新型コロナウイルス感染防止を日常生活に取り入れた「新しい生活様式」が求められる中、パナソニック東京汐留ビルに新しいライブオフィス「worXlab」(ワークスラボ)が開設された。コロナ禍の中であるべき働き方を「人起点」で考えた同オフィスの特長を見てみよう。
ライブオフィス「worXlab」を開設したパナソニック
2021年1月7日、新型コロナウイルス感染症拡大防止のため、二度目の緊急事態宣言が発令された。飛沫・接触感染を防ぎ「3密(密集、密接、密閉)」を避けるというニューノーマル」(新しい生活様式)が浸透を進めているが、まだまだコロナ禍は終わりを見せず、また収束してもこの生活様式は続くことになるだろう。
そんな新型コロナウイルス影響下において、あるべき働き方を考えているのがパナソニックだ。同社は人起点のワークプレイスの課題を発見・解決するために、空間ソリューションに着目。パナソニック東京汐留ビルのワンフロアを改装し、ライブオフィス「worXlab」(ワークスラボ)を開設した。
同社がworXlabを開設した意義はどのような点にあるのだろうか。ライフソリューションズ社 空間ソリューション事業推進室 マーケティング推進部 部長の丸山功一氏、同マーケティング推進部 主幹の神谷学氏に話を伺いつつ、ライブオフィスを見学していこう。
ウィズ/アフターコロナを見据えた「人起点」のオフィス
「近年、オフィス空間はワークプレイスとして進化しています。これまでのオフィスは『建物起点』でスペースの効率性が重視されてきましたが、これからは『人起点』で働きやすさと生産性のバランスが重視されるでしょう。worXlabをセンターオフィスとして位置づけたうえで、個人単位の仕事が行えるサテライトオフィス、在宅勤務やテレワークが行えるホームオフィスと、シームレスでリアルに繋がることが重要と考えております」(丸山氏)。
丸山氏は、デジタル化とコロナ禍で進化し、分散化を進めるワークプレイスについてこのように説明した。同社はこのように進化するワークプレイスに対し“breathing”というコンセプトで大きく3つの取り組みを行っている。
- 従業員自らが新しい働き方を実験し、人起点のワークプレイスの課題を発見・解決する
- 業種を超えたパートナーと新しい技術や様々なビジネスを共創する
- 来訪者に“breathing”を体験してもらう
“breathing”は直訳すると“呼吸”。空間自体が変化を続け、そこで生き生きと働けるようなワークプレイスを目指したのがworXlabだ。同社はworXlabにおいて、光・空気・音・香り・映像などのテクノロジーを駆使して多様化する働き方をサポートする「ソリューション」と、データ活用とサービスで働く環境を継続的にアップデートしていく「データ」という2つの価値を提供している。
オフィスにいながら森を感じる演出
それでは実際にworXlabの様子を見学していきたい。エントランスには、感染リスク低減ソリューションとして、顔認証入退セキュリティ&オフィス可視化システム「KPAS」を導入。位置情報分析を用いて「密回避」「快適性」「出社率」「時差出勤率」がサイネージに表示される。また非接触での「顔認証」「体表面温度計測」はもちろんのこと、従業員がマスクをつけているかどうかを確認する「マスクチェック」も行われるのが新しい。
“breathing”を体現した光や風、音や香りによる空間演出は、オフィスに入るとすぐに体験できる。エントランスを抜けるとプロジェクションマッピングによって床に木漏れ日が映し出されており、涼やかな風とさわやかな香りによるもてなしが行われる。
その先には鳥の鳴き声や川のせせらぎが聞こえるリラックス空間「エアコクーン」や、光と音でたき火の揺らぎを再現し、仕事の間に心の切り替えを行える「スイッチスポット」も用意されている。
オフィス全体は空質管理ソリューションによって常に清潔な空気環境が提供されており、ビーコンを利用したヒトセンシングによって、人数に合わせたタイムリーな換気を行っているという。空気の流れはダウンフローで、天井から清潔な空気が流れ込み、床下から吸込される。
さらに進むと、送風システムでエアロゾルを除去する「エアリーゾーニングソリューション」が設置されている。一見、オープンなミーティングスペース見えるが、中に入ると天蓋のスリットからやわらかい気流が感じられる。ミントや柑橘系のアロマによる心地よい香りの演出も行われており、オープン空間でありながらも、空気でゾーニングされた空間が作り出されている。
