■実況人生で思い出深い試合は…

――これまで数多くの試合を実況されてきたと思いますが、思い出深い試合はありますか。

2016年の広島カープのリーグ優勝決定試合ですね。黒田投手とマイコラス投手の投げ合いでした。黒田投手は現役引退するシーズンで、当時の力を比べると分が悪いだろうと思っていました。実際、立ち上がりに失点して、ボールもそんなに良くなかったんです。

でも2回からスイッチが入ったというか、完全にモードが変わって、石原捕手のリードと一体になって、技術と魂が詰まった鬼気迫るピッチングでした。味方がデッドボールを当てられたとき、ベンチ前で準備をしていた黒田投手がマイコラスに怒りをあらわにしたり、チーム全体が黒田投手に引っ張られるように火の玉みたいになって行って。自分が実況を担当した中では、最高の試合でした。

――優勝決定試合を担当すること自体、なかなかない機会ですもんね。

実は前年の2015年、ヤクルトのリーグ優勝決定試合も担当していて、そのときが初めてのリーグ優勝決定試合の実況でした。でも、自分の中では納得の行かない内容になってしまって…。雨で順延して思いもよらず自分に担当が回ってきたのもあって、良い実況をしないとと、肩に力が入ってしまった。リベンジをしたくても、リーグ優勝が決まる試合を担当できるのなんていつになるか分からないと思っていたのが、翌年にすぐにその機会に恵まれた。実況も、手応えを感じる物になったので、うれしかったのを覚えていますね。

■キスマイとの『ミュージックソン』で号泣

――ところで、煙山さんのツイッターを拝見していると、Kis-My-Ft2に関するツイートが多いですよね。

彼らとは、番組(『Kis-My-Ft2のオールナイトニッポンPremium』)が2018年10月に始まるにあたって、アシスタントを務めたのが最初です。ジャニーズさんのグループについてはほとんど知識がなくて、正直、当時は、彼らのことも知りませんでした。

――印象はいかがでしたか。

僕の持論なんですけど、ラジオってテクニックだけでやってもダメなところがあるんですが、彼らは1番大事なものを持っているなと。ラジオはリスナーと距離感も近く、しゃべる量も圧倒的に多い。特に生放送では、良くも悪くもその人の本質が出てしまいます。ごまかしが効かないと言いますか。「こんな感じでやればいいんでしょ」って要領良くやる人もいるんでしょうけど、彼らには良い意味でまったくそれがない。

ラジオが好きで楽しんでくれているし、リスナーにしっかり向き合ってるし、笑いの部分だけではなく、真剣なテーマにもしっかり対応できる幅広さがある。放送を重ねる度にラジオの生放送に携わってくれて本当に良かったという思いが強くなりました。

――煙山さんは2018年、2019年の24時間生放送『ラジオ・チャリティ・ミュージックソン』でも、キスマイさんと一緒に担当していました。

『ラジオ・チャリティ・ミュージックソン』では、彼らもブラインドサッカーや盲学校などを取材しました。そして、『ミュージックソン』が終わった後、「盲学校の子たちに会いに行きたい」と、忙しいスケジュールの合間を縫って足を運んでいました。でも本当に楽しそうにしてるんですよね。1つ1つに対して、ちゃんと心をもって向き合っていて、こなしている感がまったくないんです。年齢的には親子ほど離れているのですが、本当に人間として尊敬できる存在です。

――『ラジオ・チャリティ・ミュージックソン』では、煙山さんは2年連続で号泣してましたね。

ミュージックソンでは、歴代のアシスタントがエンディングで涙するのを見てきましたが、「ああ、自分は泣かないんだな」って冷静だったんです。それが、「ケムケム」って振られて、答えようとした途端、突然こみあげてきて、嗚咽で言葉にならず、あのときは焦りました。

翌年も、「今度は絶対大丈夫だ」と思っていたら、また涙でしゃべることができない状態になってしまいました。『ミュージックソン』は、スタッフも24時間一丸になるし、リスナーの方たちの善意が届いてくるのを直接感じられる幸福な特別なプログラム。その特別な「力」を改めて感じました。

■「歓声で聴こえなかった様々な音がたくさん聴ける」

――野球の話題に戻りますが、今年は6月19日に開幕します。また、当面無観客での試合となりますが、実況のうえで影響はありますか。

この間、無観客の練習試合の実況を担当したのですが、やりにくさはなかったです。その放送で、解説の里崎智也さんが、「ストレートで『パーン』じゃなくて『ボスッ』という音だと、キャッチング下手なのが分かってしまいますね」と仰っていました

変化球のくぐもった捕球音やバットが折れる音、デッドボールが当たった時のバッターの「あー!」という悲鳴まで、今まで歓声で聴こえなかった様々な音がたくさん聴けるので、その音たちを消さないようにしたいです。実況の基本として「投球に遅れない」というのがあります。遅れてしまうと、「投げました」の「た」が打球音や捕球した音にかぶってしまうので、そこは、より意識して実況しました。

――歓声がなく、打球音や捕球音がクリアに聞こえる分、よりシビアになるんですね。

そうです。ただ、その肝のところをしっかりやると、実況に良いリズムが出ました。基本の大切さをあらためて感じましたね。 もちろん、スポーツ中継は歓声が重要な要素で、実況者も、ファンの応援に気持ちが盛り上がって、助けられていた部分が大いにあります。そこがしばらくはなくなるので、ラジオの前で応援してくださっているファンの方の気持ちをイメージして実況したいと思っています。

――最後に、今年の『ショウアップナイター』に臨むうえでの思いをお聞かせください。

ラジオの野球中継が注目される、大事なシーズンになると思います。音で聴くスポーツの魅力を感じて頂けるように工夫をしていきたいですし、球場に行けないファンの方の思い、リスナーの存在を、今まで以上に意識して、1球1球を丁寧に心を込めて実況したいです。少しずつでもお客さんが球場に入れるようになって、最後は多くのファンと同じ場所で中継できる環境が実現することを祈っています。

選手やファンの皆さん、リスナーの皆さんと心を1つに、ニッポン放送ショウアップナイターのキャッチフレーズ「みんなのプロ野球」を心に掲げて実況します。ぜひお耳にかかりましょう!

■『ニッポン放送 ショウアップナイター』
2020年6月19日放送スタート。(火曜~金曜:17:30~/土曜・日曜:17:40~)
■解説陣:江本孟紀・若松勉・大矢明彦・田尾安志・川相昌弘・山本昌・佐々木主浩・山崎武司・野村弘樹・谷繁元信・真中満・里崎智也・井端弘和・前田幸長