――そこを見せたいという欲求はないんですか? 例えば大きな仕事が決まったとき、「お父さんってすごいね!」と言わせたいとか。掟を破りたくなったことは(笑)。

もちろんある(笑)。CMの仕事とか、今『天てれ』(Eテレ)にたまに出てるんですけど、そういうやつ。プリキュアに声優として出演したときも、ちょっと言いたかった。それでも黙ってるんですから、我ながらすごい自制心(笑)。見てくれは太ってますけど、心は即身仏レベルにやせ我慢してます。それだけ我慢してるのに、奥さんが偶然を装って録画を再生して娘に“チラ見”させたりするもんですから、堪らない。もしかすると、僕の「見せたい!」という気持ちを見透かしているのかもしれませんが。

――2019年にお生まれになった二人目の娘さんにも、同じように正体を明かさずに。

そりゃそうです。長女だけに隠すって何がなんやらですからね(笑)。

――ということは、上の娘さんはいずれ正体には気づくわけで、今度は下の娘さんにご自分の仕事を伏せるための「協力者」みたいな存在になるんですかね?

そうなっていくんでしょうね。僕の希望では20歳。成人になるまで、なんとか隠し通したいと思ってますけど、どうも計画がだいぶ前倒しで進んでる模様ですので、この調子だと来年辺りXデーが来るでしょう(笑)。

――自分の正体を隠し続ける父と娘の物語。映画化にも期待したいです。

ぜひ。別に原作や原案とかそんな大層じゃなくても、「参考」くらいでいいので(笑)。

■「なるべくため息をつく」を心掛けて

――2人の娘さんを育てる父として、今の時代に感じていることはありますか?

隠してることだけでなく、そもそも父親って“やりづらい”ときがあると思うんです。『一発屋芸人列伝』でもご協力いただいた、社会学の田中俊之先生という方がいらっしゃって。男性学が専門で、「男の生きづらさ」とか研究しておられる。先生が昔からよく言ってるのが、「平日昼間問題」。あくまで僕の理解ですが、男親が、あるいは中年男性が住宅街とか公園を平日ウロウロしていたら、通報されかねないと。大人の男は昼間は会社に行ってて、地域のコミュニティでは見かけないもんだという思い込みが、いまだに強く残っているという。

僕は芸人という仕事柄、平日家にいることもあるわけです。長女が幼稚園入る前とか、平日昼間に公園に連れて行くことが結構あったんですけど、やはり周りのママたちの視線が痛かった。男が親の務めを果たそうとするとき、地域コミュニティ内の平日昼間はハードルが高い、やりづらいなと感じました。そういう男の側の生きづらさを解消することで、母親の負担も減らせると思うんですね。この本が、そんな問題を語り合う上で、参考資料の一つになれば幸いです。

――「イクメン」という言葉はきっかけづくりの役目を十分果たせたと思うので、これからはどんどん使われなくなっていく方がいいのかもしれないですね。

やっぱり、「男なのに子育てしてるの? 意外! 凄い!」という感覚が前提の言葉ですからね。「恐妻家」という胸の張り方も、もうちょっと恥ずかしいし。

――今はコロナ禍という特殊な環境下なので、親御さんの負担も大きくなります。

そうですね。2020年4月から5月にかけてのステイホーム期間に感じたんですが、子どもとずっと一緒にいるのって、結構しんどい。

普段の僕は、仕事で1回抜けてるわけで、娘の成長をコマ送りで見ているようなもの。でも奥さんは、リアルタイムでずっと見守ってる。朝顔の成長VTRも早送りだから見てられるのであって、しんどいだろうなと。多くの主婦業(主夫業)の方々は、それを日常的にやっている。だからこそ、それをしんどいとか、面倒くさいと言えた方がいいなと思います。

親になった途端に聖人になるわけでもなし、徳が上がるわけでもない。「子どもが生まれる前の俺のままだな……」と自覚させられることの方が多い(笑)。

――親も子どもと共に成長していくとも言われますよね。

そうでしょうけど、まあ、人ってそんな簡単に変われない(笑)。劇的な成長も自分に期待しない方が良い。

最近は「なるべくため息をつく」というのを心掛けてます。子どもを相手するのに疲れたりとか、仕事が立て込んだりとか、奥さんと険悪になったり、生きていると精神的な負担になることがいろいろありますけど、そんなときは「はぁー……」と大きくため息をつく。もちろん1人になったときですよ(笑)。ため息は心の換気。家庭円満の秘訣は、「大きくため息をつくだけの肺活量を維持すること」でしょうか(笑)。

■プロフィール
山田ルイ53世
本名、山田順三。1975年4月10日生まれ。兵庫県出身。1999年、ひぐち君とお笑いコンビ・髭男爵を結成し、近年は文筆業でも注目を集める。主な著書は『ヒキコモリ漂流記』(15)、『一発屋芸人列伝』(18)、『中年男ルネッサンス』(18 ※社会学者 田中俊之氏との共著)、『一発屋芸人の不本意な日常』(19)。