こうしてでき上がったドラマを見た樅野氏は「めっちゃ泣いちゃったんですよ、デニーズで台本の打ち合わせしながら(笑)。ホンマに、自分はこんなに涙もろいのかって思いましたね」と感激。
また、「最初は、本人が『やめて!やめて!』ってなるVTRになると思ったんですけど、やっぱりご両親に取材していくと、男と女ってみんななかなかすごい恋愛をしてるんですよ。結婚した後も良い話があって、本当にいいドラマを見たという感じでした。藪木さんにこの企画を渡すと、こんな素敵ないい番組になるんだとびっくりしました」と振り返り、「パソコンの中で眠り続けていた企画でしたが、ちゃんと良いところに浄化できたから、ピンとこないテレビのディレクターがいっぱいいて良かったです(笑)」と大満足だ。
家族の歴史を取材してひも解くという番組は『ファミリーヒストリー』(NHK)が先行して存在するが、本格的なドラマを中心に据え置き、スタジオバラエティと掛け合わせることによって、全く新しいものになったのだ。
■第三者が取材することの強み
放送文化基金賞の贈呈式で、樅野氏は「これを機に、私の両親の恋物語を取材してみようと思います」とスピーチしていた。その理由を聞くと、「僕がタレントさんのご両親に取材する以上、自分もやって同じ思いをしようと思ったんです」というが、実際に聞いてみた結果、どうだったのか。
「母親に『こういう両親の恋物語の番組をやってね…』と言いかけたくらいで、『えー!やだやだやだやだやだ!』。それで終わりました(笑)。昔のアルバムとか見ると、サングラスして赤い海パン履いてイケイケの父ちゃんが、浜辺で母ちゃんと2ショットで撮ってる写真があって、どういうカップルだったんだろう……って思うんですけど、頑なに絶対教えてくれないんです」(樅野氏)
この構図も『オヤコイ』のミソで、藪木氏は「子供からではなく、何も知らない第三者からまずアンケートを取って、会わずに電話で話してから……と段取りを踏んだほうが、話せることが多いんです」と解説。どの親も、最初は「大した話なんてないですよ」と謙そんするが、聞き始めるとどんどんエピソードが飛び出してくるそうだ。
ちなみに藪木氏自身、“親の恋愛”に触れた経験があったそう。「子供の頃、姉ちゃんと納戸を引っぺ返しておもちゃを探してるときに、親父がお袋に送った手紙を見つけたんです。東北に2~3日の短い出張に行ってるだけなのに、最後の締めが『美代子(=母親)、お前に会いたい』って(笑)。これは見ちゃいけないパンドラの箱だと思いました」といい、その体験もあって「子供の当事者は恥ずかしい」という感覚をいち早くを理解できたそうだ。
■2つのワイプを映し出す効果
最近のバラエティ番組で、必ず映し出されるスタジオ出演者の「ワイプ」画面。その必要性に疑問の声もあるが、この番組ではマストのツールだ。
藪木氏は「2つワイプを映しているんですけど、1つはずっと“当事者の子ども”、もう1つは“その周りの人”で、リアクションの全く違う2つの顔をチラ見しながらドラマを楽しめるようにしています。ただ、本格的なドラマで極力画を汚さないように画面をL字にして、その外にワイプとテロップを入れています」と狙いを語る。
これにより、「ドラマが2回楽しめるんです」という樅野氏。「両親に予想外の展開があったときに、その前の段階の子供の顔をもう一度見返してみると、その後に何が起こるかが知っているから、すでにグッときていたりするんです。これは新しくて面白いなと思いました」と発見があった。