フェラーリの新型車「ローマ」は「カッコいい!」の一言に尽きるクルマだが、スーパーカーファンには若干、押し出しの強さが足りないクルマに見えるかもしれない。いかにもな派手さで勝負するのではなく、あくまでエレガントな1台に仕上がっているからだ。フェラーリというブランドにとって、ローマはどういう意味合いを持つクルマなのだろうか。

  • フェラーリ「ローマ」

    今どきのスーパーカーとは別路線? フェラーリ「ローマ」とはどんなクルマか

“ザ・フェラーリ”ともいえそうなデザイン

ローマのスタイリングは、一言で表現するならば「カッコいい」に尽きる。ただ、クルマ好きの視線でみれば、近年のフェラーリとは少し毛色が異なると感じるはずだ。

近年のフェラーリは以前と比べると、かなり立体的な形状を取り入れ、そのデザインからもパワーを放つような刺激的なカタチのクルマを作っていた。誤解を恐れずにいうならば、派手で押し出しの強いデザインが主流になっていたといっていいだろう。昨今のスーパーカーのトレンドは、まさに、その路線なのだ。

  • フェラーリのスーパーカー

    立体的な形状を取り入れた近年のスーパーカーを見ると、「ローマ」が異色の存在であることがよく分かる

しかし、今回のローマは、イタリアの首都であり原点ともいえる歴史深い街の名を冠していることからも分かる通り、イタリア生まれのフェラーリの魅力を改めて追求するクルマに仕上がっている。そのコンセプトはイタリア語で「La Nouva Dolce Vita」(新しい甘い生活)。これは、1950年代~60年代におけるローマの自由なライフスタイルを現代的に再解釈したものだという。

この時代へのオマージュは、フェラーリ社の歴史とも関係がありそうだ。同社の創業は1947年。1950年からは、市販車の製造・販売に本格的に取り組みだした。順風満帆とはいかず、経営危機が訪れたこともあったが、その後のフェラーリ社の栄光へとつながる大切な時間だったのである。

この頃の市販車は、富裕層のための上品で高性能なGT(グランツーリスモ)で、性能の高さはもちろんのこと、エレガントであることも重視されていた。今回のローマは、内に秘めた高い性能と周りを魅了する美しいデザインを現代的に再解釈したモデルなのだ。

  • フェラーリのGTカー

    上品で高性能なフェラーリのGTカーは、栄光の歴史の礎となった

基本のデザインは、ファストバッククーペのスタイルとなっている。リヤガラスがなだらかな傾斜を描き、トランクは目立たない。長いボンネットとキャビン、トランクルームを一体化させ、コンパクトに見せることで、クラシカルなクーペスタイルを実現している。また、エレガントさを高めるため、デザイナーは、性能に関するもの以外の不要な凹凸やエアインテーク(空気の取り入れ口)などを一切排除したそうだ。このため、すっきりしているのに品格を漂わせるデザインとなっている。

  • フェラーリ「ローマ」

    ファストバッククーペのスタイルが品格を漂わせる「ローマ」

落ち着きある佇まいだが超ハイテクなキャビン

インテリアには最新フェラーリの技術が惜しみなく投入されている。多彩な表示が可能なフル液晶メーターパネル、運転操作に必要な操作系を集約したF1マシンのようなステアリング、縦長ワイドなタッチスクリーンなど、最新機能が満載だ。ただ、ダッシュボードのデザインに奇抜さなく、トランスミッションのシフト操作にはMTのゲートを彷彿させる「H」パターンを模したレバー式を採用するなど、クラシカルな演出も施されている。

  • 最新機能とクラシカルな演出が施されたパーツが同居する「ローマ」のインテリア

シートレイアウトは4人乗りだが、フェラーリが「2+」と表現するように、後席はあくまでエマージェンシーシートだ。この手のクルマの後席は手荷物置き場となることが多いので、問題はないだろう。またトランクルームは完全に独立しており、小型のキャリーケース2個が収まるスペースを確保している。

  • フェラーリ「ローマ」

    グランツーリスモ(GT)は長距離のドライブを想定した車種だ。「ローマ」にも2つのキャリーケースを積み込むことができる

もちろん性能は超一流!

ローマが搭載するのは、最新フェラーリの主力のひとつである3.9LのV8DOHCターボエンジンだ。トランスミッションは最新式の8速DCTとなる。最高出力620CV/5,750~7,500rpm、最大トルク760Nm/3,000~5,750rpmを発揮し、その実力は停止状態から時速100キロまでの加速(ゼロヒャク加速)が3.4秒、最高速度は時速320キロという、超一流のスポーツカーに仕立てられている。ロングドライブも快適な高性能GTのローマだが、最新のマシンコントロール技術を搭載することで、サーキットでは後輪駆動の特性をいかしたアグレッシブなスポーツ走行も楽しめる。

  • フェラーリ「ローマ」

    エレガントなたたずまいでありながら、搭載する3.9LのV8DOHCターボエンジンは超高性能だ

ターゲットは生粋のフェラーリファン!?

往年のフェラーリの魅力を現代的にアレンジしたローマ。そのお値段は2,682万円だ。価格だけをみれば超高価の一言に尽きるが、フェラーリというブランドで考えれば、ローマはエントリーモデルに近いポジションとなる。同じV8ターボエンジンを搭載する後輪駆動車であり、電動格納ルーフのオープンカー「ポルトフィーノ」が2,631万円だから、ローマは少し割高にも思えるが、最新技術とデザイン代と考えれば、その価格差はむしろ小さく、バーゲンプライスといえるかもしれない。

  • この「ポルトフィーノ」と比べれば「ローマ」は少し割高だが、技術面の進化などを考慮するとバーゲンプライスかも?

それだけに、フェラーリオーナーや購入検討者からの反応はかなり良いと聞く。何よりも、最新フェラーリで薄まったエレガントさを前面に打ち出したスタイルは、熱心なファンにはたまらないものがあるはずだ。

ただ、スーパーカー全般を対象に購入を検討している顧客には、派手さや押し出し感の薄さが不満にも映るだろう。性能やインパクト重視のユーザーには、スポーツ性を前面に打ち出したV8のミッドシップモデル「F8トリブート」やV12エンジンを搭載するフラッグシップモデル「812スーパーファスト」などの選択肢もあるし、同価格帯であれば、クーペとオープンカーの2台分の魅力を1台で味わえる「ポルトフィーノ」も魅力的に感じるだろう。

そういう意味でローマは、往年の熱心なフェラーリファンに向けたプレゼント的な要素を持つクルマであるとも考えられる。また、スーパーカーの今後のトレンドを探るスタディーとしての役割も担っているのだろう。何はともあれ、ローマへの反響が今後のフェラーリデザインに影響を与える可能性は高い。

  • フェラーリ「ローマ」

    「ローマ」はフェラーリファンへのプレゼント的なクルマ?

“ザ・フェラーリ”の決定版としては「ラ・フェラーリ」という特別なモデルが存在するが、ローマは、もうひとつの“ザ・フェラーリ”と表現できるのではないだろうか。ローマを見ていると、個人的には懐かしいフェラーリたちの姿を思い出すことができた。新しくもノスタルジーを誘うのが、ローマという最新フェラーリの魅力なのだ。