従業員が勤務するエリアの手前には、環境情報を表示するサイネージを用意。配布されているウェアラブル端末や、オフィス内に配置されたセンサーの情報をもとに騒音や快適性指標、CO2濃度、人密度などを可視化し、安全性や快適性を考慮した座席選びをサポートする狙いだ。将来的には従業員の属性や好みに応じて座席を提案する、レコメンド機能も考えているという。
ワークプレイスをテクノロジーで最適化し、生産性を向上
ここから先は、おもに従業員が働くエリアとなる。フリーアドレス制のオフィスゾーンでは「フレキシブルゾーニングソリューション」が活用されている。オフィス什器はそのままに、光と音でオフィス空間のゾーニングが行えるシステムだ。指定したエリアの照明色を変更するとともに、指向性スピーカーでピンポイントに音を流すことが可能で、物理的な衝立なしで瞬時にオフィスの役割を切り変えられる。
デスクは昇降式を採用し、スタンディングデスクとしても利用可能なほか、窓際には光の取り入れ方を変えたデスクペースも用意。また、こまごまとした機器への電源供給用にDC給電型の配線ダクトと着脱可能なUSBプラグが設置され、コンセントの位置を気にせずに仕事が行える。
ワークプレイスが分散化する中で、センター/サテライト/シェアオフィスそれぞれの利用者の数は一定しない。これらのソリューションは、そのような状況においてスペースの有効活用に役立つだろう。
ミーティングゾーンでは「会議サポートソリューション」が活用されている。参加者の会議中の発話量、脈などを測ってデータを蓄積し、組織分析に役立てることが可能だ。もちろん、ここでもエアリーゾーニングの技術が活用されている。
通常の会議利用だけでなく、イノベーティブなアイデアが生み出せるようなサポートも。例えば、光の明るさや色を変えたり、音楽を流したりといった仕組みだ。さらに、マスキングノイズを発することで外部に音漏れを防ぐ特殊な音響設備も用意されている。
仕事に集中したいときは、個別ブースの「集中持続サポートソリューション」が応えてくれる。内部では、利用者の集中状態をモニタリングし、集中低下が見られた際は光や風、香りで集中力を持続する試みが行われている。これらのデータを蓄積し、個人ごとに機能を最適化することも可能だ。
カンファレンスゾーンには、会議サポートと空質管理、そして短時間リフレッシュソリューションを組み合わせた会議室がある。複数のプロジェクターからの映像を壁一面に映し出し、あたかも同じ場所にいるようなリアルな遠隔会議が行える。また、光・空気・音によって没入感のある環境を作り出し、リフレッシュすることも可能だ。
丸山氏・神谷氏に聞く「worXlab」の役割とは?
──コロナ禍によって仕事の在り方が大きく変わり、ワークプレイスの分散化が進みました。このような状況において、「worXlab」のようなセンターオフィスはどのような役割を担っていくのでしょうか?
丸山:センターオフィスには人との交流が求められることになるでしょう。サテライトオフィスやホームオフィスでは、偶発的な出会いからの仕事はやはり生まれにくいと思います。
神谷:新しいことを1人で生み出すのは大変ですし、雑談の中で気づきや学びを得ることは多いものです。通信技術が発展してもコミュニケーションの場はやはり大切で、それがセンターオフィスの役割になるでしょう。
丸山:現在はオンラインで遠方と繋がることができますが、リアルがあるからバーチャルがあるんですよね。ミーティングでもリアルとバーチャルが混在していたら、バーチャルの人はやはり取り残されがちです。
神谷:我々はチームビルディングで共有できることを大切にしたいと考えています。そう考えると、これからの時代、センターオフィスは「安心して来れる場所」となる必要があります。
──最新のテクノロジーを駆使した「worXlab」ですが、これからどのように発展されていきますか?
丸山:「worXlab」は実験施設なので、基本的にずっと完成しない場所です。お客様と会話をしながら新しいニーズを見つけ、我々の持っている技術を当てて、今後もソリューションを見出していければなと。人起点のオフィスを突き詰めていきたいと思います。
神谷:「すごい完成度ですね」とよく言われるんですけど、これは完成ではないんです。「worXlab」を通じて様々なデータや意見を蓄積することで、ソリューションの利活用やあるべき姿について検討を重ねながら、常にバージョンアップを繰り返して、みなさんに最適な空間を作り上げていきたいと思います。