13年ぶりに復活した日本テレビ系ドラマ『ハケンの品格』(毎週水曜22:00~)。初回視聴率は個人7.7%、世帯14.2%(ビデオリサーチ調べ・関東地区)と好発進を見せ、篠原涼子演じるスーパーハケン・大前春子の変わらぬ痛快ぶりに大きな反響が集まった。

前作に引き続き脚本を担当する中園ミホ氏は、実際に派遣社員として働く女性たちを取材し、ストーリーを描いてきたが、彼女たちとの出会いは『ドクターX』『花子とアン』といった他のヒットドラマの執筆においても、大きな影響があったのだという――。

  • 『ハケンの品格』脚本の中園ミホ氏

    『ハケンの品格』脚本の中園ミホ氏

■13年前と比べて「状況ははるかに厳しい」

この13年間、『ハケンの品格』を「いつかやらなきゃいけない、とずっと思っていました」という中園氏。脚本の執筆にあたって、実際に派遣社員として働く女性たちに取材を重ね、最近でも月1回のペースで飲み会を開催するなど、つながりがある中で、「彼女たちから『“ハケンの品格”やらないんですか?』ってずっと言われていたので、それに応えられると思いました。みんな喜んでくれています」と力が入る。

前作が放送されたのは、07年1~3月。その後、08年に“リーマンショック”が起こると、経営悪化に伴う「派遣切り」が頻発、年末年始には「年越し派遣村」が作られるなど、派遣労働者をめぐる環境は大きく変わっていったように見える。

だが、「リーマンショックが起きなくたって、会社が傾けば非正規雇用の人たちが真っ先に切られる状況は変わりません。ごく最近は新型コロナウイルスの問題もありますし、あの頃と比べて、はるかに厳しくなっていると思います」と強調。

交流のある派遣社員の人たちは、歳を重ねて悩みも変化しているそうで、「13年前はセクハラやパワハラで悩んでいたんですけど、結婚して子供を持って経済的な不安を持ったり、育休や産休もないし、保育園にもなかなか預けられない。それに、50歳くらいになると派遣の仕事がほとんどなくなるし、親の介護の問題も出てくる。彼女たちの状況はどんどん厳しくなっているんです」と重ねて訴えた。

ただ、そうした変化について、「大前春子は年を取らないので、反映してません(笑)」とのこと。「あれだけの資格を全部とったら100歳くらいになっちゃいますし、もともとフィクションのありえない夢の人物だと思ってるので(笑)」と、今作も変わらぬキャラクターで描かれている。

  • (左から)篠原涼子、山本舞香、吉谷彩子 (C)NTV

■大門未知子「いたしません」も派遣の人たちのために

前作から13年の間に、“スーパードクター”大門未知子(『ドクターX~外科医・大門未知子~』)というキャラクターも描いてきた中園氏。ここにも、交流を続けている派遣社員たちが影響を与えてくれたという。

「ドラマの企画を立てるとき、彼女たちが見て喜んでくれるかな…って思うようになったんです。大変な労働条件で働いているのに暴動も起こさないあの人たちが、実は日本の経済を支えている。そんな彼女たちが見て元気になってほしいと思いながら書いてるんです。大門未知子も、キューバで修業してから大学病院でメスで切りまくるなんて、現実ではありえないんですけど、『いたしません』『絶対にいたしません』って断っていくのを見て、あの派遣の子たちがスカッとしてくれるんじゃないかって考えるんですよね」

その着想は、朝ドラ『花子とアン』を企画する際にも。「モンゴメリーの『赤毛のアン』の一節に“曲がり角を曲がった先に何があるのかはわからないの。でも、きっといちばんよいものにちがいないと思うの”というセリフがあって、『あっ、これだ!』と思ったんです。不安の中で仕事をしてる彼女たちの顔が思い浮かんで、たとえ先が見えないようなピンチに立たされても、きっとその先には良いことが待っていると希望を持ってほしい。そう思って決めました」といい、「『ハケンの品格』以来、いつもそんなふうに企画を考える癖がついたような気がします」と明かした。

■初めての持ち込み企画「すごく大切な作品」

このように、中園氏にとって1つの作品にとどまらない影響を及ぼしている『ハケンの品格』は「自分から企画を持ち込んだドラマも、これが初めてだったんです。派遣社員の彼女たちに助けられて、彼女たちを励ましたいなと思ってずっと脚本家をしてきたので、私にはすごく大切な作品です」と、大きな財産になっている。

13年の間でのテレビを取り巻く環境変化を聞くと、「若い人が家にテレビがないというのは厳しい時代になっていますよね。うちの息子もリアルタイムで見ずに、お風呂の中でスマホで見ていたりしますから。そういう中で、どうやったらドラマを見てくれるのかというのを考えないといけないと思います」と意識。

ただ、ストーリーの描き方は「全然変わらないです。どうやったら皆さんが元気の出るドラマになるかということしか考えていないので(笑)」と、正攻法で臨んでいく姿勢だ。

  • 杉野遥亮(左)と篠原涼子 (C)NTV

●中園ミホ
1959年生まれ、東京都出身。日本大学芸術学部卒業後、広告代理店を経て、88年に『ニュータウン仮分署』(テレビ朝日)で脚本家デビュー。その後、『For You』『Age,35 恋しくて』『やまとなでしこ』(フジテレビ)、『anego[アネゴ]』『ハケンの品格』(日本テレビ)、『ドクターX~外科医・大門未知子~』(テレビ朝日)、『花子とアン』『西郷どん』(NHK)といったヒットドラマを手がけ、橋田賞、向田邦子賞などを受賞している。