユーザー層が大きく変動し始めたのだ。

日本では投資に対するハードルが依然高く、投資に関する情報提供も専門用語が飛び交う中・上級者向けと言わざるを得ない。だが、「口座を開設したものの、なにを買ったらいいのかわからない」というのが、一般的な投資初心者のリテラシーだ。現在、楽天証券で口座を開設する方の約7割が投資初心者だという。そういったユーザーの背中を押すために、投資情報をわかりやすく提供することが求められていた。

さらにもう1つ、当時の楽天証券のユーザーインターフェースにも課題を抱えていた。同じWebページ上に取引画面やカタログ情報、投資情報などが一緒くたに並んでしまっており、役割の切り離しと住み分けが求められていたのだ。そこで「より初心者向けの投資情報を出すにあたり、いっそのことメディア化してしまおう」ということで「トウシル」はスタートした。

武田氏は「マーケティングという側面から始まったものの、現在は顧客満足度を引き上げるメディアへと変化しています」とトウシルの変遷について述べる。現在では楽天証券のビジネスによらず、口座開設前の潜在ユーザーを含めた『初心者と投資をつなげるプラットフォーム』になっているという。

信頼性を重視し初心者に寄り添う記事を展開

月間PV数2,100万を実現したトウシルでは、記事制作の方針として「わかりやすい」「面白い」「共感できる」「信頼できる」を掲げているという。なかでも重点が置かれているのが、最後の「信頼できる」だ。

「日本では投資のイメージがあまりよくありません。『投資ってなんだか怖い』、これが日本において投資が大衆化しなかった原因だと考えています。これまでの日本の金融情報誌では、投資の良いところしか紹介してきませんでした。ですが、本当に皆さんが知りたかったのはそういう情報ではなかったのです」(武田氏)。

"投資信託"や"株運用"という言葉で検索すると、サジェストとして"失敗"や"リスク"といったキーワードがよく出てくる。トウシルではそういったユーザーの心理を推し量り、ネガティブな情報こそが重要と考察。ユーザーの損や失敗を減らすことに重きを置いた記事を展開しているそうだ。

「実は『やってはいけない』というキーワードを入れたコンテンツを作るとものすごく読まれるんです。やはり『損をしたくない』という気持ちを持っている方は多いので、そこは大切に考えています」(武田氏)。

トウシルで"ウケる"コンテンツとは?

トウシルは連載記事の人気が高く、またその数も多い。とくに、投資家の桐谷広人さんの「株主優待」記事は読者人気が非常に高く、その人気は衰えを知らないという。トウシルでヒットするのは「株主優待」「高配当」といったキーワードだ。これらに「10万円株」や「NISA」「割安成長株」などの話題を組み合わせて記事を作ってみて、人気が高ければ連載へと格上げをしていく。このフローでトウシルは多くの人気連載を抱えるようになった。

「2年位前までは米国株の記事はそれほどヒットしなかったのですが、昨年はアメリカのマーケットが非常に活況でしたので、急激に読まれ始めました。例えば『1万円で買える高配当米国株』という記事にしたところ、多くの方に読まれました。この経験から具体的な銘柄へのニーズが高そうだと考え、以前から人気のあったウォーレン・バフェットさんの記事に、彼の注目する米国株を紹介したところ、こちらもヒットしました。1万円、高配当などの記事のキーワードは、銘柄を探すときのスクリーニングの条件にもなります。読者は、そのヒントを知りたいんだと思います」(武田氏)。

  • 2,100万PVは、記事構成、オウンドメディアの特性、コロナ禍などさまざまな要因が絡み合った結果だという

キラーコンテンツとなるキーワードに、時事キーワードを組み合わせ、そこから連想される要素をトッピングする、こういった記事構成が行えるのは、武田氏のマネー雑誌編集経験が大きいのだろう。

だが2100万PVを実現した理由はそれだけでなく、「オウンドメディアだからという要因が大きい」と武田氏は話す。

「我々は一般メディアと異なり、顧客の課題やVOC(顧客の声)、アンケートなどの情報を持っているんですよね。Google トレンドなどには出てこない情報がその中には必ずあるので、僕らの方で潜在キーワードを作り、先回りして記事を制作できるのです」(武田氏)。

