今や社会現象を巻き起こし、驚異的人気を誇る『鬼滅の刃』。

『鬼滅の刃』には、ビジネスパーソンが日々の仕事に追われるうちに忘れてしまいがちな、大切なことを思い起こさせてくれる、メッセージがちりばめられています。

心理学とキャリアデザインを専門とし、大学で教鞭をとり、またキャリアカウンセラーとして活動している私は、学生や社会人にビジネスにおける心構えや、困ったときの考え方などを教えています。

『鬼滅の刃』を読み進めていったとき、「これは!」と驚きました。私が授業やセミナーを通して伝えていることが、ぎっちりと詰まっていると感じたのです!

  • 人気マンガ『鬼滅の刃』から私たちが学べることとは?

    人気マンガ『鬼滅の刃』から私たちが学べることとは?

主人公の竈門炭治郎(かまどたんじろう)を始め、人間を襲う鬼を倒すために結成された鬼殺隊のリーダーである「柱」たちの姿勢、敵である鬼たちの心理プロセスは、現実に生きる私たちにも様々な示唆を与えてくれます。

マンガとして読むと、読み飛ばしてしまうかもしれません。大切なメッセージが読み取れていないかもしれません。それはもったいない!

だから、私は、ひとつひとつ糸をほぐすように、メッセージを読み解いていく作業をしていきました。それをまとめたのが『『鬼滅の刃』流 強い自分のつくり方』(アスコム刊)です。セミナーや授業だけでは伝えきれないことが、この本には詰まっています。

もちろん、マンガやアニメを観るだけでもいいのですが、できれば、その作品の奥底に込められた、人生観や仕事観をくみ取り、学びを得て、一石二鳥で楽しみたいもの。

今回は、その『鬼滅の刃』から学べることを紹介したいと思います。

『鬼滅の刃』は現実世界の教科書

『鬼滅の刃』の主人公の炭治郎は、少年マンガの主人公らしく、信念を抱き、あきらめず、折れない心を持つ強い姿が描かれています。しかし、炭治郎は最初からそうであったわけではありません。

元々は炭を売る少年。父親が亡くなった後に家計を支え、家族思いの優しく穏やかな少年でした。その彼を強くならざるを得なくさせたのは、家族が鬼に殺されたこと、妹の禰豆子(ねずこ)が鬼にされてしまったことがきっかけでした。「いつも通り」が突然無くなった。当たり前と思っていた日常が大きく変わってしまった。

私たちの生活の中ではありえないことですが、突然に状況が一変してしまうということは、この新型コロナウイルス禍で経験しています。当たり前に思っていた仕事のやり方やコミュニケーションの方法は変わりました。業界によっては、非常に厳しい側面に立たされることにもなり、経済活動が元に戻るかは、まだ見えてこない。

そう考えると、あながち『鬼滅の刃』はフィクションとは言いきれず、現実世界の私たちにも置き換えて考えることができそうです。

炭治郎はなぜ強くなれたのか

炭治郎は、一人で強くなったわけではなく、様々な人の叱咤激励によって折れない心を培いました。禰豆子を人間に戻したいと思っても知識も知恵も技術も覚悟もなかった。初めて出会った鬼殺隊の柱である冨岡義勇(とみおかぎゆう)にこう言われます。

  • 1巻 第1話「残酷」より

    1巻 第1話「残酷」より

「脆弱な覚悟では 妹を守ることも治すことも 家族の仇を討つこともできない」
(1巻 第1話「残酷」より)

次いで、後に師匠となる鱗滝左近次(うろこだきさこんじ)には、禰豆子が人を襲ったらどうすると問われ、即答できなかった炭治郎に鱗滝はこう言い放ちます。

  • 1巻 第3話「必ず戻る夜明けまでには」より

    1巻 第3話「必ず戻る夜明けまでには」より

「今の質問に間髪入れずに答えられなかったのは何故か? お前の覚悟が甘いからだ」
(1巻 第3話「必ず戻る夜明けまでには」より)

13才の少年に、技術や覚悟を求めることは酷なことで、一瞬パワハラまがいの先輩や上司を彷彿とさせます。しかし、炭治郎の持ち前である「素直さ」が功を奏し、義勇や鱗滝の言葉に耳を傾けることから変わり始めます。そして、自分に足りないものを自覚し、懸命に努力を重ねていくことで、折れない心を持つ、強い炭治郎になったのです。

