「改正健康増進法」への理解がまだまだ進んでいないようだ。社会の禁煙化は年々加速してはいたが、今年4月に施行された健康増進法の改正によって、「屋内は原則的に禁煙」というルールが初めて法律で制定された。喫煙者にとって、その影響は決して小さくない。

にも関わらず、いまいち周知されていないのは、施行されたのがコロナ禍のもっとも深刻な只中にあったからだと思われる。当時は喫煙所自体の使用が禁止になっていた場所も多く、飲食店の利用も激減していた。つまり、改正健康増進法の影響が表に出てくるのはこれからが本番だと言える。

「屋内原則禁煙」とは言っても、いくつかの例外もあるが、それを知らないようでは喫煙者も非喫煙者も損することになりかねない。ここで改めて改正健康増進法について概要を見てみよう。

改正健康増進法、「内容を知っている」はわずか5割弱

今年のゴールデンウィークにマイボイスコム株式会社が約1万人に実施したタバコに関するアンケート調査によると、改正健康増進法の認知率は7割強。と言っても、「聞いたことがある程度」が約半数を占め、「どのようなものか、内容を知っている」と答えたのは全体のわずか25.5%。喫煙者に限っても5割弱にとどまったという。

調査によると、飲食店などを利用する際に店内が禁煙かどうかを気にする人は約7割にのぼっているそうだ。それでも「屋内原則禁煙」を決めたこの法律があまり認知されていないということは、情報が適切に行き渡っていないという事実を示している。

喫煙者にとって、どんな場所なら喫煙できるのかは必ず知っておきたい情報だ。そして、非喫煙者も同様に、どんな場所なら煙を気にすることなく利用できるのか、しっかり把握しておきたいところだろう。

ちなみに、この調査によると、喫煙者が普段吸っているたばこのタイプは「紙巻たばこ」が83.9%、「加熱式たばこ」が31.7%。20~40代の若い男性に限れば、「加熱式たばこ」が4割弱となっているそうだが、実は、改正健康増進法は、「加熱式たばこ」ユーザーを少し優遇する制度となっている。しかし、今回の調査結果を見る限り、そうした事実もあまり知られていないようだ。

【調査対象】「MyVoice」のアンケートモニター
【調査方法】インターネット調査(ネットリサーチ)
【調査時期】2020年05月01日~05月05日
【回答者数】10,307名

屋内は原則的に禁煙。でも「喫煙専用室」は例外

「屋内原則禁煙」のルールは、基本的に飲食店からショッピングモール、空港など、すべての屋内に適応される。ただし、喫煙室などを利用することで、屋内での喫煙が例外的に認められるケースもある。その内訳はなかなか複雑なのだが、いくつかポイントを押さえておくだけである程度の検討はつくようになるはずだ。

例えば、駅前の大きなテナントに出店しているチェーン店ような「規模の大きな店」は、今も「喫煙専用室」、または「加熱式タバコ専用喫煙室」でタバコを吸うことが可能となっている。ただし、喫煙室は壁で仕切られた独立空間になっている必要があり、“基本的に”喫煙室内での飲食は認められていない。

この喫煙室の構造にも厳格なルール(煙の流出防止や排気設備の設置など)が定められているため、設置の費用も大きな負担となる。実際、大手チェーン店でも今回の法改正を契機に完全禁煙に移行するケースも増えている。メジャーなところで言えば、サイゼリヤなどは禁煙化を急速に進めており、喫煙室も設けていない店舗もかなり多くなっているという。

カラオケ店も熱視線。飲食もできる「加熱式タバコ専用喫煙室」

さて、先ほど「“基本的に”喫煙室内での飲食は認められていない」と記したが、加熱式タバコ専用喫煙室は少し事情が違う。

アイコスやグロー、プルーム・テックなどの加熱式タバコは、「喫煙専用室」だけでなく、「加熱式たばこ専用喫煙室」でも喫煙できる。「喫煙専用室」は先述のとおり飲食は不可だが、「加熱式たばこ専用喫煙室」は飲食も可能となっている。これは喫煙者にとって、このうえなく大きなメリットである。

もちろん、一般エリアから完全に独立していて、構造上のルールも満たす必要はある。イメージとしては、ガラスで覆われた大きな喫煙エリアそのものを「加熱式たばこ専用喫煙室」と見做すことができるのだ。

実際、大手カラオケチェーンのビッグエコーは、フィリップモリスジャパンと組み、「加熱式たばこ専用フロア」を導入。例えば全4フロアの場合、最上階の4階全体を「加熱式たばこ専用フロア」として指定し、4階の各カラオケルームを「加熱式たばこ専用喫煙室」に変更。歌いながら飲食し、しかも加熱式タバコを吸うことができる。

「煙のない社会」の実現を掲げるフィリップモリスジャパンは今回の法改正を受け、各企業の喫煙環境の整備を積極的に実施。ビッグエコーのようなカラオケ店を始め、コーヒーショップや居酒屋などから「加熱式たばこ専用喫煙室」の設置に関する問い合わせも増えているという。

小型飲食店は今も喫煙OKだけど将来的には……?

「屋内原則禁煙」となった今も、バーやスナック、タバコ販売店などはこれまでどおりのルールと変わらない。つまり、紙巻きタバコでも加熱式タバコでも、テーブルで自由に喫煙ができるのだが、これは「タバコがあるから成り立つ店」と判断されたためだ。どうしてもお酒と一緒に喫煙を楽しみたいなら、行きつけのバーを確保しておくことをおすすめしたい。

また、個人経営店のような、店内面積や資本の規模が小さい小型の飲食店での喫煙もこれまでどおり可能。こちらは小型店の店内に喫煙室を置くスペースがなかったり、禁煙化することで経営的なダメージを被る可能性を見越したうえでの配慮である。つまり、あくまで経過措置。よって、法改正後に新規オープンした小型店はこの限りではなく、屋内で喫煙するには喫煙室の設置がマストとなっている。

コロナ禍で世界中が混乱している最中、日本では急速に喫煙場所が減った。将来的には小型店も喫煙室の設置が義務化されるはずだし、特に紙巻きタバコ派はより一層厳しい状態に追い込まれることになる。加熱式タバコユーザーへの優遇措置は、禁煙社会から喫煙者に掛けられた最後の温情かもしれない。