マツダはクロスオーバーSUV「CX-30」の新エンジン「SKYACTIV-X」搭載モデルを発売した。ガソリンエンジン「SKYACTIV-G」搭載車に対し、同一グレードで比べると約68万円高価な新型車となる。ガソリンは「ハイオク」を給油するよう推奨されているが、燃料代は「レギュラー」で走るよりも安く上がるそうだ。

  • マツダ「CX-30」の「SKYACTIV-X」搭載モデル

    新エンジン「SKYACTIV-X」を搭載するマツダ「CX-30」

価格差は大きいが独自の魅力がある

「CX-30」はマツダが2019年10月に発売した新型SUV。都市部でも使いやすいサイズ感が特徴で、マツダはこのクルマを「CX-5」「MAZDA3」に続く世界的な基幹車種に育てていきたいとしている。2019年12月25日の発表によれば、受注台数は1万2,346台と好調な様子だ。

2.0リッターのガソリンエンジンを積む「CX-30」の価格は、グレードによって幅があるが239万2,500円~303万500円となっている。新型エンジン「SKYACTIV-X」は同じく排気量2.0リッターだが、これを搭載するCX-30の価格は329万4,500円~371万3,600円だ。同じ「L Package」というグレードで比べると、価格差は68万円強となる。これら2つのエンジンはどちらもガソリンを燃料とするが、「SKYACTIV-X」にはできればハイオクを使って欲しいというのがマツダの言い分だ。

  • マツダ「CX-30」の「SKYACTIV-X」搭載モデル

    「CX-30」のボディサイズは全長4,395mm、全高1,540mm、全幅1,795mm。このほど、ガソリンエンジン、クリーンディーゼルエンジン、「SKYACTIV-X」という3つのパワートレインが出そろった

クルマを購入する際の価格が高く、燃料代も一見すると高くつきそうな「SKYACTIV-X」搭載モデルだが、このクルマにはどんな魅力があるのか。マツダによれば、このエンジンは同社が世界で初めて実用化に成功した燃焼制御技術「SPCCI」(火花点火制御圧縮着火)を使っていて、ガソリンエンジンならではの高回転までの伸びのよさと、ディーゼルエンジンのように優れた燃費、トルク、応答性を併せ持つパワートレインなのだという。

先日、実際に「SKYACTIV-X」を搭載するCX-30(の助手席)に乗る機会があったのだが、マイルドハイブリッドシステム「M Hybrid」(エム ハイブリッド)のおかげもあってか、走行中やアイドリングストップからのエンジン再始動時の静粛性は、ガソリンエンジン搭載車に比べ、明確に感じられるほど高まっていた。走行中は車内のモニターでエンジンの状態を確認することができたのだが(市販車でもモニター可能)、SPCCIによる燃焼、同技術を使わない燃焼、燃焼の休止といったように、走行状況に合わせてエンジンの動きが刻々と、また頻繁に変わっていく様子に驚いた。詳しくは分からないのだが、かなり高度な制御が行われていそうなことだけは感じ取ることができた次第だ。

数値で比べてみると、ガソリンエンジン搭載のCX-30は最大出力156ps、最大トルク199Nmであるのに対し、「SKYACTIV-X」搭載モデルは同180ps、224Nmとなっていて、ここにマイルドハイブリッドシステムのモーター(6.5ps、61Nm)が加わる。

  • マツダの新エンジン「SKYACTIV-X」
  • マツダの新エンジン「SKYACTIV-X」
  • これが「SKYACTIV-X」。保温と遮音のため、エンジンをカプセルで包んである。遮音といっても、気持ちのいいエンジン音は聞こえるように工夫されているそうだ

そもそも、「SKYACTIV-X」は普通のガソリンエンジンに比べ、なぜ高価になるのか。CX-30試乗の際、マツダ執行役員でパワートレイン開発部長の中井英二さんに聞いた話によると、このエンジンにはセンサーや過給器、燃料噴射系といった部品が追加になっている上、マイルドハイブリッドシステムも採用しているので、価格が高くなってしまうとのこと。当然、そこに開発費も上乗せされているはずだ。燃焼方法を切り替えながら走るという特性上、「SKYACTIV-X」搭載車では、「万が一にもお客さまにご迷惑をお掛けしないよう、何重にも対策を行っている」そうで、その辺りにも手間隙がかかっているらしい。

  • マツダ執行役員でパワートレイン開発部長の中井英二さん

    マツダ執行役員でパワートレイン開発部長の中井英二さん

ただし、「SKYACTIV-X」搭載モデルの価格設定は、単純に開発・生産コストの増加分を上乗せしたものではないという。このクルマのマーケティングを担当するマツダの齊藤圭介さんは、「『X』をご購入いただくターゲット層の設定としては、欧州のプレミアムメーカー(のクルマ)を選んでいるような、今までマツダがアクセスできていなかったような層を想定して検討しました」とする。メルセデス・ベンツやアウディなどを競合車と位置づけ、戦略的な値付けを行ったということなのだろう。ちなみに欧州では、CX-30を購入する顧客の6割が「SKYACTIV-X」搭載モデルを選択しているそうだ。

価格帯が同じくらいだからという理由だけで、メルセデスのSUVとマツダのCX-30を比べてみようと思う人はいないはずだ。当然、CX-30には、メルセデスと比べてみたくなるだけの中身が求められる。その中身にあたるものは、「SKYACTIV-X」を搭載することでCX-30が獲得した「上質な走り」や「運転する楽しさ」なのだろう。こればかりは、実際に乗ってみるしか感じる方法がなさそうな気もする。

  • マツダ「CX-30」の「SKYACTIV-X」搭載モデル

    身も蓋もない言い方になってしまうが、「SKYACTIV-X」の良さを知るには乗ってみるのが一番だ。マツダでは試乗車を1~2日貸し出し、ロングドライブでこのクルマの魅力を知ってもらえるような販売店での取り組みを用意しているとのこと

最後に、「SKYACTIV-X」搭載のCX-30にレギュラーガソリンを入れて乗る場合とハイオクで乗る場合の燃料代の違いについて、分かったことをお伝えしたい。

まず、前提として、走り方にもよるが、レギュラーよりもハイオクの方が、全体で10~20%くらいは燃費が良好になるというのがマツダの見方だ。

ガソリン代はスタンドによって異なるものの、先ほど(1月15日の夜)調べたところではレギュラーが140円台、ハイオクが150円台だった。仮にレギュラー145円、ハイオク155円で計算すると、価格差としてはハイオクの方が7%くらい高価ということになる。ただ、ハイオクで走ると燃費が10%以上は向上するとのことなので、同じ距離を走るのに使う燃料は少なくて済む。

同じ量を給油した時に支払う金額は、レギュラーよりもハイオクの方が7%くらい高い。ただ、ハイオクの方が10%は余計に走れる。なので、トータルで考えれば、ハイオクの方が燃料代は安く上がる。こういう話なのだ。

中井さんは「SKYACTIV-X」を搭載するCX-30について、「レギュラーガソリンを注(つ)いでも、しっかり走るようには作ってある」と話していた。しかし、当然ながら、「SKYACTIV-X」を搭載するCX-30は、ハイオクで走った時にこそ望ましい性能を発揮するように作られているはずだ。燃料代はトータルで安いし、走りも良くなるというのであれば、このクルマに乗る場合、ハイオクを給油しない手はないだろう。