「上司の期待に応えるには?」「説得力のあるプレゼンをするためには?」。こうした新人からの質問に、「まずは“仕事の型”をしっかり身につけよう!」とアドバイスするのは、新人時代をマッキンゼーで過ごした人材戦略コンサルタントの大嶋祥誉さん。ここでは、マッキンゼーで学んだ仕事の型の中でも活用の範囲が幅広い「問題解決法」が、すぐに実践できるフレームワークを紹介してもらいました。

■解決策は、モレなくダブリなく立てる!

問題解決に取り組むときの基本は、できるだけ多くのデータや情報を分析して、「これが真の問題だ!」という仮説を自ら立て、その根拠を示すこと。その上で、問題が発生している現状と、あるべき姿とのギャップを埋める具体的な施策を、問題の解決案として主張することです。

この取り組みを始めるとき、最初に注意してほしいのが、「MECE※(ミーシー)」。これは、何かを分類するときの基本になる考え方で、「モレなくダブリなく」ということ。

たとえば、顧客を「男性」と「女性」に分解すれば、モレもダブリもありません。でも、「アウトドア好き」と「登山好き」に分解すると、どうでしょう? 「登山」は「アウトドア」に含まれるので、ダブリがあります。顧客の嗜好は他にもあるので、モレも発生! 万一、モレたところに真の問題があったら、解決策の効果はまったく期待できません。このようにモレやダブリがあると、やり直しなどのロスが発生するので、本当に気をつけたいポイントです。
※MECE:Mutually Exclusive and Collectively Exhaustive

■解決策を、急いで求めない!

次に意識してほしいのが、「すぐに解決策を求めない」ことです。この考えを理解してもらうために、よく引用するのが、「7人の盲人とゾウ」というインドの逸話です。

7人の盲人が旅をしていると、大きな障害物に出くわしました。問題発生! です。この障害物、実はゾウなのですが、盲人にはわかりません。足を触った人は「大木だ」と言って木こりを呼び、鼻を触った人は「大蛇だ」と言って蛇使いを呼んできたのですが、木こりにも蛇使いにもゾウを動かすノウハウがないため、無駄な時間とコストを使っただけ。問題は、未解決のままです。

この話を教訓に学んでほしいのは、自分に見えているのは「全体の一部かもしれない」という発想を持つことです。そこで、さまざまな視点から、全体像をつかむ活動にエネルギーを注いでみる。その結果、障害物がゾウだとわかれば、ゾウ使いを呼んでくることで、問題が解決できるのです。

「売上げが落ちたから、上げるための販促を増やせばいい」という”コインの裏返し”と言われる発想や、「目の前の問題を片づければいい」という“モグラ叩き”の発想も、この逸話と同じ。人間の心理として、問題に出くわすとストレスを感じ、誰もがすぐ解決したいと思うものです。でも、その気持ちをグッと抑えて一旦わきに置き、視野を広くもって問題を見据えてみる。こうして真の問題が特定できれば、適切な解決策が導き出せるのです。

■A4用紙1枚でできる問題解決の必殺ワザ

この作業がラクラクできるフレームワークとして、独自に開発したのが、「問題解決1枚シート」です。

使い方は、とっても簡単。A4用紙に十字を書いて4つに分け、まずは左上スペースの上部に、気になっている問題を1行で書きます。

次に使うのは、左下スペース。いま書いた問題のどこが気になっているのか、なぜ気になっているのかなど、「なぜ?」という問いかけに対する答えを、ガーっと箇条書きします。すると、問題に対する視点が自然と広がり、さまざまなアイデアが浮かんできます。

そのアイデアをもとに問題を再定義すると、それが真の問題なのです! これは、最初に書いた問題と違う場合も、同じ場合もあります。それを右上スペースの上部に書き、同じスペースの空いた部分に、再定義した問題が解決されたときのゴールイメージを書いていきます。

そして右下スペースに、ゴールイメージに向かってやることを書いていけば、それがズバリ、解決策になっているのです!

「問題解決1枚シート」の使い方を覚えれば、ひとりで取り組むことはもちろん、ホワイトボードを利用してチームで考えることもできます。

このフレームワークは、企業研修でも頻繁に使っていて、「簡単で使いやすい」「問題が明確になってスッキリした」「違うことが問題だとわかって良かった」などの反響が寄せられています。

■プレゼンテーションで重宝するフレームワークをチェック!

このほか、身につけると便利に使えるフレームワークが、マッキンゼーの「ピラミッドストラクチャー」と「空→雨→傘のロジック」です。

「ピラミッドストラクチャー」は、底辺に「事実」があり、その上に「理由」を積み上げ、頂点に事実と理由から導いた「主張(解決策の提案)」を載せるフレームワークです。ポイントは、言いたいことを100文字程度の1文にまとめることと、表現をできるだけ具体的にすること。たとえば「斬新」という場合も、「想定外だった顧客層」とか「まったく新しい販売方法」など、具体的な内容に変換するわけです。

このスタイルで解決策をまとめていくと、伝えたいことがひと目でわかり、企画書の骨子にもなります。また、このまとめ方をマスターすることで、メールの書き方も格段に良くなります。

「空→雨→傘のロジック」は、主張が思いつきでないことを証明するストーリーを組み立てるのに有効なフレームワークです。

「傘を持って出かけてほしい」というのが主張だとすれば、必要なのは、その理由を誰もが納得できる根拠のあるロジックで展開すること。〈空に雨雲が出てきた〉→〈よって、雨が降る可能性が高い〉→〈そのため、傘を持っていくべき〉というストーリーで伝えれば、納得してもらえるわけです。

難しいと思いがちな問題解決も、フレームワークの使い方という仕事の型を覚えれば,簡単に実践できるのです。