ここ数年は、ちょっとした「睡眠ブーム」です。そんな流れのなか、新型コロナウイルスの感染拡大によって自宅で過ごす時間が増えていることもあり、睡眠への注目度がより高まっています。そんな睡眠に関する書籍や快眠グッズ等のうたい文句に必ず登場するのが、「良質な睡眠」という言葉。ただ、そもそも「良質な睡眠」とはどんな睡眠を指すのでしょうか? 

17の企業を受け持つ産業医として活躍し、睡眠を専門のひとつとする穂積桜先生に話を聞きました。桜先生によれば、睡眠の質を上げる鍵となるのは「光のコントロール」なのだそう。

睡眠時間は最初に確保しておくべき「固定費」

睡眠ブームともいえるいま、書店には睡眠に関する本がたくさん並んでいます。でも、残念なことに、それらのなかの一部には……時間に追われる多忙な現代人を対象に、「いかに短時間で効率的に睡眠をとるか」という内容を説いているものも存在します。

医師の立場からみなさんに伝えたいことがあります。睡眠時間とは、家計における光熱費や家賃と同じように、1日24時間のなかから最初に確保しておくべき「固定費」のようなものだということです。そうでなければ、睡眠が持つ「心と体のメンテナンス」という役割を十分に果たせません(参照)「日本人の睡眠は世界最短って知っていた? 睡眠はお金いらずの「最高の薬」。ですから、「良質な睡眠」とは、一定時間以上のものでなければならないのです。

パフォーマンスを上げることや体調をベストコンディションに持っていくために必要な最低睡眠時間は、わたしの考えでは6時間。アメリカで行われた大規模な調査では、人がもっとも長生きできる睡眠時間は7時間だという結果が出ています。でも、多忙な現代人が、いきなり7時間の睡眠時間を確保するのは難しい。そこでせめて、「6時間を目指してほしい」と産業医面談などでも伝えています。

もちろんこの時間には個人差がありますから、良質な睡眠を取るためには、自分に必要な最低睡眠時間を知ることが大切です。そのための鍵が、「午前中や昼食後の眠気」です。睡眠不足の場合の眠気は、午前中や昼食後に出やすいからです。数日間、睡眠時間を少しずつ変えつつ、翌日の「午前中や昼食後の眠気」をチェックしてみてください。

眠気を感じなくなれば、その時間こそがあなたにとって必要な最低睡眠時間です。できれば、数日にわたって試してみると、眠気の感じ方のちがいをよりはっきりと感じられるはずです。

ただ、きちんと必要な時間の睡眠をとっていても、「日中に生理的に眠くなる時間」があるということは知っておいてほしいですね。その時間帯は、起床から7〜8時間後。一般的には、だいたい正午から午後2時くらいまでのあいだです。これは自然な生理作用ですから、なんの問題もありません。でもそのときに、10〜20分程度の仮眠をとってもまだ眠気が強く残るようなら、やはり睡眠が足りていないと考えていいでしょう。

適切な時間に光を浴びて「睡眠ホルモン」を分泌させる

また、自分が良質な睡眠を取れているかどうかを確認できるチェック方法も紹介しておきましょう。これは、睡眠研究で世界的に有名な、アメリカのスタンフォード大学の研究で示されたもの。自分の睡眠について、以下のチェック項目を満たしているかを確認してみてください。

□ ベッドに入って30分以内に眠れる
□ 睡眠中、起床までに起きる回数が1回以下
□ 「眠っている時間」が「ベッドのなかで過ごす時間」の85%以上

ベッドに入ってからも、何度も寝返りを打つなどしてなかなか眠れない人はいませんか? そういう人は、たとえベッドに入ってから起きるまでの時間が6時間以上だったとしても、あまりいい睡眠をとれていない可能性が高いといえます。

そういう人なら、それこそ「良質な睡眠をとるための方法」を知りたいですよね。そうするために、なにより大切になるのが「光のコントロール」。わたしたち人間の体は、光によって体を覚醒させたり眠気を感じたりするようにできているからです。

起床後に太陽の光を浴びてから一定の時間が経つと、「メラトニン」というホルモンの分泌がはじまります。「睡眠ホルモン」とも呼ばれるメラトニンは、その名のとおり、眠気を誘発して睡眠を深く良質なものにする作用があるホルモンです。その分泌がはじまるのは、太陽の光を浴びてから14〜16時間後のこと。夜11時に気持ちよく寝たいのであれば、朝の7〜9時には朝日を浴びておく必要があります。

良質な睡眠を取れるかどうかが、習慣化の第一歩

新型コロナウイルスの影響で以前に比べ外出する機会が減っているいまは、光のコントロールをより強く意識する必要があります。メラトニンの分泌をしっかり促すには、光の強さの他、光を浴びる時間の長さもポイントになるからです。良質な睡眠をとるために、人が少ない早朝に数十分の散歩をするなどして、明るい朝日を浴びるような習慣があるとベストだと思います。

そして、意識すべき光は太陽の光だけではありません。いま、わたしたちのまわりには、電灯にテレビ、パソコンなどが発する「人工の光」があふれています。それらの光を寝る直前に浴びてしまうと、脳は「朝だ!」と勘違いしてしまう。そうならないように、寝る前の時間帯にはなるべく明るい光を浴びないようにしてください。

とくに、スマホの扱い・光に要注意です。いま、若い世代のスマホ依存が進んでいることが世界的に問題視されていますが、これは良質な睡眠をとるという観点からも大問題です。パソコンやスマホなどが放つ光には、メラトニンの分泌を抑制し、覚醒させる作用が強い「ブルーライト」と呼ばれる青系の色の光が多く含まれるからです。

そうはいっても、いまこの時代に「もう、スマホを手放しましょう!」とはわたしもいえません。そこで、スマホとうまくつきあっていくことを考えてほしいのです。まずは、夜になったらスマホを「ナイトシフトモード」にして、スマホが放つブルーライトを減らす工夫をする。

そして、寝る1時間前になったら、だらだらとスマホを見続けるような使い方を避ける。もちろん、ベッドにはスマホを持ち込まない、といったことです。

こういったルールを自分に課して、よりよい習慣を身につけ、スマホをだらだら見続けるような悪いとされる習慣をなくすようにセルフコントロールすることも、とくに若い社会人にとっては大切なことであるはずです。限られた時間をどう使うのかということが、今後の長いキャリアの成否をわけるのですから。

構成/岩川悟(合同会社スリップストリーム) 取材・文/清家茂樹 写真/櫻井健司

穂積桜(ほづみさくら)

日本医師会認定産業医、 精神科専門医、 漢方専門医、臨床心理士。2001年、札幌医科大学医学部を卒業し、札幌医科大学附属病院神経精神科、東京都立松沢病院、久喜すずのき病院において精神科医として研鑽を積む。また、国立病院機構東京医療センター、北里大学東洋医学総合研究所において、内科、東洋医学の知識を幅広く習得。2014 年より、精神科、内科の臨床経験に基づく知識のみならず、人事労務、法律の知識を併せ持つプロフェッショナル産業医として稼働。現在(2020年5月現在)は、産業医として17社を担当する。精神科専門医として軽度から重度までたくさんの患者さんの診療にあたってきたほか、内科・救命センター・東洋医学での経験を積み、常に心身双方からアプローチできる精神科医であるよう心がけている。著書に『朝型 夜型 クロノタイプ別 睡眠レッスン』(セブン&アイ出版)がある。