世の中には、最初から心が強くて逞しく生きている人もいますが、多くの人はそうではないでしょう。技術も覚悟も後からついてくる。問題にぶつかり、人から叱咤され、気づき、鍛錬を積み重ねることで技術も覚悟も備わってきます。

何かで読んだのですが、『鬼滅の刃』の作者である吾峠呼世晴先生は、「炭治郎は普通の少年なので、そんなにすぐに強くはなれない」というニュアンスを述べていたと。

そうなのです。普通は急にパワーアップして、能力を開花することなんてない。積み重ねた先に、備わっていくものなのです。

炭治郎に学ぶ折れない心の4つのポイント

炭治郎に学べば、折れない心をつくるために必要なことは、「素直であること」「誰かのために」「自分の力を信じる」「使命感」と考えられます。

仕事をしているとどうしても自分の経験や思いが先立ち、人から強い指摘を受けるとムッとして、相手は自分をわかっていないからだと責める気持ちが出てくることがあります。

そして、自分を認めてもらうために頑張っても、褒められなかったり受け入れてもらえなかったりとすると、腹が立ったり自信を無くしたり。到底、社畜ではあるまいし会社のためになんて思えない。

ここで、ある種の思考転換ができると、折れない心に変化していきます。

(1)人の言葉を善し悪しの判断をせずにまずは素直に聞く(人を信頼する)
(2)自分のやっていることは「誰かのために何かに役立つはず」と考える(向社会性)
(3)「できるかもしれない」と考えて行動する(自己効力感)
(4)自分だからこそ、与えられた仕事や立場を全うしようと考える(使命感)

こういった思考に切り替えると、ビジネススタンスにも良い影響が出てきます。信頼感が増して良好な人間関係を再構築できるようになり、仕事に対する意欲も向上していきます。もちろん、嘘を信用しろとか人を騙す商品でも役立つということではありません。

仕事をしていると、先輩や上司からのプレッシャーに負けそうになったり、あきらめて投げやりになったりすることも多々出てくるのではないでしょうか。環境を変えれば、状況が変わってくるのではと思い変えてみたけれど、また同じ問題にぶつかる。

それは、自分のスタンスが変わっていないからかもしれません。相手に変わってもらうことを望むのは難しいことです。それよりも、自分が変われば、自分の視野が変化するので、相手への見方も変わってくる。こちらを選択するほうが建設的で、且つ、自分を強くしていきます。

「なんだ、スキルじゃないのか」と思われた方もいるかもしれません。 そうです。何か「これをやればいい」という技ではなく、仕事においても生活においても、折れない心になるためには、「姿勢」と「態度」が大切なのです。

「姿勢」と「態度」は考え方やマインドからくるもの。心理学的に言えば「認知」です。「認知」は物事の受け取り方や情報の取り入れ方。この「認知」が感情にも行動にも影響してくるからこそ、「姿勢」や「態度」が重要になってくるのです。

『鬼滅の刃』では、炭治郎を含む他のキャラクターが、己を変え状況を切り開くシーンがたくさん表現されています。

拙著『『鬼滅の刃』流 強い自分のつくり方』では、『鬼滅の刃』のセリフに込められたメッセージを、ひとつひとつ読み解きながら、その読み方を含め、具体的に紹介しています。ぜひ、マンガと一緒に読んで、人生の学びを得て、明るい未来をつかみ取っていただけると嬉しいです。

新刊『『鬼滅の刃』流 強い自分のつくり方』

炭治郎、禰豆子、善逸、伊之助が、どんどん強くなれるのはなぜか……。大切な人を守るため、敵を倒すため。思い通りにならないことがあっても、投げ出さずに立ち向かう。強い心のつくり方を『鬼滅の刃』から学ぼう! アスコムより上梓されており、価格は税別1,300円。

井島由佳(いじまゆか)

大東文化大学社会学部社会学科助教。心理・キャリアカウンセラー。1970年東京生まれ。東京家政大学大学院家政学研究科人間生活学専攻修了。博士(学術)。専門は教育心理学、キャリア心理学。ライフキャリアと漫画に関する研究を行う。キャリアデザイン、チームビルディング、メンタルヘルスなどの専門家。自治体や企業等で研修講師を務める。最新著に 『『鬼滅の刃』流 強い自分のつくり方』(アスコム)