マネ―スクエアのチーフエコノミスト西田明弘氏が、投資についてお話しします。今回は、2020年の為替相場を総括していただきます。
2020年の為替相場は、やはり新型コロナ・ウィルスを抜きには語れないでしょう。
対岸の火事のように思われていたコロナの感染が欧米で急拡大し、金融市場を大きく動揺させたコロナ・ショックが起こったのが3月でした。
NYダウは2月12日の史上最高値から3月23日に底打ちするまで40%近く下落しました。為替市場では、年初から3月23日までの通貨の強さの順は「米ドル>円>ユーロ・・・・>ブラジルレアル>メキシコペソ」などとなりました。投資家が価格変動の大きな資産を売却したり、そうした投資を手控えたりする、典型的なリスクオフ(リスク回避)相場でした。世界的な景気後退観測から商品市況が低迷し(*)、資源国通貨にとって打撃となりました。
(*)WTI原油先物価格は4月20日にマイナス40.32ドル/バレルという、信じられないような価格をつけました。
コロナの感染拡大に対して、各国政府が外出規制やロックダウン(都市封鎖)などの対応を打ち出したことで、各国景気は4‐6月期に前例のない急激な落ち込みをみせました。そして、3月以降、主要中銀が強力な金融緩和を打ち出し、また各国政府も緊急避難的な財政出動を行ったため、各国景気は徐々に持ち直しました。
ただし、夏場以降、各国でコロナ感染の第2波、第3波が発生し、外出規制や部分的・段階的なロックダウンが改めて導入されたこともあって、投資家心理がリスクオフに振れる場面が散見されるなど、「コロナ前」からほど遠い、不安定な状況が長く続きました。
もっとも、秋口以降はコロナのワクチン開発が進み、投資家の心理は好転しました。コロナの感染拡大は続きましたが、ワクチンへの期待、その結果としての経済正常化への期待がNYダウを過去最高値へと押し上げました。そして、11月以降(12月23日まで)の通貨の強さの順は「豪ドル>メキシコペソ>・・・・>円>米ドル」などといったリスクオン(リスク選好)相場でした。
米大統領選挙はバイデン勝利⁉
先行き不透明感を作り出したもう一つの要因が米国の大統領選挙でした。コロナへの対応の拙さを批判されてトランプ大統領(共和党)の支持率がジリジリと低下。民主党バイデン氏優勢で選挙戦の終盤を迎えましたが、コロナ対策の郵便投票が事態を複雑にしました。
11月の一般投票でバイデン氏が過半数の選挙人を獲得したものの、トランプ氏や共和党の一部が、バイデン氏が勝利した激戦州での郵便投票の無効を訴えて法廷闘争に持ち込んだからです。もっとも、訴えはほぼ全てが却下され、12月14日の選挙人投票をもってバイデン氏の次期大統領がほぼ確定しました。
もつれにもつれた英国とEUの交渉
1月末に英国はEUを離脱しました。いわゆるブレグジットです。ただし、20年末までは移行期間として英国とEUの従来の関係が維持されました。そして、移行期間終了後の両者の関係に関する交渉が延々と続けられてきました。
そして、12月23日にようやく、FTA(自由貿易協定)を含めて、両者は大枠の合意に達しました(批准手続きは残存)。英国経済に大きな打撃となりうる「合意なき離脱」は回避されそうです。ただし、合意があっても、実際に新しい関係が始まるに際して経済が混乱する可能性は残りそうです。
独自材料で動いたトルコリラ
資源・新興国通貨は、個別の材料というより、全般的な市場のリスクオン/オフに大きく影響を受けました。
そうしたなか、トルコリラは独自の材料で変動しました。リラは11月に対米ドルや対円で過去最安値を記録。トルコのマイナスの実質金利、外貨準備高枯渇への懸念、トルコとEUとの関係悪化、地政学リスクなどがリラ安の要因でした。ただその後、TCMB(トルコ中銀)に新総裁が就任してインフレ抑制のための金融引き締め姿勢を鮮明にすると、リラは反発しました。