コロナ禍でも様々に趣向を凝らした映像作品が制作される中、フジテレビでは「ソーシャルディスタンスドラマ」と銘打った、林遣都主演の『世界は3で出来ている』を、きょう11日(23:00~23:40)に放送する。

この状況下だからこそできた“制約を楽しむ”要素も含んだ作品だが、それを抜きにした1つの立派なドラマとして成立。さらに、コロナ禍の何気ない出来事を丁寧にすくい取った物語として、心に響く感動的な一遍に仕上がっている。


■“1人3役”を忘れさせる林遣都の演技力

『世界は3で出来ている』に出演する林遣都=フジテレビ提供

この作品は、林が一卵性の三つ子=1人3役を演じ、引っ越したばかりの次男のマンションで起こる「緊急事態宣言解除後のある日」を描いたワンシチュエーションドラマ。

脚本は、3月まで放送されていた朝ドラ『スカーレット』(NHK)の水橋文美江氏、監督は新春に放送された木村拓哉主演のスペシャルドラマ『教場』(フジ)の中江功氏が務め、そのどちらにも出演していた林が主演という、2020年で特に注目度の高かった作品を手がけたクリエーターたちが集結した。

これまで放送されてきたコロナ禍制作のいわゆる「リモートドラマ」は、オンラインビデオツールを駆使したものや、実の夫婦や兄弟姉妹が共演することでより息の合った掛け合いを見せるなど、それぞれ新しい試みが見受けられた。

一方で今作は、冒頭こそオンライン会議の場面から始まるが、それは他の「リモートドラマ」との違いを提示する意外性のフック。3人をたった1人で演じることで生まれる画的な面白さと巧みな会話の妙で見せる、全く新しいドラマに仕上がっている。

一見、「林遣都が1人3役」というアイデアのみを先行させ、インパクトや動きの自然さを強調させるだけの話になるのかと思いきや、画的な驚きは始まってすぐに訪れる“2人の林遣都”の登場を最後に、ラストまで違和感なく、物語に没頭させてしまう作りが見事。

しかも演じている林は、衣装以外での見た目の違いが、前髪横分け(次男)、真ん中分け(長男)、全下ろし(三男)と、ほぼ変わらないにもかかわらず、それぞれ「テキトー」「真面目」「朗らか」とハッキリとしたキャラクターの演じ分けに成功。その中に、兄弟だからこその“似ている部分”も醸し出すなど、「1人3役をやっている」という邪念を一切抱かせない高い演技力に圧倒される。

■水橋文美江氏の筆致、中江功監督の緩急

物語も実に巧みで、コミカルに展開される会話の中で、「ソーシャルディスタンス」を律儀に守るしぐさが伏線になっていたり、ちょっとした小道具がラストの感動的なエピソードへつながっていたりと、1つ1つの出来事が見逃せないつくり。

また、前半の軽快な会話劇から転じて、後半この状況下によって得た希望と不安、そのどちらも丁寧に描いていく場面は、誰しも感じていた心の中を表しているようで、画面に映る“3人の林遣都”という非現実感とは対照的に、とてつもない共感と痛みを覚えるシーンになっている。

それは、常に光と影を丁寧に描いてきた水橋文美江氏だからこその筆致。なかなか想像することのない“名もなき人・出来事”を丁寧にすくい取り、その気持ちを視聴者へジワジワと実感させていく物語運びの巧さが、今作でも存分に発揮されている。

中江監督も同様に手腕が発揮されており、スピーディなカットでテンポよくつないでいく前半パートは、この状況下で撮られたとは思えないほどの画づくり。後半じっくり見せていく場面と併せて“緩急”の付け方が見事だ。

  • プロデュース・演出の中江功氏

■制約のハンデを全く感じさせない

距離を保ち、少数精鋭のスタッフで作られた「ソーシャルディスタンスドラマ」と銘打っているのだが、“限られたカメラ”や“十分ではない音声環境”など、その制限が画面から少なからず感じられてしまっていたこれまでの「リモートドラマ」とは異なり、そのハンデを全く感じさせていない。

ともすれば“林遣都が3人”というSF的な雰囲気になってもおかしくない世界観だが、冒頭から自然に物語に入りこむことができ、最後には感動的な展開もみせる心温まる作品。

1回目は物語をじっくり感じて楽しみ、2回目はどのように合成したのか?どのように演者は動いていたのか?どのように声を合わせたのか?など、その巧みなドラマづくりを改めて確かめたくなる。それほど、内容的にもつくり的にも、何度も繰り返し見返したくなる、そんなドラマになっている。必見だ。

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