チューリッヒ保険会社は、今年で3年目となる、全国のドライバーを対象とした「あおり運転実態調査」を実施し、結果を公表した。同調査は2020年6月13日〜6月14日、1週間に1回以上運転している全国のドライバー2,230人を対象に、インターネットリサーチにて実施。なお今回の調査結果に関して、九州大学大学院システム情報科学研究院教授 志堂寺和則氏が見解を寄せている。

  • あおり運転の厳罰化を盛り込んだ改正道路交通法の成立を知っているドライバーは約8割

近年、悪質なあおり運転に起因する事件、事故が多発し、社会問題となっていることから、人々のあおり運転に対する関心が高まっている。これを受けて警察庁は2018年1月、あおり運転などの危険運転に対して厳正に対処するよう全国の警察本部へ指示を出し、危険運転致死傷罪・暴行罪など、道路交通法違反のみならず、あらゆる法令を駆使して、取り締まりを強化してきた。そして2020年6月に、あおり運転の厳罰化を盛り込んだ「改正道路交通法」が衆院本会議で可決、成立し、同年6月末に施行となった。

この「あおり運転の厳罰化を盛り込んだ改正道路交通法」の認知について、知っているドライバーは78.8%と、悪質なあおり運転に対する、より厳しい罰則への関心の高さがうかがえる。前年の調査で、警察庁によるあおり運転に対する道路交通法の改正検討について知っているかとの質問に対し、知っていると回答した人より、3.3ポイント増え、引き続き関心の高さが示された。

今年の調査で、あおり運転の厳罰化により、76.9%のドライバーは危険運転が減少すると考えていることがわかり、法改正への期待の高さがうかがえた。一方で、減少しないと答えた理由として70.1%が「危険な運転をする人の心理や行動は変わらないと思う」からと答え、法改正だけでは払拭できない、ドライバーのあおり運転に対する不安が感じられる結果となった。

  • あおり運転の厳罰化により、危険運転が減少すると思うドライバーは76.9%

  • 減少しない理由、「危険な運転をする人の心理や行動は変わらないと思う」が最多に

九州大学 志堂寺教授の見解:「今回の改正であおり運転が法的に定義され、厳罰化されたことにより、警察は取締やすくなり、軽い気持ちであおり運転をしているドライバーに対しては抑止力が働くと思われます。しかし、アンケートでのご意見にもありますが、人間の心理、特に衝動的になったときの心理のパターンを変えることはなかなか難しく、あおり運転が大きく減少するという状況までにはならない可能性も高いように思います。このため、今後も継続して、あおり運転に対する自衛をする必要があります」。

あおり運転をされた経験があるドライバーは、57.9%と、前年の調査の59.8%からほぼ変わらず高い結果に。また、あおり運転に関する多くの報道や法改正の動きがあるにもかかわらず、24.4%のドライバーが1年以内にあおり運転をされたと回答している。

  • あおり運転をされた経験があるドライバーは約6割と、前年から変わらぬ結果に

  • 近年の報道や法改正の動きにも関わらず、1年以内に被害を受けたドライバーが多数

あおり運転に遭遇した時に受けた被害について聞いたところ、1位は「あなたの自動車に激しく接近し、もっと速く走るように挑発してきた」(73.5%)、2位は「車体を接近させて、幅寄せされた」(25.3%)となり、前年同様に「車体を接近」させる行為が最も多い結果となった。

  • あおり運転被害、車体を接近させる挑発行為が上位を占める

また、あおり運転を受けたときにとった対処法は「道を譲った」(43.8%)が最も多く、次いで「何もしなかった」(39.5%)、3位に「ドアや窓を完全にロックして閉めた」「他の道に逃げた」(各11%)と、前年に引き続き「やり過ごす」対応をとったドライバーが目立つ結果となった。

  • 被害を受けた際は「やり過ごす」対応をとったドライバーが多い傾向に

九州大学 志堂寺教授の見解:「『やり過ごす』対応で正解です。あおり運転を受けたときは、あおり返すといった火に油を注ぐ挑発的な行動は絶対に避けてください。相手は理性を失っています。被害を受けないために、あおってくる車と距離を取ることが大切です。警察に通報するようなことは普段はないため躊躇してしまいがちですが、あおり運転を受けた場合は、警察に通報することを思い出してください」。

あおり運転をされたきっかけとして思い当たることを聞いたところ、スピードや進路変更がきっかけと感じているドライバーが多くみられた。

  • あおり運転をされたきっかけは、スピードや進路変更が上位を占める

また、あおり運転を受けたことがあるドライバーに、あおり運転をされないように工夫していることを聞いたところ、上位は「車間距離をしっかりとる」(57.8%)、「ウィンカーは早めに出すようにしている」(40.5%)、「周囲をよく見て、相手に譲るようにしている」(36.5%)となり、周りのドライバーを気遣い、刺激しない運転を心がけている人が目立ちました。前年は22.8%だった「ドライブレコーダーを設置した」が本年は35.5%と、自衛のためにドライブレコーダーを設置する人が増えている。

  • 被害にあわないための工夫、上位は「周りを気遣い、刺激しない」運転

九州大学 志堂寺教授の見解:「あおり運転にあうときには、多くの場合は何かきっかけがあったと考えられますが、あおられた方は気がついていない場合もあります。また、あおるドライバーの認識の問題で、あおられたドライバーが悪かったとは限りません。きっかけを作らないためには、基本に忠実な運転をすることが一番です。『工夫していることTOP5』に挙がっている事項はどれも、効果があると思いますので参考にしていただき、あおり運転にあわない運転を心がけていただきたいと思います」。

現在の社会状況を鑑み、これまで公共交通機関を使っていた場面においても、新型コロナウイルス感染症の予防として車の利用が増えるかを聞いたところ、76.5%のドライバーが自家用車の利用が増えると考えている。同社では、「車利用の頻度が上がることが予想されるため、あおり運転を含め、安全運転対策が引き続き重要であると考えられます」と指摘している。

  • 新型コロナウイルス感染症予防として、公共交通機関の代替として車利用が増えると考える人が76.5%