緊急事態宣言解除後、テレワークから再び電車やバスに揺られて出社する日々に戻った人は多いだろう。しかし、通勤時間や会議、面倒くさい上司への配慮など、無駄を排した日々の快適さを知ってしまった今、以前よりストレスを感じている人は少なくないはずだ。

コロナ感染の不安も続く中、メンタルヘルス的にどんな影響が考えられるのか。銀座で多くのビジネスマンの診療にあたっている心療内科医・羽鳥賢三さんに相談してみた。

【お悩み1】通常勤務に戻ったら、以前より疲れやすくなった気がする。

「テレワークによる生活リズムの乱れが原因の人もいるでしょうが、気をつけたいのはテレワーク前から疲れやすかったり、気分が沈みがちだったりした人です」と、羽鳥さん。そもそもメンタルを病む原因は会社や学校が圧倒的に多く、症状の改善には休職が有効な方法のひとつだ。

「しかし、メンタルに不調を感じたからといって、全員が専門医を受診したり、休職したりするわけではありません。むしろ、ぎりぎりでバランスを保ちながら出勤している人の方が多いはず。そういう人たちにとって、今回のテレワークは、思いがけず実現した休職のようなものでした。

当然、メンタルヘルス的にプラスの面もありましたが、問題は復職までの過程です。本来、休職から復職までには一定のプロセスを経る必要があるところ、いきなりの通常業務開始。これでは以前より強くストレスを感じてしまい、症状が一気に悪化する可能性があります。気力がわかない、何をしても楽しくないというような状態が続く場合は、早めに専門医に相談することをおすすめします」

また、コロナ離婚やDVの増加傾向からもわかる通り、テレワークが続いている人にもメンタル不調が進行している可能性がある。

「注意したいのは、配偶者や子どもなど、家族と暮らしている人たちです。常に一緒にいるストレスからメンタルに不調を来している人は、顕在化している以上にいるはず。夫婦で仕事する部屋を分けたり、意識的に一人になる時間を作ったりするだけでなく、この機会にお互いの価値観をきちんとすりあわせておくことが重要です」

  • テレワーク前よりメンタル不調に陥りやすくなっている可能あり。意欲の減退が続くようなら早めに専門医に相談を。

【お悩み2】コロナに対する危機意識が低い上司にイライラ。

緊急事態宣言は解除されたものの、コロナウィルスが消滅したわけでも、ワクチンが完成したわけでもない。私たちはコロナと共存する「新しい生活様式」で生きていかなければならないわけだが、まだまだ手探り状態というのが現実だ。

「患者さんが勤めている会社の中には、解除とともにテレワークも時差出勤も終了、マスク着用も無くそうとしているところがあると聞きました。こうしたコロナに対する危機意識の差は、もともと『不安障害』の傾向がある人を中心に、メンタル不調を引き起こす可能性があります」

「不安障害」とは、不安や恐怖の感情から、社会生活に支障をきたしてしまう病気だ。よく知られているもののひとつが「強迫性障害」で、自分でも不合理だとわかっているのに、汚れが落ちていないと感じて何度も手を洗ったり、戸締りが心配で何度も確認しに戻ったりしてしまう。

「コロナ禍の今、特に衛生面での不安は誰にでもあるものです。しかし、一日に何十回も手洗い・消毒をしたり、汚染が気になって電車の座席に座れなくなったりしたら、それは強迫性障害の可能性が大きい。心当たりがある人は、自分の行動に合理性があるかを考えてみるといいでしょう」

例えば、手にマジックがついた時に、その汚れが落ちるまで何度も手を洗うことは合理的な行動といえるだろう。しかし、目に見えないウイルスへの不安から、何度も繰り返し手を洗ってしまうとしたら、それは合理的とはいえない。メンタル不調だと自覚し、専門医に相談した方がいいだろう。

  • 充分きれいに洗ったと頭ではわかっているのに、何度も洗わずにはいられない。そういう状態の人は要注意だ。

【お悩み3】コロナに負けないメンタルを手に入れたい。

「コロナに起因するメンタル不調は、見えないもの、わからないものに対する不安が原因なだけに、コロナに対する自己防衛で予防するしかありません」と、羽鳥さん。「デマに惑わされないように、対策に関する情報は信頼できる機関や人物から得るようにし、自分なりに今できるベストな対策をする。それが、不安や心配に対抗する現実的な手段といえます」。

また、大半の人は同様にコロナが不安だし、危機意識を持って自衛している。そうやって考えると、自分が恐れているよりは感染リスクが低い環境にあると思えるはずだ。その他には、スポーツ、人とのコミュニケーション等が、メンタルヘルス全般に有効だ。

特に、会社や上司など、メンタル不調の原因が明確な場合は、人に話すことでも気持ちが楽になったりする。根本的な解決にはならなくても、ただ話を聞いてもらい、共感してもらえるだけで、ずいぶん変わってくるはずだ。

最後に、羽鳥さん自身がメンタルケアのために気をつけていることをうかがったところ、「オンとオフの切り替え」だとか。

「仕事上で心配な事案があっても、仕事が終わったら一旦忘れるようにしています。そうしないと、心身を休めるべきオフタイムまで不安な気持ちで過ごすことになってしまいます。私が患者さんによく勧めるのは、仕事以外に興味のあるものを持つこと。趣味、習い事、ペット、なんでもかまわないので、仕事以外のことに意識を向けられるようにします。

そして、『楽しかった。楽しいことをやるために明日もがんばろう』と気持ちを持っていくことで、心の健康を保つようにしていきましょう」

  • スポーツ、音楽、アートなど、趣味を持つことは気分転換やストレス解消につながり、メンタル不調の予防になる。