寒空の下、仕事で歩き回っていると恋しくなるのが、温かい飲み物。ちょっとした空き時間だろうか、自動販売機でホットのコーヒー缶を買って暖をとっているビジネスマンの姿もよく見かける。駅構内やオフィス内……街中のいたるところに配置されている「自動販売機」は、私たちの生活にごくごく身近な存在だ。とはいえ、その"身近さ"を支えている人たちがいることを、あまり知らない人も多いはず。今回は、自販機の管理や補充などを行う「自販機オペレーター」と呼ばれる会社の営業マンの方に密着し、その仕事ぶりを紹介していきたい。

  • 自販機補充の仕事に密着

知られざる、その仕事内容

都内某所、とあるスポーツ施設の前で、取材をさせていただく営業マンの方と待ち合わせ。自動販売機の前でスタンバイしていると、「ルートカー」と呼ばれる自販機への補充やメンテナンスを行うためのトラックがやってきた。車から降りてきたサントリービバレッジサービスの営業マン・土田和彦さんは、挨拶もそこそこにさっそく自販機での作業をみせてくれた。

  • サントリービバレッジサービスの営業マン・土田和彦さん

  • 「ルートカー」から商品を下す土田さん

大まかな流れは、「1.売上金の回収」→「2.商品の補充/入替(※シーズンによっては冷たいor温かいの切り替え作業も)」→「3.清掃」。土田さんは「わからないことがあったら何でも聞いてください!」と気さくに声をかけてくれたのだが、ものすごくテキパキとスピーディーにお仕事されているので、ただただ見つめるだけでここでの仕事は終了……。わずか15分ほどの出来事であった。

  • 土田さんは目にもとまらぬ早さで補充をこなしていく

そそくさと次のスポットに移って、あらためてお話を伺った。

土田さんの一日の流れを聞いたところ、朝、会社に出社してから補充や入替を行う商品の手配や車への積み込みをして現場に出発。日によるそうだが、1日に担当エリア内にある約20スポットの自販機を巡るそうだ。

  • 営業マンは一日に約20の自販機をまわるそう

1スポットにかける時間はだいたい15分程度。でも、これは入社11年目の土田さんだからこそ。「新人の頃は、手間取って1時間近くかかってしまうこともありました」とのこと。素人目だが、土田さんは商品の補充がめちゃくちゃ早い。1本入れるのに1秒もかかっていないぐらいだ。これは経験を積まないとできない技だと思う。しかも、飲み物は重いうえに、量も多い。新人さんが手間取ってしまうのも頷ける……。そうして補充を終えた後は、夕方ごろに会社に戻って少し事務作業をして帰路につくのだという。

  • 商品の補充はテクニックが必要不可欠

  • シーズンによって冷たいor温かいの切り替え作業も行う

ちなみに、取材当日はいい天気だったが、雨の日も風の日も雪の日も……もちろん、ある。どんな季節や天候であっても、自販機は休みなく稼働しているので、土田さんたちも現場に出かけるのだ。また、屋外だけでなく、屋内に配置されている自販機も多い。重い飲料を持って階段を上り下りすることもあれば、せまい場所でせっせと作業しなければいけないこともある。いつも室内でぬくぬくとパソコンと向き合っている自分としては、皆さんのお仕事ぶりに頭が下がる。

  • 詰め替え用の商品がどっさり。かなりの重量だ

ここが営業マンの"腕の見せ所"

ただ少なくなった商品の補充をしているだけ、と思った人もいるかもしれないが、実は違う。それぞれ違うロケーションの自動販売機に、どんな商品をラインナップさせるか、というのが営業マンの腕の見せ所なのだ。

  • 自販機のロケーションに適した商品を入れていく。これによって売り上げが大きく変わる

最近では、自販機のシステムに搭載されたAIが、補充・入替におすすめの商品を提案してくれるようになったそうだが、土田さんいわく「僕ら営業マンの細かな調整によって売り上げに差が出ます」とのこと。例えば「冬の時期でも、オフィスビル内の自販機では冷たい飲み物が売れる」だったり、「住宅街でも、近くに工場があるとコーヒーが売れる」だったり、AIではわからない感覚こそ、売り上げに大きく影響するそうだ。それらを見抜き、うまく先読みしていくのがデキる営業マンに必要なことなのだという。

  • 商品の入替作業を行う土田さん

土田さんは、プライベートでも自販機を見かけると、ついラインナップをチェックしてしまうそう。新しい飲み物もどんどん登場するが、日ごろから新商品の研究も欠かさない。そうした日々の積み重ねによって「自分が商品ラインナップを工夫したことで、売り上げがアップしたときはとてもうれしいですね」と話していた。

  • 土田さんのおすすめ商品2つ。缶の「ペプシ ジャパンコーラ」と「スピリット オブ ボス」

自販機横の箱はゴミ箱ではなく"リサイクルボックス"

自販機の清掃も営業マンの方々の仕事のひとつだと先ほど書いたが、ここに関しては日ごろ仕事をしていて困ってしまうことも多いのだという。自販機本体の拭き掃除などはもちろんだが、ネックなのは隣に配置された「リサイクルボックス」の清掃。

ここに捨てられた空き缶やペットボトルの回収も行うのだが、この箱を「リサイクルボックス」ではなく、ただの"ゴミ箱"として使っている人も多いそうだ。「リサイクルボックス」に、缶やペットボトル以外のゴミが捨てられていると、分別をしなければ"リサイクル"ができない。それなのに、よくタバコの吸い殻、雑誌、ワインボトル、タピオカのカップなどが捨てられているそうだ。これは営業マンの方々の負担になるだけでなく、リサイクルの妨げにもなってしまうので、ゴミを誤って捨ててしまわないように注意したい。


ビジネスマンにとって身近な存在の「自動販売機」。その便利さを陰で支える営業マンの仕事に密着することで、あらためて自動販売機の身近さ、そしてありがたさに気づくことができた。自分がよく利用する自動販売機のラインナップに、一度注目してみてはいかがだろうか。そこには営業マンの方々の想いが詰まっているはず。

  • 自販機の商品ラインナップには営業マンの方々の想いが詰まっている