ランボルギーニのV10エンジン搭載モデル「ウラカン」。ボディタイプはクーペとスパイダーがあり、2014年にデビューした初期の4WDモデル「LP610-4」、2016年のRWDモデル「LP580-2」、2017年の640ps強化版「ペルフォルマンテ」 、2019年の640ps進化版4WD「EVO」、そして今回の後輪駆動「EVO RWD」と多彩なバリエーションを展開してきた。ランボルギーニではその都度試乗会を開催していて、筆者も毎回参加してきたので、ウラカンはかなり親近感が持てる相手なのである(買える、買えないは別にして……)。
各モデルを振り返る
2020年1月の「ウラカン EVO RWD クーペ」ワールドプレミアは、VRを使ったオンライン発表会だった。その内容は「後輪駆動へ立ち戻ろう」というプロダクトに関するメッセージだけでなく、「行き過ぎていたら、立ち止まりましょう」「自分自身を見つめるチャンスはどうですか?」といった感じで、ユーザーの人生やライフスタイルにも訴えかけるようなものだった。まあ、ここで筆者の人生を振り返っても仕方がないので、今回は今までに参加してきたウラカン試乗会の歴史を振り返ってみたい。
ウラカンの最初の試乗会は2014年9月のこと。乗ったのはLP610-4のクーペで、場所は富士スピードウェイだった。1万4,000台以上が生産された「ベビーランボ」こと「ガヤルド」の後継ということで、日本だけでなく、アジア各国からの報道陣が招待された大規模なイベントだったのを覚えている。本コースでの走りは先導車の「アヴェンタドール」についていくというもので、ストレートで時速250キロを軽々と超えるパワーやコーナーでのコントロールのしやすさがはっきりと認識できる、すばらしいプログラムだった。
2015年2月には、米国コロラド州の雪のサーキットを使用して開催された「ウインターアカデミア」に参加。ここではF1パイロットの指導のもと、スーパーカー(LP610-4)で雪上をドリフトしながら走るというとんでもない体験をさせてもらった。
一般道も数多く走った。コロラドの雪のサーキットの後はサンフランシスコに移動して坂の街を走ったり、フリーウェイを走ったり。帰国後、北海道の十勝平野を走るイベントにも参加した。こうして普通の道を走ってみるとよくわかるのだが、ウラカンはとってもユーザーフレンドリーなスーパーカーで、「ストラーダ」モードで走ればエンジン音は控えめで、サスペンションも硬くて手に負えない、という感じにはならない。車高はダッシュボードのボタン1つで上げることができるので、その気になれば通勤や買い物にも使えるというイージードライブを実現していることに気がつく。ガヤルドやアヴェンタドールのステアリングを握った時は緊張感でガチガチになっていたのが、ウラカンでは完全に払拭されているのだ。
2016年6月はLP580-2だ。名前から分かるようにノーマルウラカンの後輪駆動モデルで、会場はあの鈴鹿サーキットである。サーキットホテルに1泊した翌朝からの試乗会は雨模様。ウェットの鈴鹿を結構なレーシングスピードで走るという試乗会では、デグナー出口でお尻を振るという“願ってもない”体験をさせていただいた。
2019年7月には、最終進化版のEVOを富士でサーキットドライブ。同じく12月には、本国イタリアのサンターガタ本社を起点とし、高速道と一般道(片道約350キロ)で雪のアルプスに向かう「クリスマスドライブ」に参加し、EVOのクーペとスパイダーで雪道を走ってきている。
EVO RWDの進化は
こうして数々の試乗会に参加してみると、ウラカンは本当に扱いやすいスーパーカーであり、販売台数の点でもSUVの「ウルス」が出るまではランボルギーニの屋台骨を支える存在だった理由がよく分かる。そして、今回のEVO RWDである。
全長4,520mm、全幅1,933mm、全高1,165mm(スパイダーは1,180mm)のコンパクトで低くワイドなRWDボディのミッドに搭載するのは、最高出力610hp(449kW)/8,000rpm、最大トルク560Nm/6,500rpmを発生する自然吸気の直噴5.2リッターV10エンジンだ。640hpを発生するAWDのEVOに対して30hpデチューンされているのは、ノーマル版のLP610-4とLP580-2の関係と同じで、後輪駆動による軽量化に合わせた自然吸気エンジンの乗りやすさや楽しさを追求した結果であるとの説明だ。
ちなみに性能は、ゼロヒャク加速(停止状態から時速100キロまでの加速に要する時間)がクーペ/スパイダーで3.3秒/3.5秒、同200キロまでの加速が9.3秒/9.6秒、最高時速が325キロ/324キロ、制動距離(時速100キロから停止まで)が31.9m/32.2mなので、不満などあろうはずがない。
「P-TCS」と呼ばれるトラクションコントロールシステムには、RWDモデル専用のチューニングが施されている。一般的なシステムでは急にトルクが遮断され、クルマが完全に安定してから再びトルクを発生させるようなドリフトや横滑りの後の再調整という段階でも、前もって十分なトルクを得ることができる設定となっているので、コーナーを抜ける際のトラクションが向上しているという。
この介入は、ステアリングの「ANIMA」ボタンで選択するドライビングモードによって異なる。「SPORT」モードでは加速時に後輪を横滑りさせて簡単にドリフト走行を楽しむことができる一方で、急激なオーバーステア時にはシステムがこれを検知し、トルクを制限するという設定に。「CORSA」モードにすればクルマのパフォーマンスを最大限に引き出すことが可能で、P-TCSの介入は以前のウラカン RWDに比べて30%もスムーズになり、コーナー出口のトラクションは20%向上し、オーバーステアについては30%向上したとの説明を受けた。
試乗は御殿場のレストラン「桜鏡」を起点とし、まずは御殿場ICから東名、新東名を経て駿河湾沼津SAに向かい、ここでクーペとスパイダーを乗り換えてスマートICから一般道へ降り、再び高速に乗って元に戻るという往復コースだ。
レストランの敷地内ではコックピットのボタンで車高を上げ、縁石に車体をヒットさせないように要注意。一般車に混じって制限速度で走る公道上では、ほんの一部分の性能だけを使って走らざるを得ないのだが、7速デュアルクラッチギアボックスは常に最適のギアを選択し、ムズがることが全くない。EVO RWDは車体の軽さやスムーズなアクセルフィール、スーパーカーにしては見切りの良いボディによって、極めて安心してドライブを楽しむことができるクルマなのだ。
ランボ広報の説明によると、2020年1月にはAmazonとのコラボレーションが成立しており、来年導入するモデルからは音声認識の「アレクサ」が使用できるようになるという。スパイダーモデルでオープン状態にして走っていると、自然吸気エンジンの快音が満ちた車内でその音声認識がどれほどうまく機能するのか少し心配になってくるが、たくさんの物理スイッチの中から音楽やらライトやらの設定を選んで行うというシチュエーションを考えたら、はるかに便利になるのだろう。モデル末期になっても進化をやめないのは、ランボらしさを感じるところでもある。価格は2,653万9,635円(税込)で、AWDのEVOより600万円以上もリーズナブルな設定。清々しい走りのウラカンが、ちょっとだけ身近なお値段で手に入るのだ。
【「ウラカン EVO RWD」画像ギャラリー(ここからの写真は提供:ランボルギーニ)】