「遵守」と「順守」の正しい使い方を知っていますか? 「法令遵守」や「法令順守」、どちらも日常的に目にすることが多いのではないでしょうか。実はどちらの言葉も基本的に意味は同じですが、公用文やビジネスの場面によって使い分けは必要です。本記事では、それぞれの言葉の違いと使い分け方を解説します。

  • 「遵守」と「順守」違いとは

    言われてみれば違いがわからない2つ。本文を読めば使い分けができるように解説します

「遵守」と「順守」の違いとは

両方とも「きまりに従うこと、違った方向に行かずに守ること」の意味で使われています。このように意味に違いはありませんが、遵守は、順守と比べて厳格に守るという意味が含まれています。漢字の意味を見ていくと少しだけニュアンスが異なってきます。

「遵守」の意味

まずは「遵守」の意味について構成する漢字から調べていきましょう。

「遵守」の「遵」は、漢字の偏が「しんにょう」でつくりが「尊い」の「尊」です。読み方は、音読みで「ジュン」、訓読みで「遵う(したがう)」と読みます。訓読みは常用外で、普段使う読み方には入っていません。使われている場面にはめったに遭遇しないでしょう。しんにょうには、行くという意味があるため、合わせて「尊敬して行く、したがう、信じて進む」といった意味です。

ところで、「尊守(そんしゅ)」という言葉を使っている方もいるのではないでしょうか。「法令を尊守する」は遵守の類語でありそうですよね。しかし、これは誤用です。意味、表記ともに間違っているので使わないように気をつけましょう。

せっかくなので他に遵が使われている熟語も知っておきましょう。主な熟語に「遵法(じゅんぽう)」と「遵奉(じゅんぽう)」があります。遵法は法律を、遵奉は道徳を守るという意味です。

日本史にくわしい方は、「使節遵行(しせつじゅんぎょう)」という言葉を目にしたこともあるのではないでしょうか。これは室町時代に土地の訴訟が起きた時、土地の没収など強制的に命令を執行することです。遵に強い印象を受けますね。

遵守は、法律や規則、さらに道徳の意味を理解し、尊重することで厳格に守っていくといったイメージです。

「順守」の意味

「順」の方が、普段使用する漢字としては馴染み深いかもしれません。「順」の音読みは「ジュン」で、訓読みは「したがう」と「すなお」です。こちらも訓読みは常用外の読み方です。意味は訓読みの通りで「従うこと、素直であること」という意味です。他にも「道筋」、「都合が良い」といった意味もあります。

遵守と比べると規則の意味を理解し、大切に守るということよりも素直に従うことに重きを置いているというイメージです。

「遵守」の代用語として「順守」が広まった

そもそも順守とは、遵守の代用語でした。遵守という言葉は昔からありましたが、順守という使い方の歴史は浅いものとなっています。1954年の国語審議会の「当用漢字表審議報告」がきっかけで順守という表記が生まれました。

国語審議会は現在の文部科学省にある組織で、その中にある漢字部会は日常生活で使用する漢字の範囲を示す「当用漢字」を指定していました。

遵も当用漢字に指定されていたのですが、1954年に出された「当用漢字表審議報告 」の中で、当用漢字から削除される漢字の候補に挙がってしまいました。そこで、業界団体であった新聞協会は、遵に代わって順を代用し始めました。このように、メディアによって順の使い方が広まったのです。

「遵守」と「順守」が混在する理由

先ほど順守が生まれた背景を説明しましたが、現在も遵守と順守は、どちらもよく使われています。なぜ2つとも使われているのでしょうか。

削除が検討されていた「遵」でしたが、結果的には当用漢字から残ることとなりました。現在の常用漢字にも遵は指定され、日常生活でも目にする漢字として使われています。しかし、メディア業界では1954年から現在まで順守を使う慣習は続いており、新聞、雑誌、テレビなどは順守の表記がほとんどです。これが2つの熟語が混在する理由です。

ちなみに「当用漢字表審議報告」の資料によると丹、但、奴、又といった感じも削除候補でした。今もよく使う漢字なので驚きです。こういった日本語の歴史を知るのも興味深いですね。

  • 「遵守」と「順守」違いとは

    「遵」は尊重する、「順」は素直に従うという意味です。この意味を知ると少し使い分けができそうです

「遵守」と「順守」の使い分け方

「遵守」も「順守」も、きまりを守るという意味は一緒で、どちらを使っても間違いではありません。しかし、実は順守を使うことがふさわしくないとされる場面もあるので注意が必要です。ここでは具体的な使い分けのシーンを紹介します。それぞれの言葉を場面に応じて使い分けできるようになりましょう。

公用文で使うのは「遵守」

遵は、古くから使われてきた漢字です。そのため、国や公共団体の正式な文書である公用文は遵守の文字が使われています。学校で使われている教科書も、文部科学省が指定しているので遵守が使われています。

公用文は厳格なルールもあり、漢字も正しく使う必要があります。公務員の方は仕事で公文書を書く機会があるかもしれません。その場合には順守ではなく、遵守を使うように気をつけましょう。

契約書で使うのは「遵守」

取り引きの内容や規約を表した大切な書類、契約書。ビジネスの契約書では遵守を使います。

新聞で使うのは「順守」

新聞では、順守を使います。順守が生まれたきっかけにもあったように、業界内で順守の表記は統一された慣習です。もし、メディア関係の仕事をしている方の場合は、順守を使うことになるでしょう。しかし自作のブログや発行物などのメディアで遵守を使ったとしても間違いではありません。メディアの慣習に従いたいと場合には順守を使うと理解してください。

ビジネス以外ではどちらでも良い

順守は、「元々使われていない言葉だし、公的な文書に使えないということは間違った言葉なのか? 」と思ってしまうかもしれませんが、そういうわけではありません。使い分けはあるものの、基本的には意味は同じなのでビジネス以外ではどちらを使っても差し支えないのです。

契約書も個人間での金銭のやりとりであれば、順守を使っても誤用にはあたりません。LINEやTwitterなどでは、「重たい感じに見えるから順守を使う」「重要な約束だから遵守を使う」と、自分の好きなように使い分けをしてみてもよいでしょう。

  •  「遵守」と「順守」の使い分け方

    公的な場やビジネスの場では遵守が用いられ、メディアでは順守が用いられると覚えておきましょう