加えて「2020年に関してはコロナ禍の影響も強い」と補足する。

「昨年3月のコロナショックのころ、月間PV数は1800万で一度ピークを迎えました。ですがそれから年末まで、PVは3月のピークをなかなか超えられずにいたんです。

その後盛り返したのは、働き方が変わって皆さんの可処分時間が増え、お金の使い先が減ったことで、投資に使うお金と考える時間が増えたからだと想像しています。もちろん、コロナ時代のお金という意味では不安自体は増していましたから、我々も対策をお伝えすべく『増やす・減らす・守る』という3軸で「ノウハウ集100」というコンテンツを提供しました」(武田氏)。

そのうえで武田氏は「トウシルは常に中立のメディアでありたい」と強調し、「1つの方向にバイアスをかけないことを信条としている」と語る。

「例えば、読者人気が非常に高い「株主優待」記事に対して、あえて「アンチ株主優待論」のような記事を作る、安定した利益を上げられる「インデックス投資」だけを勧めるのではなく、あわせて「アクティブ投資」のよさも紹介する、といった形で、読者自身に考えてもらうようにしています」(武田氏)。

トウシルは事業目標をどのように設定している?

トウシルは、楽天証券自らが運営しているオウンドメディアではあるが、より中立的な立場で読者へ情報を提供することを目的としている。では、KPI(重要業績評価指標)をどのように設定しているのだろうか。

武田氏は「トウシルのミッションは主に『投資リテラシーの向上』と『資産形成のサポート』の2つ」と説明する。前者がメディアとしてのKPI(重要業績評価指標)、後者が楽天証券という企業のためという位置づけだ。前者のKPIについては、PV(ページビュー数)やMAU(月あたりのアクティブユーザー数)、来訪頻度、回遊率など、Webページへのアクセスを中心に見ているそうだ。これは、「より多くのユーザーに高頻度で訪れてもらうということは、ユーザーが可処分時間の多くを投資情報の取得に使っているということであり、金融リテラシーは上がるはず」という仮説をもとに設定されている。

一方、後者のKPIについては、楽天証券における口座開設や、取引に関する直接的・間接的な貢献を指標としているそうだ。具体的には、金融商品の注文、約定を行う前にトウシルを閲覧しているかどうかをアナリティクス上で調査し、その数値を参考しているという。

「お金の不安を解消するメディア」を目指して

武田氏は「トウシルを通じて投資の大衆化を進めていきたい」と話す。楽天証券をはじめとした証券会社は、初心者が第一歩を踏み出せるようさまざまな施策を行っているが、そもそも日本の投資人口は諸外国と比べて高いとは言えない。初心者と証券会社の間にかかるハシゴのような存在を目指しているそうだ。

「日本の投資人口が増えたときに、そのきっかけとなったのがトウシルだった…… そのような存在になれるようコンテンツを作っています。昨今は記事だけでは読んでくれない世代も増えていますので、YouTubeチャンネルでの動画配信も始めました。読むことでいつの間にか『投資リテラシーが上がった』『資産が増えた』というメディアになれればと」(武田氏)。

目下、トウシルが重視しているのが他のメディアとの差別化を図るための読者の「ファン化」だ。読まないと損する、読むと得するメディアを目指しているという。そのために新たなUXの開発や、ポイントなどの制度を推し進めているそうだ。

「個人的な意見ですが、僕は投資はしたほうが良いと思っています。いまどんどん投資を始める若い方が増えていますが、投資する人が増えれば増えるほど、投資した資産は増えていくんです。

投資市場にお金が入ると企業にお金が入り、そしてそこで働く従業員の給料が増えていきます。するとさらなる投資が可能になりますからサイクルが高速化し、ひいては日本全体の資産が膨らんでいき、我々の年金も増えるでしょう。将来不安に繋がっている"お金の不安"の解消のために、トウシルが一助となればと思っています」(武田氏)。