――今回のプロジェクトですが、コロナ禍における自粛明けの撮影ということもあり、それまでの撮影スタイルとは違っていましたか?

毎朝検温する、常に消毒する、マスクをつける、普段の現場よりスタッフが少人数であったり、芝居している中でも距離感の取り方だったり、そういう違いはありました。作品の中でどういう風にソーシャルディスタンスを取って芝居をしていくのかということは、ストーリーそのものにもあったので、そういう意味では前例のない作品になっていると思います。

――リモートではなかったのですか?

三木組はリモートではなく、実際に現場で撮影しました。

――今まで通りではない、新しい生活様式の下での撮影について、戸惑いなどはありましたか?

今までの現場ではなかったことに対する戸惑いがまったくないかと言うとウソになるのですが、今回ひとりでの芝居が多かった一方、相手の方がいる時の自分との距離感については、監督が考えてくださいました。どう距離感をもって画面の中の画を作ってくのか、その人物の距離感の図り方は監督から演出を受けていたので、お芝居をする上ではそこまで戸惑いはなかったですね。

――なるほど。それでおひとりのシーンが多かったのかも知れないですね。それは新鮮な体験ではなかったですか?

そうですね。今思うと、新鮮だったような気もします。大変だなっていう感じではなかったです。私自身も、新しいことを受け入れられるタイプでありたいなとは思っています。

――映画界を含め、エンタメ界は厳しい状況に追い込まれていますが、その中心にいる当事者として、現況をどう受け止めていますか?

特にライブや舞台、映画館もクローズしていましたし、今も半分しかお客さんを入れられないとか、大変な思いをしている方がたくさんいらっしゃることは現実としてあると思います。ただ、悲観的なことだけでなく、今だからできることがあるはずで、それこそ今回の作品も、今だからこういう作品が作れるわけで、そういうスタイルで新しいものを作っていけたらなと思っています。日に日にいろいろなことが変わっていってしまうなかで、この先どうなってしまうのかという漠然とした不安はありつつ、エンターテインメントの世界はなくならないと思っています。

――エンタメの必要性を感じる期間でもありましたよね?

そうであってほしいですよね。形は変わってもエンターテインメントの世界は残ってほしいです。

――ステーホーム期間中はどう過ごしていましたか?

そのままですけど家にいて、忙しい時にできなかったことを、たとえば読書をしたり、英語の勉強をしたりしました。でも自分だけではなく、周囲も全部ストップしていたので、穏やかではありました。自分だけが止まってしまうと焦りが生まれてしまったかも知れないのですが、そういう現実として受け入れていましたね。

――コロナ禍を受けて、仕事への想いや意識に変化はありましたか?

私の仕事は求められないとできないものなので、今はいろいろなことが変化している最中でどうなるかわからないのですが、今回『ボトルメール』で久しぶりに撮影現場に行けて、純粋にすごく楽しかったんです。

――素敵ですね。仕事を愛していた自分に気づいたような?

そんなカッコいいものではないですけどね(笑)。でも三木組に参加できたことが、シンプルにうれしかった。だから、すぐ仕事したいなって思いもありつつ、時間があるのであれば、次の作品のために何かを勉強したり、未来の自分のために時間を使いたいなって思います。

――そういう思いがつまった『ボトルメール』ですが、待っているファンの方々にメッセージをお願いします。

観てくださる方たちが、どんな風に作品を受け取ってくださるのか分からないですが、何か肯定的にでも否定的にでも反応してもらえればいいなと思います。どういう風に観るかは自由なので、フラットな気持ちで観ていただければなと思います。ほかの作品を私もまだ観ていないのですが、これだけの監督とキャストが集まって、この短期間にどういうものが作られたのか、私も楽しみにしています。

■夏帆
1991年6月30日生まれ、東京都出身。初主演映画となった『天然コケッコー』(07)で、第32回報知映画賞新人賞、第31回日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞。以降、演技派女優として多彩な作品に出演を重ね、2012年には、ケラリーノ・サンドロヴィッチ演出の「祈りと怪物 ~ウィルヴィルの三姉妹から」で舞台にも初挑戦した。2015年、是枝裕和監督の『海街diary』が第68回カンヌ国際映画祭のコンペティション部門に正式出品され、日本アカデミー賞優秀助演女優賞を受賞。2020年、主演作『ブルーアワーにぶっ飛ばす』では演技が高く評価され、第43回高崎映画祭最優秀主演女優賞を受賞するなど、日本映画界を代表する女優のひとりとして活躍中。公開待機作として『喜劇 愛妻物語』(2020年公開予定)がある。

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