お酒を飲みすぎたときや食べ過ぎた際など、誰しも一度や二度は吐き気をもよおしたり、嘔吐したりした経験があるだろう。あるいは、生理前・生理中に吐き気を覚える女性も少なくないはずだ。これらのケースのように、吐き気や嘔吐につながる明確な原因がわかっていればそこまで問題視することはないだろうが、原因不明の吐き気や嘔吐に苛まれるようだと、多くの人が不安に駆られるはずだ。

そこで今回、消化器科 消化器外科 外科医の小林奈々医師に嘔吐のメカニズムや嘔吐が症状として現れる原因疾患などについてうかがった。

  • 突然の嘔吐や止まらない吐き気の原因は?

吐き気と嘔吐の機序

そもそも吐き気とは、胃内の内容物を「口から出したい」という切迫した不快感を喉や心窩部(しんかぶ / みぞおちのこと)に感じることを指す。何らかの原因により嘔吐中枢が刺激されるものの、実際の嘔吐運動まで至らないと「ウッ」といった、私たちが日常に経験する吐き気を催すという仕組みだ。

一方の嘔吐とは、嘔吐中枢が刺激されることにより、神経経路を介して胃の出口が閉ざされて食道が広がり、胃の逆流運動が起こると同時に横隔膜や腹筋が収縮して胃を圧迫した結果、胃の内容物が排出される現象を指す。

「片頭痛持ちの方や胃腸機能の悪い方、めまい発作が起きやすい方、腸閉塞の既往がある方は、嘔吐を起こしやすい傾向にあります。ただ、発作の前兆がある方や予感を抱く方は、ご自身で対策してくださっていることもよくあります」

吐き気や嘔吐を伴うような原因疾患

吐き気をもよおしたり、嘔吐したりするメカニズムがわかったところで、続いてこれらを引き起こす原因疾患およびその対処法をみていこう。

■発作性頭位めまい症
「疾患名にあるようにめまいを伴います。体位によって症状が増悪しますが、めまい止めや吐き気止めを使用して安静にしていれば症状が軽快します」

■片頭痛
片頭痛には前駆症状(ある病気の起こる前兆として現れる症状)が出現するケースがある。そのため、前駆症状出現時に片頭痛薬を内服して嘔吐の発症を予防する場合もあるという。吐き気が強いケースでは吐き気止めを使用する。また、片頭痛自体は女性に多くみられるという特徴を持つ。

■急性胃炎、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、胃癌
「胃痛を伴うことが多いです。鎮痛剤使用歴やヘリコバクターピロリ菌感染が関係しているケースが少なくありません。上部消化管内視鏡などの検査を行い胃の中の状態確認をした後、潰瘍治療薬などを用います。ヘリコバクターピロリ菌に感染していれば、除菌して治療を行います。胃癌においては内視鏡的治療または外科的治療を行い癌を切除します」

■急性胃腸炎
下痢を伴うケースがある。原因がわかっているケースとそうでないケースがあるが、基本的には水分補給をしながら胃腸を休ませる。「発熱がある」「血便がある」「症状が数日も継続している」などの条件が確認された場合は、原因菌を特定したり抗生物質を投与したりする必要性がある。
急激な発症で激痛を伴うアニサキス症を疑う場合は、上部消化管内視鏡検査を行い、アニサキスを除去することがある。アニサキス症はサバ、イワシ、タラ、ホッケなどを食べた際に発症するリスクがある。

■急性虫垂炎
右下腹部に痛みを伴う症例が大半だが、吐き気や嘔吐の後に右下腹部痛が出現するケースもある。抗生剤の投与で対応するが、画像診断をして手術をすることもある。

■腸閉塞
「手術歴を含めた既往歴が診断の判断基準の一つになります。腹痛を伴うケースが多く、腹部膨満感を覚えることもあります。手術歴がなくても発症するのですが、診察所見と腹部レントゲンを確認したうえで、適宜腹部CT(造影CTも含め)で判断します。腸閉塞とわかればまずは禁食にして様子を見ますが、手術となることもあります」

■急性胆嚢炎、胆管炎
腹痛、発熱を伴う症例が多い。診察所見と腹部エコーや腹部CTで判断し抗生剤投与、あるいは状況により手術となることがある。

■つわり(妊娠悪阻)
妊娠が判明している場合は問題なく、吐き気止めや漢方を使用する。妊娠が不明なようならば、月経周期などを確認した後に妊娠検査で判断する。

■くも膜下出血、脳出血、脳梗塞
「突然の頭痛を伴う場合があります。今までに感じたことがないほどの強い頭痛を感じたら注意が必要です。頭部CT、MRIを行い判断します。状態によって緊急手術になる症例もあります」

■髄膜炎
頭痛や発熱を伴うケースが多い。ただ、老人や小児では症状に乏しい可能性もある。血液検査や頭部CTなどを行った後に、髄液採取を実施して診断する。髄膜炎と判明したら原因菌を同定し、治療を行う。ただし、重症化予防のため、原因菌が同定される前に治療を開始するケースもある。

■緑内障発作
「突然起こる前頭部痛を伴うことが多いです。眼痛、視力低下を伴うケースもあるため、眼科の受診を勧めます」

■その他(心因性のものや薬物性のものなど)
「問診により判断を行います。上述した疾患の中には緊急を要するものがあったり、しっかりとした対応が必要な疾患もあったりするため、それらを除外する必要性がある場合もあります」

吐き気が続いたらどうすべき?

吐き気が恒常的に続くようならば、原因を見定めたうえで原因の除去、あるいは原因となっている刺激を弱めるなどの対処をしていくことになる。

「例えば、消化機能が低下しているケースでは、胃の内容物の貯留が吐き気の原因となるため、胃の内容物を流すことを目的として体の右側を下にして横になることが有効なときもあります。また、めまいなどの症状があるようでしたら、めまいが楽になる対位をとれば吐き気を抑えられます。どんな対応をしても吐き気が継続するようでしたら、医療機関を受診して原因検索と投薬などを相談してください」

吐き気や嘔吐が続く時の食事や水分補給のコツ

吐き気や嘔吐が続いているときは、無理に食事は摂取せずに可能な範囲で水分摂取をするとよい。その際、水分はこまめに少量ずつ摂取するのがよいという。特に糖尿病などの持病がなければ、電解質の補正にもなり身体への吸収効率に優れるスポーツ飲料の摂取が好ましい。

「もし水分摂取もできなく、ずっと吐いてしまっているようならば医療機関を受診してください。点滴などの処置をしないといけない場合があります。めまいなどで体位によって症状が改善するようならば、症状が治ってから水分摂取をするようにしましょう」

食事は無理に摂る必要はないものの、食欲があって食事を摂りたいようであれば、「消化のいいもの」「胃や腸に負担をかけないもの」「香辛料などを使っていないもの」「加熱したもの」などがお勧めだという。


症状の原因となるものが不明な状況で吐き気や嘔吐が続くようならば、必ず医療機関で受診するようにしよう。