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――貴重なお話、ありがとうございました。さて、加々見さんはハーレイ・ジョエル・オスメントの来日を担当されていたと聞きました。当時のことは覚えていますか?

加々見:19年前の話なので……実は私も昨日の夜、観直してみたんですよ! 実は、あれからずっと観てなかったので。いやぁ……良い映画ですね(笑)!

――観て下さって、ありがとうございます(笑)。

加々見:当時、字幕などを担当する制作部門から宣伝部に異動した頃で、メインの業務は企業タイアップの獲得でした。今よりもずっとバイリンガルのスタッフが少なかったので、制作と宣伝の中で必要とされるところを手伝いました。来日もその一つです。

――彼は当時小学生ですよね。

加々見:そうですね。学校がある時期の来日は必ず家庭教師を連れてこないといけないので、お父様と家庭教師の女性が一緒にいらっしゃいました。午前中は勉強の時間なので取材はNG。ホテルの部屋で3時間くらいは勉強していたと思います。お父様もすごくほのぼのした優しい印象の方でした。

オスメントくんは、本当に良い子でしたよ。悪さも何もせず。彼ぐらいのキャリアだと調子に乗ってしまう子もいたと思いますが、あの子の場合はご両親もすごく真面目な方で。きっと良いご家庭なんだろうなと思った記憶があります。オスメントくんは『シックス・センス』があれだけヒットしたのに、そのことを分かっているのか分かっていないのか。天才なのにそんな素振りも一切なく、普通の子でしたね。

――彼の発言で覚えていることはありますか?

加々見:ごめんなさい! 19年も前のことなので、さすがに覚えてないんですよね(笑)。でも、すごく良い印象だったのは覚えていますし、他の方もそうなんですけど、2~3日一緒に過ごしていると帰る時にさびしくなるんですよね。オスメントくんの滞在期間は、2泊4日か、3泊5日ぐらいだったと思います。午前中は家庭教師との勉強の時間。午後はホテルに取材部屋を設けて、紙媒体やテレビの取材を受けてもらいました。

――取材では、どのような受け答えをする方でしたか?

加々見:映画の中でのイメージに近かったと思います。はにかみながらこたえて、ちゃんとポイントはついている。映画の中で伝えたいこと、これからの自分のことなどを真面目に答えていました。きっとその頃には海外の方でも相当取材を受けていたはずなので、慣れていたのかもしれませんね。

――そういえば、トレバー少年の父で酒癖の悪いリッキーは、ジョン・ボン・ジョヴィが演じていたんですね。

加々見:私もすっかり忘れていて、出てきてビックリしました(笑)。当時は、それで大騒ぎしたんですよ。「えっ!? 出るの!?」とみんなで驚いて。あまり良い役でもないし、少ししか出ないので、それはかなりの衝撃でした。

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――その他に思い出に残っていることはありますか?

加々見:中村も言っていましたが、タイトルで苦戦したのを覚えています。日本語に訳したタイトルにするのか、原題の「Pay It Forward」を「ペイ・イット・フォワード」とするのか。カタカナ表記にすると、長いだけで意味は通じないのではという心配もありました。深い意味のある日本語の案もあったんですけど、ピンと来るものがなかったんですよね。最終的には、「ペイ・イット・フォワード」の「イット」は、日本人にとってはなくていいものと判断し、「ペイ・フォワードはどうですか?」と提案したら、「なるほど」と賛同を得られました。いちばんしっくり来るタイトルに決まったという記憶があります。

――「Pay It Forward」は、アメリカでは一般的なフレーズなんですか?

加々見:アメリカに長いこと住んでいたんですけど、この作品に携わるまで知らなかったフレーズでした。意味を知ればすぐに理解できて、そんなに難しくない言葉ですし、おそらくですが、この作品がきっかけで世の中に広まったのではないでしょうか。

現在、アメリカでは通信会社大手・ベライゾンが、ビリー・アイリッシュも参加した「ペイ・イット・フォワード・ライブ」というプログラムを展開中です。もともとあった言葉なのかもしれませんが、今だからこそ一般化しつつあると思いました。映画はアメリカでも大ヒットしたわけではないので、みなさんの心の中に残っていたということなのかもしれません。

――それぞれの価値観に委ねられた善意は、現実世界でも確かに存在していましたね。

加々見:新型コロナウイルスによるこの状況はありがたいことでもなんでもないですが、全世界が同じ悩みを抱えているのは、人類にとってこれまで経験してこなかったことだと思います。個人的には、再び原点に戻るというか、リセットされているような気がしていて。今まで当たり前のようにあったもの、自分にとって大切なものを再認識させられているというか。

こういうときだからこその助け合いじゃないですけど、「良いことをしていこう」と思っている人が増えているのは、未来にとってはすごく明るい出来事ですよね。ソーシャルがみんなの強みになっていますし、一番の頼りにもなっています。レディ・ガガや星野源さんの試みも、ペイ・フォワード的な思いが含まれているのではないでしょうか。こうやって、いろいろな形で世界が1つになっていくのは本当にすばらしいことですよね。私も久しぶりに観たら、「まさに今観るべき映画じゃん!」と思ってしまいました。

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