――声優キャストで見ると、おぎやはぎの小木博明さんのお名前が意外でした。

柴山:これはデザイン先行なんです。キャラクターデザインの池田由美さんに発注する際に、「有名人の方を参考にすると描きやすいかもね」というお話になったんです。ですから、ほかのキャラクターもモチーフは誰かな?と想像しながら見るのも面白いかもしれませんね。そこで先生は小木さんモデルでと。演出の清水勇司さんが小木さんのファンだというのもあるのかもしれません。

佐藤:セリフが少ない役なのでやっていただけるかわからなかったのですが、お願いしたところ受けていただけました。先生役なので、朝のあいさつのパターンもたくさん録っていただいたのですが、作中ではバランスを取るために少なくなっているので、もしかしたら小木さんからするとずいぶんオミットされているなと感じられるかもしれませんね。

――主題歌「花に亡霊」挿入歌「夜行」エンドソング「嘘月」は、特に若者に人気のアーティスト・ヨルシカの楽曲で、劇中でどのようになっているのかも注目ですね。

柴山:音響監督を佐藤監督がやられているのですが、最初にヨルシカさんに説明があった時に、「あまり作品に寄り添いすぎずに」というお話があったんです。そのことが印象に残っていたのですが、ヨルシカさんから最初に「夜行」が上がってきたときに納得しました。画に合わせた時に広がっていくイメージが気持ちよくて、佐藤監督はこれを狙っていたのかなと思って勉強になりました。

――佐藤監督はそうした狙いがあったのでしょうか。

佐藤:僕は最初、ヨルシカさんのことを知らなかったんです。でも、聴いているうちに若い人にすごく人気があるというのがわかる気がしました。最初は世界観がつかみにくかったんです。でも、聴いていると理路整然と語らないというか、楽曲の中ですべてが描写されているのではなくて、全部を聴くとその外が気になるというか、歌われていない風景がすごく見えてくるというのがありました。歌詞って、言葉をチョイスして組み木細工のように組み立てていくものだと思うんです。ヨルシカさんの場合、組み木細工だけじゃなくて、それがどこに置かれているんだろう、誰のものなんだろうということが見えてくる歌だなという印象でした。

ですので、今回お願いする楽曲も、ムゲと日之出が(作中では)こうだったよねというところを描くのではなく、これからどうなるのか、10年くらい後のイメージが広がるといいなと思っていました。いただいた楽曲はまさに映画のできごと全体を10年後から振り返ったかのような風景が見えた。それは最初から狙ったものではないのですが、柴山監督が言うように、画と合わせることでパッと生まれてくるものなのかもしれません。

――「寄り添わないで」ということはいつも言われるんですか?

佐藤:そうですね。合わせてしまうとどうしても映画で言ったことをもう一度語るみたいになってしまう。映画で語られることは語られてしまっているので、そうじゃない風景がほしいんです。何が見えてくるかはわからないんですけれど、画と一緒になったからこそ見えてくるもの、それがほしいんですよね。

――構成上、ストーリーのクライマックスと音楽と作るクライマックスは別だったりするのでしょうか。

佐藤:同じときもありますし、90分あれば中ほどの山のところで作ることもあります。主人公たちの心情をフォローするような楽曲と合わせることで、描かれるシーンの印象をぐっと強くすることができますからね。

――あらためてお二人から見どころを教えていただけますでしょうか。

佐藤:この映画は、まわりの人とどうやればうまくやっていけるんだろうという個人的な感情の動きが描かれています。見方を変えたら幸せになるかもよというメッセージもありますが、軽い気持ちで気楽に見ていただきたいですね。

柴山:映画から配信ということでお届けする形式は変わりましたが、お伝えしたいメッセージや描きたかったものはまったく変わっていません。そして、こうした状況のなか、新作映画をお届けできることをうれしく思っています。ぜひご覧ください。

(C) 2020 「泣きたい私は猫をかぶる」製作委員会