自動車メーカー各社が次々と注目車種を発表し、激戦の様相を呈しているコンパクトSUV市場。「CX-30」で好調な販売台数をキープし、今秋には同セグメントに新型車「MX-30」を導入する予定のマツダは、この市場をどう読み解くのか。CX-30開発主査の佐賀尚人氏に話を聞いた。

  • マツダ「CX-30」

    好調な売り上げを記録する「CX-30」の開発担当者・佐賀氏の目にコンパクトSUV市場はどう映るのか

「CX-3」でコンパクトSUV時代の到来を予見

日本自動車販売協会連合会が発表した乗用車ブランド通称名別順位によれば、2020年1月~6月におけるCX-30の販売台数は1万5,937台。乗用車全体の24位にランクインしている。ほぼ同サイズのトヨタ自動車「C-HR」が1万8,389台(同19位)という結果であることと、新型コロナウイルス感染拡大による業界の苦境を考え合わせると、CX-30のセールスは好調であると見ていいだろう。

  • マツダ「CX-30」

    「マツダ3」に次ぐ新世代商品群の第2弾として2019年10月24日に発売となった「CX-30」(写真は「20S L Package」というグレード)

とはいえ、うかうかしてもいられないのが現在のコンパクトSUV市場だ。6月30日には日産自動車「キックス」が登場し、受注台数は発売1カ月で早くも1万台を突破。今秋以降はトヨタ「ヤリスクロス」に加え、マツダも「MX-30」(マイルドハイブリッドモデル)の導入を控えている。熾烈を極めるコンパクトSUV市場は、佐賀氏の目にどう映っているのだろうか。

「激戦区になりましたね。ただ、来るべくして来たというのが率直な感想です。我々が『CX-3』を出した時(2015年2月発売)っていうのは、コンパクトクロスオーバーはあまり認知されていませんでしたし、ある意味でチャレンジングなところがありました。ですが、乗られている方を見てみると男性女性ともに多かったですし、SUVというよりも、街乗りからちょっとした遠出までできるクルマという感じで乗られていました。それを見て、多分この辺りのクラスには今後、各社から新車が出てくるんじゃないかっていうのは、ある程度は予想していました。ただ、予想していたよりもはるかに多いとは感じますね(笑)」

5ドアのCセグメントハッチバックが、いわゆるファミリーカーのスタンダードだった時から、それにとって代われるだけのポテンシャルをコンパクトSUVに感じていたという佐賀氏。現状を見れば、その予想は的中している。

では、そんなコンパクトSUV市場に投入するにあたり、CX-30ではどのような価値を追求したのだろうか。

「僕はあえて『クロスオーバー』といわせてもらっていますが、それはいわゆるアウトドアに適したSUVというよりも、もうちょっと日常寄りで、普段も使えるし、週末には旅行にも出かけられるという、クルマ本来の楽しみ方ができるカテゴリーだと思っているからです。例えば『CX-30』に乗って家族で旅行に出かけると、楽しい思い出ができますよね。それで、次に乗ってもらった時には、その記憶がよみがえって車内の会話が弾む。それでいて長距離移動も快適であれば、またこのクルマと一緒に出かけたいと感じていただけると思います。そんなところに『CX-30』の価値を見出していただけると嬉しいですね」

  • マツダ「CX-30」

    見た目のサイズ感以上に小回りが利く「CX-30」。細い道が入り組む街乗りもバッチリだ

CX-30に乗れば、楽しかった記憶を思い出す――。まるで、どこかの有名ブランドの『香水』のようだが、言わんとしていることはそういうことだろう。

このクルマを作るに際して、開発チームがチャレンジしたのはデザイン、室内パッケージ、動力性能の3つの融合だったという。クルマに乗ってもらうには、かっこいい方がいいのは当然の話。しかし、造形を優先すれば、どうしても室内パッケージに影響が及び、ファミリーカーとしての使い勝手を損ねてしまう。だからこそ、そこの融合は絶対だった。

「この点については、企画段階からかなり知恵を絞ってやりました。『CX-30』の価値というのは、いつも我々開発陣が熱く語っているところなのですが、運転が楽だとか、助手席の人やお子さんが車酔いをしないとか、そういう部分でも感じていただけると思います」

  • マツダ「CX-30」

    ミリ単位以下にまでこだわったというサイドボディーの造形。風景がS字ラインで映り込み、旅行先の景色に自然と溶け込む

価格比較ではわからない本当の価値

気になるのは価格だ。CX-30の上位モデルは「20S L Package」(ガソリンモデル)が303万500円、「XD L Package」(ディーゼルモデル)が330万5,500円、「X L Package」(新世代エンジン「スカイアクティブX」搭載モデル)が371万3,600円となっている(いずれも4WD車の価格)。これらの価格設定は他社モデルと比べて割高な印象がある。競合車がひしめくコンパクトSUV市場では、大きなハンデにならないのだろうか。

「価格自体は他社さんと比べると高めになっていますが、その分、スタンダードでいろんな装備を付けています。これが良かったか悪かったかはわかりませんが、新世代の『マツダ3』や『CX-30』では、我々が開発してきたモノを全て、トータルパッケージでお客様にお届けしたいという思いで、こういう戦略を取らせてもらいました。クルージング&トラフィック・サポート(CTS)以外の安全装備に、アクティブ・ドライビング・ディスプレイ(いわゆるヘッドアップディスプレイ)や車載通信機などもほとんど全部標準で付けているので、建値で見られちゃうと確かに高いですが、実はそれほどではないのかなと。価格だけを比べるのではなく、内容を見ていただければ十分に勝算はあると考えています」

実際に購入したユーザーからは、「この値段でこれだけ付いている」ことを評価する声が届いているそうだ。

「ディーラーは全く怖いところではないので(笑)、できれば一度、足を運んでもらって体感していただきたいですね。今はどこにでも『CX-30』の試乗車がありますし、実際に見て、試乗して、説明を聞いていただければ、きっとわかってもらえると思います」

  • 「マツダCX-30」

    マツダ期待の新世代エンジン「スカイアクティブX」。どのようなエンジンかと尋ねると、「スルメイカのようなエンジン(笑)」という回答が得られた。その意味は、乗れば乗るほどにその良さがわかるからだという

最後に、ガソリンモデル、ディーゼルモデル、スカイアクティブXモデルというラインアップの中で、ユーザーはどのようにクルマを選択するべきなのかを聞いてみた。

「よく聞かれるんですが、それはお客様の使い方で選んでいただければいいと思います。街乗り中心の方は、やっぱりレスポンスがしっかりしているガソリン。長距離を乗られる方は高トルクで力強い走りのディーゼルがいいと思います。そして、クルマとシンクロした感じといいますか、クルマの味そのものを楽しみたいという方にはスカイアクティブXをオススメします。スカイアクティブXの味付けが、やはり今のマツダの技術を凝縮したものなので」

  • マツダ「CX-30」

    クルマが家族や友人のような存在になることで、いつもより遠くに出かけたり、途中で寄り道したくなる。そんなクルマ本来の魅力を「CX-30」では追求したという(写真は「X PROACTIVE Touring Selection」というグレード)

今回はインタビューと併せて、マツダがメディア向けに実施した1泊2日の試乗会にも参加してきた。佐賀氏が挙げたCX-30の価値を実際に体感してみた感想は、追ってレポートしたい。