一方で、「白い部屋」の人たちの“強さ”は、随所で感じたという。最近、足立区議会議員によるLGBTへの差別的発言がニュースになったが、「特に年配の人たちは、性的マイノリティーとして人生そのものをずっと否定され続けてきたわけですよね。だからある意味、逆境に強いところがあると思うんです。コロナで新宿の“夜の街”が叩かれ、不要不急として営業時間を短縮させられるけど、それにショックを受け止めつつも、“しょうがない。だったらやってやろうじゃないか”という感じがすごくある。そこに、この生き方を選択した人たちの矜持みたいなものを感じました」
ただ、そうやって自分自身は奮起するものの、実際には客が来ないというギャップがある。
「やる気は減ってないんだけど、それが空回りする苦しさというのは、カメラの回ってないところで言っていました。自分は変わってないけど、世間が変わってしまったということのつらさが、あの人たちにとっては大きかったのかもしれないですね」
2年前の密着時に、ベテランキャストが2人亡くなったのだが、今回の取材でコンチママは「コロナの前に亡くなって、ちょっとうらやましいと思うわ」と言っていたそう。二丁目で50年以上営業し、バブル崩壊、リーマンショック、東日本大震災なども経験してきた人のこの発言に、改めてコロナが未曾有の事態であるということを思い知らされる。
■不要不急…自らを見つめ直す機会に
宮井Dは、「白い部屋」への取材と同時期に、NHKの『ドラマ&ドキュメント 不要不急の銀河』(7月23日放送)の制作にも携わっていた。担当したのは、スナック経営の家族を主人公にしたホームドラマを、感染リスクを避けながら撮影した一部始終を記録したドキュメンタリーパートで、「それと今回の取材が、心情的な部分やシチュエーションが重なって、コロナで逆境に立たされた人たちに対する目線を総合的に膨らませてくれた気がします」と、プラスに作用した。
さらに、「スナックを含め、飲食店は本当にどこも大変で、存在意義を問われるようなことになっていますが、実は僕らの仕事も似たようなところがある。なんとなく忘れがちだけど、これは常に問われたほうがいいのではないかと思いながら作っていました」と、自らを見つめ直す機会にもなったそうだ。
18日放送の後編『新宿二丁目とコロナと私』では、コロナに感染したかんたさんのその後のほか、店を辞める人、仕事を変える人、そして「白い部屋」に残る人など、スタッフたちがそれぞれの道に分かれていく姿が描かれる。
「たぶん、見る人の立場によって、誰の身に共感できるかという見方をされる方が多いと思うのですが、自分が思うのと違う道を選んだ人のことを想像しながら見てもらいたいですね。『この人はダメだ』とジャッジするのではなく、『そういう生き方もあるのか』と感じてもらえると思います」と、番組の見方を提案してくれた。
●宮井 優
1983年生まれ、岡山県出身。和光大学に入学し、非常勤講師だった森達也氏の講義でドキュメンタリーに興味を持つ。卒業後、報道番組の制作会社に勤務し、その後フリーのディレクターに。『ザ・ノンフィクション』のほか、『NNNドキュメント』『ガイアの夜明け』、NHK BSプレミアムなどでドキュメンタリー番組を制作する。