マネースクエア 市場調査室 チーフエコノミスト西田明弘氏が、投資についてお話します。今回は、金融市場のビッグイベントがどういう結果に至り、これからどうなるかについて取り上げます。

  • 金融市場ビッグイベントの振り返りとこれから(写真:マイナビニュース)

    金融市場ビッグイベントの振り返りとこれからか

「投資家が12月中旬に向けて警戒すべき理由」では、先行き不透明なリスク要因を解説しました。それらのビッグイベントの結果がほぼ判明し、金融市場を取り巻く暗雲はかなり晴れたようにもみえます。また、米景気についても、夏場に懸念された大幅な落ち込みは杞憂に終わりそうです。投資家はこれから安心して新年を迎えられるでしょうか。

米中合意

米国と中国は貿易交渉の「第1段階」で合意に達し、12月15日に米国が発動予定だった対中国追加関税は見送られました。対して、中国は今後2年で米国からの輸入を2倍以上に増やす意向です。

もっとも、対中国関税は昨年から五月雨式に発動されてきたため、今年9月時点で年率換算800億ドルに達しています(筆者試算)。これが来年1月に同1,200億ドルに引き上げられる予定だったものが同700億ドルに縮小するだけです。つまり、米中経済への関税の重石はさほど変わらない(悪化しない)と言う程度です。また、中国が輸入を倍増させるのはかなりの野心的な目標であり、それが履行されるかが重要ということでしょう。

今回の交渉では、知的財産権、技術移転、市場開放、為替操作などでも何らかの合意がなされたようです。詳細は不明ですが、踏み込んだ議論は恐らく貿易交渉の第2段階以降に持ち越されるでしょう。既存の関税の撤回に向けた話し合いも同様だと思われます。ただ、第2段階の交渉がいつどのように進められるかは分かっていません。トランプ大統領は来年11月の大統領選挙後まで待つとの見方もあり、そうであれば来年中に大きな成果は期待できません。

ブレグジット(英国のEU離脱)

12月12日の英国の総選挙で、ジョンソン首相の保守党が予想外に圧勝しました。過半数の議席を獲得したことで、ジョンソン首相がEU(欧州連合)と合意した離脱協定案が可決されるのはほぼ確実。英国は来年1月31日の協定をもってEUを離脱することになりそうです。

もっとも、英国とEUの関係がリセットされる事実上の離脱は、来年末に移行期間が終了してからです。それまでは従来の関係が維持され、その間に英国とEUは貿易協定など新しい関係を構築する必要があります。

そして、英国とEUの交渉が難航したまま来年末を迎えれば、英国は「合意なき離脱」を迫られます。貿易交渉には時間がかかるとみられ、移行期間を延長することも可能ですが、ジョンソン首相は間もなく議会に提出する離脱協定案に、移行期間の延長を排除する項目を盛り込む意向です。

総選挙の結果が判明した直後に急騰した英ポンドは、今週に入って上昇分をほぼ帳消しにしましたが、それは「合意なき離脱」の懸念が再び浮上してきたからです。ブレグジットの決着はまだまだ先のようです。

トランプ大統領の弾劾

12月19日、米議会の下院がトランプ大統領の弾劾訴追を可決しました。対象は、「権力の乱用」と「議会(の調査)の妨害」です。トランプ大統領はクリントン大統領に次いで、弾劾される歴史上3人目の大統領となりました(ニクソン大統領は下院の採決前に辞任)。

次のステージは来年1月にも開始される上院での弾劾裁判です。陪審員役を務める100人の上院議員のうち3分の2(=67人)以上が認めれば有罪となり、大統領は罷免されます。しかし、そのためには上院で過半数を握る共和党から20人以上の造反が出る必要があり、現実的ではないでしょう。

ただし、弾劾裁判の成り行きを無視するわけにはいきません。共和党と民主党の党派的対立を激化させかねませんし、2月に始まる大統領予備選にも影響するかもしれません。弾劾裁判にエネルギーを奪われてワシントンが機能不全に陥れば、経済や金融市場にも悪影響は及びそうです。また、国民の目を弾劾裁判からそらす目的で、トランプ大統領が対外強硬姿勢をみせるかもしれません。

米国の景気と金融政策

最後に、米国の経済情勢にも触れておきましょう。感謝祭翌日の金曜日、いわゆるブラック・フライデーに始まるクリスマス商戦の出足は、オンライン通販を中心に比較的好調だったようです。アトランタ連銀のGDPNowという短期予測モデルによれば、10~12月期のGDP予想は12月17日時点で前期比年率2.3%増となっており、7~9月期(2.1%増)や4~6月期(2.0%)の実績と比べても遜色ありません。同予想は約1カ月前に0.3%増で、ほぼゼロ成長を示していたので、足もとで景気は盛り返しているようです。

米国の中央銀行にあたるFRB(連邦準備制度理事会)は12月11日の会合で金融政策の現状維持を決定し、10月まで3会合連続で利下げした後にしばらく様子見することを示唆しました。そして、会合に参加した全員が「利下げ」を今後のメインシナリオから外しました。

一方で、金融市場は来年後半にFRBが再び利下げに踏み切る可能性が高いとみているようです。FRBの「次の一手」が利上げなのか、利下げなのか、そしてそれはいつなのか。それによって今後の金融市場の方向も決まりそうです。

執筆者プロフィール : 西田 明弘(にしだ あきひろ)

マネースクエア 市場調査室 チーフエコノミスト。1984年、日興リサーチセンターに入社。米ブルッキングス研究所、三菱UFJモルガン・スタンレー証券などを経て、 2012年にマネースクウェア・ジャパン(現マネースクエア)入社。「投資家教育(アカデミア)」に力を入れている 同社のWEBサイトで多数のレポートを配信(一部は口座をお持ちの方限定で公開)する他、投資家のための動画配信サイト「M2TV」でマーケットを日々解説。