男女雇用機会均等法によってセクハラ防止措置が義務化され、2020年にはパワハラ防止措置も法制化される。だが企業内で問題を解決できず、労働紛争に至る例は後を絶たない。セクハラ問題に振り回されないために企業が知るべきことは、セクハラの“グレーゾーン”への対処法だ。

ハラスメントはなぜ「問題」か

1997年、男女雇用機会均等法によって企業にセクハラ防止措置が義務化され、2007年には同性同士の行為も対象となった。2020年にはパワハラ防止措置も法制化される。だが、このような嫌がらせ=ハラスメントを企業内で解決できず、労働紛争に発展するケースはいまだ多い。

ハラスメントはなぜ「問題」とされるのか。それは、組織の目的達成を阻害する「仕事をしていくうえであってはならない言動」だからだ。現代では、正常なコミュニケーションを破壊する言動をセクハラやパワハラと言う言葉で表し、職場からなくそうとしている。これがハラスメント問題の本質といえる。

誤った理解も多いこのセクハラ・パワハラ問題を専門的に取り扱い、法人研修企画担当者に向けてハラスメントの“グレーゾーン”の対処法をわかりやすく解説しているのが、コンサルタントの鈴木瑞穂氏だ。コンプライアンス、企業法務の専門家であり、『現場で役立つ! セクハラ・パワハラと言わせない部下指導 グレーゾーンのさばき方』などの著書がある。

  • インプレッション・ラーニング コンサルタント 鈴木瑞穂 氏

本稿では、鈴木氏が登壇しているインプレッション・ラーニングの「パワハラ・セクハラグレーゾーン判断力向上セミナー」の内容から、セクハラのグレーゾーンと、日本の管理職が備えるべきセクハラの“判断力”についてざっくりとまとめていきたい。

セクハラは大きく「対価型」「環境型」に分けられる

セクハラの定義は、男女雇用機会均等法の11条1項で示されている。企業の管理職、法務担当はまずこの条文をしっかり読み込んでほしいと鈴木氏は語る。

  • 男女雇用機会均等法 11条1項のセクハラの定義

この条文によって2種類のセクハラが定義づけられていると一般的に解釈されているが、鈴木氏はさらに環境型セクハラを3種類に分け、大きく4つの分類として扱う。このうち3つは、いわば100人中100人がハラスメントだと認定するものであり、鈴木氏は“ブラックゾーン”と表現する。そして、自己解釈が入りやすく“グレーゾーン”と呼べるものは「無自覚セクハラ」1つだけと説明した。このグレーゾーンこそが、実はセクハラ問題の大半を占める。

  • 1 対価型セクハラ

  • 2 環境型セクハラ

    • 2-a 悪意型セクハラ
    • 2-b 認定型セクハラ
    • 2-c 無自覚セクハラ

ブラックゾーンのセクハラとは?

4つの分類のうち、対価型セクハラは「相手に対し性的な言動をする」「相手がそれに否定反応を示す」「その反応を理由に相手に不利益な労働条件を課す」という3段階が行われるもので、だれがみてもセクハラと呼べるだろう。

環境型セクハラは、最初の「相手に対し性的な言動をする」という点においては同じだが、それ以降が異なる。 悪意型セクハラは「セクハラをした相手に悪意を持っている」「その悪意に基づいて性的な話題でいじめる」というもの。認定型セクハラは「過去に“性的な言動でありセクハラ”と認定されたケースがある」ものだ。

これらは言ってみれば100人中100人がハラスメントだと認定するものであり、誰もが黒、ブラックゾーンと認識することができる。だがブラックゾーンのセクハラは、なんらかの力関係 (※上司と部下だけとも、雇用関係とも、異性とも限らない。部下が上司に、下請けが親会社に、女性が男性に強い力を持つこともある) がある場合が多く、通報をためらわせるブレーキ要因が働きやすい。また訴えを受けた管理職も、さまざまな人間関係から、然るべき担当部署への通報をためらいやすい。

現場の管理職の努力だけでは、ブレーキ要因を乗り越えるのは非常に難しいのが現状だ。企業は、管理職の背中を後押しするような厳格な社内風土作りを醸成する必要がある。

グレーゾーンのセクハラとは?

一方、無自覚セクハラは「性的な言動」という文言の解釈が双方で異なることで起こる。基本的に価値観の違いによって発生する問題であるため、他の3つに共通しているような判断基準となる要件がない。発生した段階でハラスメントとして白か黒かわからないことが大きな特徴といえる。無自覚セクハラは、どのような言動がセクハラだといわれるかは予測不可能で、境界線もなければNGワード集もない。セクハラと思わせないためには、つねに3つの心構えを持っておく必要がある。

  1. 認定型セクハラの行為類型を認識する
  2. 自分の中にある男女差別的発想を排除する
  3. 職場に男も女も関係ないという認識を常に自覚する

そして、このようなグレーゾーンは現場の管理職が裁いていかなければならない。なぜなら、ハラスメントを犯罪と定めている法律は存在せず、セクハラ・パワハラ対策は企業に求められる措置だからだ。「ハラスメントで訴える」という言葉にある訴え先とは、警察ではなく企業の人事・法務であり、ハラスメントはまず就業規則の懲戒規定に則って裁かれるのが筋といえる。企業はセクハラ・パワハラのガイドラインを作っていく立場にあるのだ。つまり企業が判断すべきハラスメント問題とは、「グレーゾーンが白か黒か」という点に集約される。

グレーゾーンの判断基準と対応

判断基準を示さず、裁くことを怠ってグレーゾーンを放置すると、その企業には類似事例が蔓延するだろう。このような事態を防ぐためには、懲戒規定を明文化したうえで「中途半端な常識論」を払拭しなければならない。中途半端な常識論とは「相手が不快(セクハラだ)と感じたら、セクハラになる」という表現だ。実はこの表現には抜けている部分がある。

  1. ある言動に不快感を持つ人が多いのであれば
  2. その言動は職場を運営するうえであってはならない言動になるから
  3. そのような言動はセクハラと認定すべきである

セクハラという言葉が流行する中で、いつの間にかこの2番が抜け落ち、1番と3番だけがつなぎ合わせられたのが中途半端な常識論だ。この考えに縛られていると、矛盾感覚や論理破綻に繋がり、正しい判断ができなくなる。管理職はこの考えを払しょくし、さらに2段構えで考えていかなければならない。

  1. 相手がセクハラだと感じたら、それに対して否定・反論・反問しない(受け止める)
  2. 相手がセクハラだと感じたことに合理性・妥当性があるか否かで結論を出す

セミナーではケーススタディとそれぞれの対処法も

ここまでがハラスメントの本質的な問題と、セクハラの分類およびその対象方法に基本的な考え方だ。セミナーでは、さらにセクハラ問題の判断プロセスを分かりやすくフローチャートで解説し、具体的なケーススタディとその対象方法が語られた。内容が気になった企業の人事法務や経営者、管理職のかたはぜひセミナーでその知見を伺ってほしい。

  • セクハラ問題に対する判断プロセスの例