改正健康増進法によって喫煙ルールが変わる中、6月1日、非喫煙者と喫煙者の共存を目指した新しいカタチの喫煙所「THE TOBACCO (ザ・タバコ)」が神田と赤坂にオープンした。「THE TOBACCO」の特徴と目指す姿について、同施設を運営する株式会社コソドに話を伺った。

  • 吸わない人と吸う人の共存を目指す喫煙所ブランド「THE TOBACCO」

改正健康増進法とコロナ禍で顕在化した喫煙所難民

新型コロナウイルス流行によって世間が揺れる中、4月1日についに施行された「健康増進法の一部を改正する法律」(改正健康増進法)。緊急事態宣言の解除を受けて久方ぶりに立ち寄った喫茶店や飲食店でタバコが吸えず、その存在を思い出した方は多いはずだ。

改正健康増進法では路上禁煙に加え、原則として屋内禁煙が義務付けられており、喫煙を認める場合は喫煙専用室などの設置が必要になる。喫煙を主目的とする施設や既存の経営規模の小さな飲食店に限っては施設内での喫煙が可能であるものの、喫煙可能なスペースが実質的に激減しているのは間違いない。

結果として喫煙所には以前よりもさらに多くの人が集まっているが、コロナ禍の現在では"3密"の空間として閉鎖されている施設もあり、逆に路上喫煙者や吸い殻のポイ捨てが現れてしまう状況ともなっている。

喫煙所のイノベーションを目指した空間

このような状況の中で、喫煙所の運営という試みを始めたのがコソドだ。同社は、非喫煙者と喫煙者が心地よく共存できる社会を目指し6月1日、神田・赤坂に喫煙所「THE TOBACCO(ザ・タバコ)」をオープンした。

  • 内神田2丁目の旗艦店「THE TOBACCO / KANDA

  • 赤坂3丁目の「THE TOBACCO / AKASAKA

インテリアデザイナーの米田周平氏が手掛けた内装は、これまでの喫煙所にはないクリーンでゆったりとしたもの。ミニマルでモダンな雰囲気を持ちつつも細部にこだわりを感じる空間で、品質の高いスピーカーが音楽を再生。居心地の良い喫煙体験を演出してくれる。

  • シンプルな空間に格子が作る影が印象的なKANDAの内装

  • ミニマルな印象が強いAKASAKAでは利用者の20%が女性だという

周辺環境と喫煙者に残る匂いに配慮した強力な空気清浄システムも特徴のひとつだ。排煙出力調整、集塵機、冷暖房の3つを組み合わせた十分な換気量により、喫煙所内の空気を滞留させることなく短時間で空気を入れ替える。出力は利用者数との兼ね合いで時間帯によって調整され、喫煙所内をバランスを保った空間に仕上げているという。

喫煙所にはコーヒースタンドが併設され、コーヒーやカフェ・ラテ、エナジードリンク、アルコール飲料などを提供するほか、オリジナルライターや灰皿、Tシャツといった関連グッズも販売する。タバコの販売も計画されており、準備が整い次第提供を開始する予定だ。

  • 提供されるコーヒーにも「THE TOBACCO」ロゴが

「嫌われがちな喫煙者の味方になって、吸わない人を助けたい」

「THE TOBACCO」を運営するコソドはタバコに関連したビジネスを行っていた会社ではない。それどころか店舗系も初めての試みだという。代表取締役社長の山下悟郎氏は「社会的に意義がある仕事がしたいと思い、喫煙所の運営を始めた」と話す。

  • コソド 代表取締役社長 山下悟郎氏

「改正健康増進法によりタバコを吸える場所が減るなかで、特に外国人の方から『吸える場所がわからない』という声を多数聞きました。そこで喫煙所に関する調査を行ってみたところ、タバコを吸う人はもちろん、吸わない人にとっても喫煙所の需要は高いということが分かったのです。喫煙自体は悪いことではありません。喫煙所を肩身の狭い空間ではなく、吸いたい人が気持ちよく吸える場所にしたいと思いました」

「THE TOBACCO」は、主にビジネス街や商店街といった場所をターゲットとして出店している。これは同店舗の運営が飲料やグッズ販売、広告収入、イベント収入によって賄われるためだ。こういった場所に喫煙所を設置するとなると、ビルオーナーや周辺住民の許可、自治体の許諾が必要になるが、現在のところ「路上喫煙が減るなら良い」と好意的な反応が大半だという。

「喫煙所は人が集まる機能を有した施設です。設置することで周辺施設への集客も見込めるでしょう。しかし一方で、空調などに多大な配慮が必要なコストセンターでもあります。当社がそのコストを負担することで、オーナー様はコストを考えずに集客効果が見込めるはずですし、場合によっては集客によって建物の価値も上がるかもしれません。嫌われがちな喫煙所ですが、我々は非喫煙者と喫煙者がウィンウィンになる関係を作っていきたいのです」

「THE TOBACCO」は自治体の指定喫煙場所として登録されており、自治体が認める公式な喫煙所として地図に表示される。また自治体から認可を受けているということは、空調設備などの基準を確実に満たしているということでもある。

「タバコは社会的に見れば無くてもよいものであり、当社でも吸う人は少数派です。しかし、タバコ文化やタバコのアート表現が世の中からなくなってしまうのはつまらないでしょう。私は、喫煙の在り方をイノベーションしたいと思っています。嫌われがちな喫煙者の味方になって、吸わない人を助けたい。そして喫煙所を通じてビジネスを生んでほしいと思っています」

  • 壁には「タバコを止めるなんて簡単さ、俺は100回もやめた」というジョークが

「THE TOBACCO」は2020年度中に都内4店舗、2021年には都内6店舗、都外に7店舗の出店を計画している。喫煙所だけでブランドを作るというのは、おそらく日本で初めての試み。世論が割れがちなタバコ問題に一石を投じる「THE TOBACCO」の今後の動向に注目したい。