Bunkamura ザ・ミュージアムは1月9日~3月8日、写真展「永遠のソール・ライター」を開催します。この話を聞いたとき、まず思ったのはソール・ライターが帰ってきた! という嬉しさです。

実は2017年に、同じ会場で彼の初の作品展が開催されたのですが、筆者はその時には鑑賞できず。

悔しいー、と思ったのは私だけではないのでは? 実際、多くの来場者があったそうです。

  • 写真展「永遠のソール・ライター」

カラー写真のパイオニア

ソール・ライターといえば、1950年代にカラーポジフィルムでニューヨークをスナップした作品がその代名詞。しかし、当時のアート写真は撮影、プリントまで一貫したコントロールが可能なモノクロ写真が主流でした。カラー写真は技術的に完成しておらず、経年劣化もあるため、雑誌などのコマーシャル写真がほとんど。

そのため、あえてカラー写真で作品を撮影する彼のスタイルは「アートじゃない、商業写真だ」と揶揄する声もあったそう。

そう話すのは、ソール・ライター財団の創設者で、ディレクターであるマーギット・アーブ(Margit Erb)さん。ソール・ライターが存命時、彼のアシスタントでもあった方です。

  • ソール・ライター財団 創設者 ディレクター マーギット・アーブ(Margit Erb)さん

ところが、1960~1970年代にかけてアメリカの新世代の写真家たちがカラー写真で作品を発表し、「ニュー・カラー」と呼ばれるムーブメントが発生。その結果、カラー写真がアートとして認められ、ソール・ライターは「カラー写真のパイオニア」と呼ばれるようになりました。

カラー作品だけでなくモノクロ作品も展示

今回の展示では、前回紹介できなかった代表作や未発表作品など約200点以上を展示。その中には、カラー作品だけでなく、珍しいモノクロ作品や、通常は表に出ないコンタクトシート(撮影したすべてのカット)など、ソール・ライターの世界をたっぷり堪能できます。

  • 珍しいコンタクトシートの展示も

また、前述した「ソール・ライターの世界」が展示作品の第1部となり、後半の第2部では「ソール・ライターの仕事場(アーカイブ)をたずねて」というテーマで展開。

撮影後、プリントされず放置されていた数万点のスライドから、1940~1960年代に撮影された作品に絞り、カラースライドでデジタル展示したり、家族の写真、スニペットという自身で撮影し、小さいサイズにプリントした作品や、画家志望だった彼の絵画作品を紹介したりしています。

  • カラースライドによるデジタル展示

ちなみに、これらの膨大な作品や資料を、ソール・ライター財団では現在も発掘して整理しているとのこと。

ソール・ライターの作品が持つ「やさしさ」

筆者は街中での写真撮影を趣味としていますが、被写体へ近寄ることはすごく勇気が必要。単焦点レンズを使っていることもあり、ズーム機能で調整することもできません。

そんな私にとって、対象をハッキリと捉えず、むしろ距離を置いた彼の撮影スタイルは親近感を覚えます。

また、同時代のほかの写真家たちの「迫った」作品と比べると異質で、どこか「つつましさ」「やさしさ」も感じ取り、そこが、多くの人々を引き付けるのではないでしょうか。

生前、「人生で大切なことは、何を手にいれるかじゃない。何を捨てるかということだ」と語り、あえて名声から距離を置いて生活したソール・ライター。彼の作品を通して、その飾らない人柄に触れてみてください。