東武鉄道の野田線は、2014年4月1日から「東武アーバンパークライン」と路線の愛称が付けられた。現在もイメージを一新しようと、複線化や駅舎の建替えなど、さまざまな改良が進められている。

  • 東武アーバンパークライン(野田線)の急行運転は2016年から始まり、2020年3月のダイヤ改正でさらなる拡充が図られる

野田線は1911(明治44)年に千葉県営鉄道として開業した柏~野田町(現・野田市)間をルーツに持つ。その後、北総鉄道(現在の北総鉄道とは無関係)の手で延伸が繰り返され、総武鉄道と改称された後、1930(昭和5)年の粕壁(現・春日部)~清水公園間を最後に大宮~船橋間が全通した。東武鉄道への合併は1944(昭和19)年。その後、62.7kmにも及ぶ長大路線ながら、東京都内に乗り入れる伊勢崎線(東武スカイツリーライン)の支線のように扱われ、普通しか走らない時期が長く続いた。

■2020年春、全線で急行運転を開始へ

それが変わってきたのは2010年代に入ってから。以前は伊勢崎線などからの転入車ばかりであったが、2013年に新型車両60000系が直接投入され、2014年に船橋駅、2015年に柏駅でホームドアが導入されるなど、次第に面目を改めた。2016年には、大宮~春日部間の途中駅を通過する急行の運転も始まった。

2014年には、野田市の区画整理事業に合わせ、東武鉄道が清水公園駅東側で開発を進めてきた「ソライエ清水公園アーバンパークタウン」が街開きしている。春日部側では以前から東武による住宅開発が進められており、七光台駅もそれに合わせて1968年に新規開業した駅。開発が清水公園駅周辺にまで及んできたということになる。

東武アーバンパークラインは2020年3月にダイヤ改正を行う予定。現在、大宮~柏間(一部列車は船橋駅発着)で設定されている急行は通過運転を行う区間と運転時間帯が拡大される。急行の停車駅は大宮駅、岩槻駅、春日部~運河間の各駅、流山おおたかの森駅、柏駅、高柳駅、新鎌ヶ谷駅、船橋駅となり、沿線の主要な町から他線との接続駅への所要時間が短縮される。その他、大宮~春日部間で途中の岩槻駅のみ停車し、春日部~柏間の各駅に停車する区間急行が新設される。

  • 2017年にデビューした東武鉄道の特急車両500系「リバティ」。東武アーバンパークラインへ直通する特急列車にも使用される

また、浅草駅から東武アーバンパークラインへ直通、あるいは同線内のみ運転する座席指定の特急列車も通勤客向けに導入されている。2015年・2016年の12月に浅草~運河間で運転された臨時特急を皮切りに、2017年4月のダイヤ改正で浅草~野田市・大宮間と大宮~運河間を結ぶ特急「アーバンパークライナー」へと発展。最新型の特急車両500系「リバティ」が投入された。来春のダイヤ改正で柏発の特急列車が新設される。

■開発余地があった東武アーバンパークライン沿線

野田線最後の開業区間が春日部~清水公園間となった理由に、途中の南桜井~川間間で、江戸川を渡ることが挙げられる。長大橋梁をかける必要があり、かつ、この川は埼玉県・千葉県の県境(その昔は武蔵と下総の国境)にもなっているため、もともと人の交流が少なかった。東京都心に直結しない環状路線とはいえ、沿線の住宅開発は深く進んでいるのだが、この付近はいまでものどかな田園風景が広がる。

2018年度の各駅の1日平均乗降客数を見ても、東武アーバンパークラインで最少の駅は清水公園駅で5,101人/日。大宮駅に近接する北大宮駅を挟んで、その次が清水公園の隣、七光台駅の7,119人/日。他の駅はおおむね1日1万人以上の利用があり、最多は柏駅の14万8,143人/日だ。旅客流動において、上野東京ライン・湘南新宿ラインや埼京線、京浜東北線などと接続する大宮駅、つくばエクスプレスと接続する流山おおたかの森駅、常磐線と接続する柏駅、総武線と接続する船橋駅などへおもに向かっていることがうかがえる。

