学生時代、部活や教室でファンタを飲んで友人と楽しむ……そんな青春を経験した方もしていない方も、大人になった今、ファンタを飲んでいるだろうか?

2020年3月、日本コカ・コーラは大人向けの「ファンタ プレミア」を発売した。この商品、直近10年に出した同シリーズの中で最も良い売れ行きを記録しているという。若者が飲むイメージが強いファンタが、なぜ大人にハマったのか。その理由は、ユーザーの行動に合わせた企画と技術の進歩、さらにコロナ禍が後押ししたという。日本コカ・コーラ の河野公紀さんに話を聞いた。

  • 日本コカ・コーラ マーケティング部 フレーバー炭酸グループ シニアマネージャー 河野公紀さん

はつらつなイメージから一転、上質な本格派へ

「ファンタ」といえば、乃木坂46を起用した「ファンタ坂学園」など、元気ではつらつとした学生のイメージが強い。一方「ファンタ プレミア」は、永山瑛太さん、松田龍平さんと実力派俳優をアンバサダーに起用しており、贅沢に果汁を配合したリッチなイメージをうたっている。さらに、380mlPETと小ぶりなサイズで、希望小売価格は税別150円とやや高めの設定だ。

  • 永山瑛太さん、松田龍平さんが起用されている「ファンタ プレミア」のイメージ

「これまでのファンタは、10代に向けたマーケティングをずっと行っていました。第一弾の『ファンタ プレミアグレープ』から始まる『ファンタ プレミア』シリーズは、従来とは異なる大人向け商品です」と、日本コカ・コーラの河野さん。

新しいターゲットを狙った意図として、30~40代のユーザーを開拓したいとう思いがあったそう。元々、ファンタを飲むユーザーは若者層が多いものの、2015年頃から、健康意識の変化や選択肢の多様化により30~40代の消費量が落ちる傾向にあった。

  • 「ファンタ プレミアグレープ」「ファンタ プレミアピーチ」

「この層を開拓しようとリサーチを行ったところ、『仕事中、15時以降に甘いものを食べて頑張りたい』という方が多いこと、また『価値のあるものは多少高くてもお金を払う』というユーザーの行動が見えてきました」

そう語る河野さんの狙い通り、30~40代のニーズにうまくマッチした。通常、炭酸飲料は1商品で1,000万本販売すると「成功した」と判断されるが、「ファンタ プレミアグレープ」は2020年3月の発売以降、同年11月時点で2,900万本を販売。ここ10年で出したファンタシリーズの中でも、最も売れているそうだ。さらに、10月に投入された「ファンタ プレミアピーチ」は発売2週間で900万本と、これもまた好調だという。

構想・開発3年、果汁たっぷりのファンタを実現

この「ファンタ プレミア」シリーズ、最大の特徴は「濃厚でリッチな味わい」だ。通常のファンタは果汁1%だが、果汁13%という濃度を実現している。さらに、濃厚な飲みごたえの秘密は、果実をすりつぶしたピューレを加えている。

「ピューレが入ると、味わいが変わります。また、果汁と異なりピューレは固形物なので、今までのファンタとは作り方も異なりました。無菌で生産するラインなど、日本コカ・コーラが持つ技術も活かしてリッチな味わいを表現しています」と河野さん。

  • 中身はピューレが入っているため濁っており、濃厚さが感じられる

濃厚な味わいにするためには、単純に果汁の量を増やせばよいというわけではない。果汁・ピューレ・炭酸の強さのバランスを何度も試作してたどり着いた味だという。第一弾のグレープは、構想・開発に3年、試作品の数は60本にも及んだそうだ。

このシリーズの最初に選ばれたフレーバーは「グレープ」。個人的に、ファンタといえばオレンジ、メロン、グレープの3種類のイメージが強いが、その中でもなぜグレープ味なのだろうか。

河野さんに聞いたところ、「日本で売れるファンタで、最も人気のフレーバーが『グレープ』なんです。またぶどうは高級な果物であり、ワインでも使われている"大人らしい印象の果物"と言えます。甘味やほのかな渋みといった、複雑な味を表現できる果物のフレーバーとして選定しました」とのこと。

好調な「プレミアグレープ」を受け、第二弾は「ピーチ」が選ばれた。これは2018年に発売した「大人のファンタ ピーチ」でも好評だったフレーバーで、女性をターゲットにさらに訴求したいという狙いがあったためだという。ピーチの果汁とすりつぶしピューレにより、甘すぎず舌に残らない自然な味わいが特徴だ。

「第二弾ということでプレッシャーもありましたが、『プレミアグレープ』で作った知見を活かしました。また、コミュニケーションの取り方にも変化をつけています。第一弾は大人向けのファンタということ強調し、第二弾はある程度理解してもらった前提で、炭酸ならではのおいしさや果汁感を伝えています」

新たな層へのマーケティングは?

