乗れば分かる走りの良さ

新エンジンのSKYACTIV-X搭載車といっても、運転方法が異なるわけではない。まずは運転席に収まり、エンジンを始動させる。試乗車はMAZDA3のファストバックで、グレードは「X Lパッケージ」(6速AT・4WD)だ。

  • マツダの「MAZDA3」

    「MAZDA3」にはセダンとファストバックの2種類のボディタイプがある。試乗したのはファストバックだ

運転席周りの景色もほかのエンジンを積むMAZDA3と同様なのだが、エンジンを始動させると、SKYACTIV-Xの世界は広がっていく。まず体感できるのは、ISGによるスムーズなエンジン始動だ。アイドリング中のエンジン音も抑えられており、MAZDA3のガソリンエンジン車と比べても静か。エンジン圧縮比が高いため、通常ならエンジン音はより気になるはずだが、ここにも工夫があり、エンジンを包み込むようにカバーを設けることで、音の遮断を図っている。

  • マツダの「MAZDA3」

    運転席周りはほかのエンジンを積むMAZDA3と変わりがない

まず、ゆっくりと街中を走り始める。信号停止の際はアイドリングストップが作動し、停車前にエンジンをストップ。発進時の再始動はISGがスムーズに行うため、アイドリングストップ機能もストレスフリーとなる。通常のエンジン車のスターターによるエンジン始動は、振動と音が大きく、街中での頻繁な再始動には意外とストレスを感じるものだが、SKYACTIV-Xには無縁の世界だ。ISGを備えたマイルドハイブリッドは近年、他社のモデルでも採用が増えている技術であり、そのメリットの大きさは折り紙つきといえる。

走行中のエンジン回転は軽やか。耳を澄ますと、エンジン音が通常のガソリンエンジンと少し異なる。これは圧縮比が高いSKYACTIV-Xの特徴だが、普通の人ならば、まず気になることはないだろう。そこはしっかりと対策済みだからだ。しかも、心地よいエンジン音に感じられるようチューニングが施されており、遮音性が高い車内には、スムーズな回転数の上昇を知らせる軽やかなエンジン音のみが響く。これも、ドライバーとクルマの一体感を高める演出だ。

SKYACTIV-Xの自慢である伸びやかな加速を体感すべく、高速道路にも乗ってみた。強めにアクセルを開けると、SKYACTIV-Xエンジンは高回転まで一気に吹け上がり、クルマがグングンと速度を上げていく。スムーズな加速からは、エンジン回転数3,000rpm以上で稼働するというスーパーチャージャーの働きを実感できる。ただ、過給機付きエンジンであるとはいえ、その加速は「強烈」というよりも、大排気量エンジンのような「穏やかさ」が感じられるものだった。この過給機は、あくまで伸びやかな加速を実現するための武器なのだ。

効率の高いSKYACTIV-Xだが、燃費については走りに左右される。軽快さや滑らかな加速を楽しむような走りをすれば当然、燃費は悪化する。ただ、劇的に悪化することもないように思われた。今後、長距離ドライブを含めて、じっくりと検証してみたい。

SKYACTIV-Xは全域で静粛性が高く、反応が良くて過度なところもないので、運転しやすいエンジンだといえる。乗り手を選ばないエンジン特性だなと感じた。例えば、「ゴルフ」や「Cクラス セダン」などの欧州車は、数字(スペック)よりも体感で得られる満足度が大きい。そのため、ベーシックグレードでも不足なく、走りも良いことが多い。その基本性能の高さがファンを惹きつける魅力の1つとなっている。SKYACTI-Xを積むマツダ車も、数字より体感で納得できるバランスの良さを重視した欧州車らしい味付けを目指しているのだろう。「その魅力を説明するのは難しいが、乗れば分かる」というスタンスは、技術にこだわるマツダらしい新エンジンだなと思う。

  • マツダの「MAZDA3」

    「MAZDA3」のSKYACTIV-X搭載モデルは静粛性が高くて運転しやすく、ロングドライブにも連れ出してみたいと思わせるクルマだった

最大の課題は価格!?

個人的には応援したいと思ったSKYACTIV-Xではあるのだが、その価格を見ると、全面的に支持するわけにもいかなくなる。困難な技術を具現化し、マイルドハイブリッドとスーパーチャージャーまで備えているこのエンジンが、SKYACTIVエンジン群の中でもとりわけ高コストになる事情はよく分かる。しかし、MAZDA3 ファストバックの標準車ともいえるグレード「プロアクティブ」同士で比較した場合、ガソリン車「20S」に対して約68万円の差となるのはいかがなものか。クリーンディーゼル「XD」と比べても約41万円高い。

  • 「MAZDA3」の性能・価格表

    搭載エンジン別に見る「MAZDA3」の性能と価格

マツダによれば、この価格差はコスト面に加え、同クラスの欧州車ユーザーを意識した結果であるという。あえて、高めの値付けとしているのだ。ただ私は、ほかのエンジンを積むMAZDA3に対し、価格に見合う視覚的な差別化がないことにも疑問を感じている。

価格の高い欧州車に勝負を挑むという志は評価できるし、応援したい。しかし、これほどの価格差を乗り越えて購入するユーザーとしては、SKYACTIV-Xに乗っているという優越感を得たいと考えるのが当然ではないだろうか。SKYACTIV-Xの走りの質感は確かに高いので、その点では買って後悔しないクルマだと思う。しかし、所有欲は十分に満たされるだろうか。ほかのMAZDA3と見た目はほとんど同じで、スペックもずば抜けて高性能というわけではない。もしSKYACTIV-Xの普及を目指すのなら価格差をもう少し抑えるべきだし、今の価格戦略で行くならば、SKYACTIV-Xのブランド化が必要となる。

  • マツダの「MAZDA3」

    右テールランプの下に「SKYACTIV-X」の文字が確認できるものの、ほかのエンジンを搭載するモデルと外観上の差別化はほとんど図られていない

初代「CX-5」から始まったマツダの新世代商品群は、デザインと質感を追求し、スタイルと技術の両面でユーザーの心をガッツリとつかんだ。その志は、MAZDA3から始まった今度の新世代商品群にも、しっかりと受け継がれているとは思う。しかし私は、マツダがユーザー心理をいまひとつ理解できていないように感じている。会社と雇用を守るため、価値あるものを高く売ることは大切なことだ。しかし、現状では、ユーザーの心を揺さぶる演出が物足りず、どっちつかずとなってしまっているのでもったいない。SKYACTIV-Xの良さは乗れば分かる。内外装の演出に特別感を出すか、普及グレードのみでも価格を抑えて普及を目指すなど、フレキシブルな対応を期待したい。