  • 東武アーバンパークラインで最も乗降客数の少ない清水公園駅。駅前では大規模な住宅街が開発された

春日部~清水公園間は現在も東武アーバンパークラインの“閑散区間”となっている。同区間を含む春日部~運河間が基本的に単線(一部、複線の区間もある)であることも、そのことを如実に示しているように思える。

しかし、都心へのアクセスはイメージと違い、決して悪くない。清水公園駅から大手町駅まで、春日部駅で急行に乗り換えれば、朝ラッシュ時間帯でも所要時間は約1時間30分である。ただし、流山おおたかの森駅でつくばエクスプレスに乗り換えることも可能で、このルートを利用した場合、所要時間は約1時間10分に縮まってしまう。

定期代は春日部駅経由のほうがずっと安いが、東武鉄道にとってみれば、自社の路線をわずかな距離しか利用せず、他社の路線に乗り換えてしまう利用客が増えることは見過ごせないはず。もともと東武スカイツリーライン(伊勢崎線)のターミナル駅はJR線と接続しない上に手狭な浅草駅であり、東武鉄道の不利は否めなかった。途中の北千住駅から、相互直通運転を行う東京メトロ日比谷線をはじめ、東京メトロ千代田線や常磐線へ流れる通勤客のほうが主流ともいえた。

その風向きが変わってきたきっかけが、押上駅から半蔵門線との相互直通運転が2003年に始まったこと。さらに2012年、社運を賭けた事業である東京スカイツリーが開業したことも、浅草エリアに利用客の目を向けることにつながった。

こうなると、住宅開発の余地があり、かつ都心へのアクセスで自社の路線も活用できる(つまりは収益向上にも資する)春日部~清水公園間に焦点が当たることは自然な流れといえる。東武鉄道はグループ企業でも不動産事業を展開しているが、自社内にも生活サービス創造本部があり、沿線開発やまちづくり、住宅の分譲を事業の一環としている。「ソライエ清水公園」も東武鉄道が直接手がける事業のひとつだった。

所要時間の差を埋めるため、東武アーバンパークラインにおいて急行や浅草駅から直通する特急列車を設定したことも、沿線開発との連携だろう。閑散区間でありながら、急行や特急列車が春日部~野田市~運河間の各駅に停車することに、需要喚起の意味があると見て取れる。

■東武スカイツリーラインへの直通は今後拡大する?

もちろん、東武スカイツリーラインへの誘導だけではなく、大宮駅、流山おおたかの森駅、柏駅、船橋駅に向けての改良もあわせて行われている。急行運転の拡大や特急列車の設定だけではない。六実~逆井間を複線化し、これに合わせて高柳駅を2面4線化して急行・普通の緩急接続を可能とするのも、その一環だろう。

  • 複線化と2面4線化工事が進められている高柳駅。東武アーバンパークライン専用の車両60000系が到着

沿線自治体、とくに川間~梅郷間の各駅を有する野田市にとって、東京都心へのアクセス改善、ひいては人口規模の維持は大きな課題。東武と一体となった鉄道および沿線の開発・改良にも熱が入ろうというものだ。前述の「ソライエ清水公園」も然り。清水公園~梅郷間では野田市が中核となり、連続立体交差化事業も推進されている。

来春のダイヤ改正で、東武アーバンパークラインの改良はひと段落を迎えると思われる。単線で残る春日部~運河間の輸送力増強が、次の焦点となっていくだろう。現在は春日部駅で折返し運転を余儀なくされることもあり、東武スカイツリーラインからの直通は座席指定の特急列車に限られている。浅草・北千住方面から東武スカイツリーライン~東武アーバンパークラインの直通運転の拡大、とくに今後、通勤電車の直通が実現するかどうかは注目したい。編成両数の違い(東武スカイツリーラインは8・10両編成が中心。東武アーバンパークラインは6両編成が基本)を克服できるかどうかも気になる。

  • 野田市内では連続立体交差化事業が進捗している

野田市内の連続立体交差化事業は単線を前提に高架橋の建設が進められている。ここも複線化が視野に入ってくるようだと、沿線の開発がより成功に近づくと考えられる。