毎月、給与から差し引かれる所得税。給与の額によって差し引かれる額が違うことは分かっているけれど、その仕組みを理解している人は多くないのではないでしょうか。そこで、会社員の給与における所得税率と所得の関係についてお伝えします。
所得税が増える仕組みとは
所得税は所得が増えるにしたがって、その税率が上がる超過累進課税の方式を採用しています。税率は所得金額によって5%から45%までの7段階に分かれています。まずは、その7つの段階を確認しましょう。
所得税の計算過程を確認
下記は、国税庁のホームページに記載されている所得税の速算表です。
たとえば、課税される所得金額が195万円の人は税率が5%です。所得税を求めると195万円×5%=9万7,500円です。
では、課税される所得金額が196万円だといくらになるのでしょうか。税率が10%だから196万円に10%をかけて19万6,000円、というわけではありません。
採用されている所得税の方式は「超過」累進課税です。つまり、超過した分に対して、累進課税が適用されるわけですから、195万円には5%、超過した1万円分に対しては10%の税率となります。計算すると、9万8,500円です。
ここで、もう一度速算表を見てみましょう。課税される所得金額が196万円の場合は、税率10%、控除額9万7,500円と書かれています。196万円に10%をかけて、9万7,500円を差し引くと9万8,500円になります。
税率が5%部分、10%部分、20%部分と、税率ごとに税額を計算すると大変ですから、速算表を使うことで簡単に税額を計算できます。
控除額も確認を
ところで、「課税される所得金額」とは何でしょうか? これは、会社員の給与の場合、年収から「給与所得控除」と「所得控除」を差し引いた金額です
給与所得控除とは、会社員に認められた必要経費のことで、決められた計算式によって算出します。計算式は、下記の通りです。
そして、「所得控除」とは、各個人の事情を考慮した経費のことです。社会保険料や生命保険料を支払ったり、配偶者の所得が一定以下だったり、シングル家庭だったり、あるいは、大きな災害に見舞われたり、各家庭には、それぞれ事情があります。その事情を経費として差し引くシステムが所得控除です。
所得控除は14種類あり、どの控除を適用できるかは人によって違いますし、同じ所得控除でも人によって控除額は異なります。ですから、年収いくらだから、課税所得がいくらと断定することはできません。もし、自分で課税所得を計算する場合は、自分自身に適用される所得控除と控除できる金額を確認しておきましょう。
なお、2020年より基礎控除の仕組みが変わりました。基礎控除は、2019年までは誰でも一律38万円を差し引くことができましたが、2020年からは所得に応じて控除額が段階的に減り、合計所得が2,500万円を超えると、基礎控除は適用されなくなりました。
では、ここで多くの人に適用される社会保険料控除と基礎控除のみを考慮して課税所得を計算してみましょう。たとえば、年収500万円の人なら、給与所得控除は、計算式に当てはめると144万円、社会保険料は年収の約15%とすると75万円、基礎控除は48万円です。
500万円 - 144万円 - 75万円 - 48万円=233万円
(年収 - 給与所得控除 - 社会保険料控除 - 基礎控除=課税所得)
課税所得は233万円となり、税率は10%ということが分かります。
各税率が適用される年収
では、同様の計算方法で税率ごとに適用される年収を確認してみましょう。
税率5%(課税所得195万円以下) : 約440万円以下
440万円 - 132万円 - 66万円 - 48万円=194万円
税率10%(課税所得195万円超330万円以下) : 約640万円以下
640万円 - 172万円 - 96万円 - 48万円=324万円
税率20%(課税所得330万円超695万円以下) : 約1,070万円以下
1,070万円 - 195万円 - 132万円 - 48万円=695万円
税率23%(課税所得695万円超900万円以下) : 約1,280万円以下
1,280万円 - 195万円 - 145万円 - 48万円=892万円
税率33%(課税所得900万円超1,800万円以下) : 約2,200万円以下
2,200万円 - 195万円 - 165万円 - 48万円=1,792万円
税率40%(課税所得1,800万円超4,000万円以下) : 約4,360万円以下
4,360万円 - 195万円 - 165万円=4,000万円
税率45%(課税所得4,000万円超) : 約4,370万円以上
4,370万円 - 195万円 - 165万円=4,010万円
なお、社会保険料とは、健康保険料、厚生年金保険料、介護保険料のことで、上限があるので、年収が上がるに従って増え続けるわけではありません。また、注意点として、健康保険料は、所属する健康保険組合によって保険料が異なります。さらに、賞与は考慮していないため、賞与を考慮すると社会保険料の金額が変わります。
そして、社会保険料控除、基礎控除以外の所得控除は考慮していません。配偶者控除や生命保険料控除等申告される人は多いと思いますが、それらは計算に含まれていませんから、参考程度の数値としてください。
平均年収から見た税率
2018年の国税庁「民間給与実態統計調査」 によると、男性の平均給与は545万円、女性は293万円です。先に述べた計算方法に当てはめると、所得税率は、男性10%、女性5%となります。とはいえ、重要なのは、平均ではなく自分の税率です。税率が分かると節税対策にも役立ちますから、源泉徴収票を見ながら自分の税率を計算してみてください。