この新商品、ロングセラーのブランドだからこそ、苦労した点も多かったそうだ。

「ファンタは、日本で60年の歴史がありしっかりとイメージが作られているブランドです。そのため『ファンタ』の名前を冠していても、まるっきり異なるものだと違和感を持たれてしまいます。新しいファンタの打ち出し方をどうするべきか、既存のブランド価値をベースにしながらどう伝えていくかは悩みました」

河野さんによると、30~40代で過去にファンタを飲んだ経験のある方は90%以上だという。最近こそ飲んでいなくても、ファンタの記憶があり、ファンタと聞くと興味をそそられる方は多いだろう。そのような方にアピールするためには、ポップな「ファンタ」のロゴマークは欠かせない。「ファンタ プレミア」では、上質で高級なイメージを伝えるために金色のエンブレムのようなデザインに仕上げた。

  • 見慣れているけれどちょっと違う、「ファンタ プレミア」独自の華やかなロゴマークにも注目したい

ロゴだけでなく、パッケージもまたこだわりがある。通常のファンタはビビットではじけるようなデザインだが、このシリーズはゴールドを基調としつつリアルな果実が描かれており、落ち着いた印象。「プレミアピーチ」のピンク色も、かわいらしさより上品さを感じる色合いだ。店頭に商品が並んだ時、「プレミアグレープ」は中身の濃い赤紫色でグレープ色だとわかるが、ピーチ味はひと目でわからないため、色違いや表現違いのパッケージを複数作って検証したそう。

TVCMなどに出演するアンバサダーも、ガラリと変わっている。ターゲットに近い年齢層である30代中盤の方が等身大に感じてもらいつつ、商品の上質感も伝えられるよう、本格派俳優の永山瑛太さんと松田龍平さんを起用。とはいえ一見落ち着いたCMのように見えるが、「ファンタ? もう卒業したつもりだったけど……」と言ってしまう松田さんのセリフなど、クスリと笑える内容だ。

中身のこだわりはもちろんのこと、ロゴ・パッケージ・CMなど、すべてにおいて「大人向けの上質感」と「ファンタらしい遊び心」のバランスを取って開発されていることがわかる。

コロナ禍の影響で「おうち需要」が後押し

「ファンタ プレミア」は開発に3年を要しているため、今回のコロナ禍はもちろん想定外。当初はオフィスで息抜きしたいときや、お菓子を食べるほどではないけれど、ちょっと甘いものが欲しいときにリラックスして飲む……そんなシーンを想定していたという。派手な贅沢はできないが、日々のちょっとしたことで高級感を味わいたい、「プチ贅沢」ニーズの高まりに合わせて企画された。

コロナ禍により在宅勤務にシフトする企業が増え、オフィスでの飲用シーンは減り、苦戦を強いられる……と思いきや、大きな逆風にはならなかったという。

在宅勤務が続くなか、自宅でずっと仕事をしていると気分が晴れなかったり、気分の切り替えが難しいとき、自宅で手軽にリフレッシュしたいというニーズが生まれた。大容量や無糖炭酸水といった炭酸飲料自体の消費量が増えるなか、ちょっと贅沢な気分を味わえる「ファンタ プレミア」はうまくマッチしたと言える。

最後に「ファンタ プレミア」の今後の展開について、河野さんは「大人向けの炭酸市場は、今後も需要が増えると考えています。ファンタはもちろん、フレーバー炭酸飲料に価値を感じてもらえるよう、引き続き展開を強化していきます」と語った。

青春の味だったファンタから、遊び心はありつつイメージを一新した「ファンタ プレミア」。在宅勤務でリフレッシュしたい時、じっくり味わいつつ楽しんでみてはいかがだろうか。