Great Place to Work(R) Institute Japanはこのほど、「働きがいのある会社」についての調査分析結果を発表した。これからの時代における、"働きがい"とは何なのか、プレス向けに開かれた説明会の内容を紹介するとともに、代表取締役社長・岡元利奈子氏に話を聞いた。

  • Great Place to Work(R) Institute Japanの代表取締役社長・岡元利奈子氏

    Great Place to Work(R) Institute Japanの代表取締役社長・岡元利奈子氏

働き方改革で「やりがい」が置き去りに

Great Place to Work(R)は世界約60カ国で働きがいに関する調査・分析を行っている専門機関。日本では2007年から企業ランキングの発表を行っていて、13回目となる2019年は480社が参加している。

2016年には担当大臣も置かれ、日本全体で進められてきた「働き方改革」。今年4月から関連法案も施行されているが、現場ではどのような変化があったのか。

同機関が2018年版、2019年版の調査データを比較したところ、「働きやすさ」のスコアが改善した企業は、低下した企業に比べて多くなっており、ワークライフバランスや労働環境にまつわる項目で改善が見られる企業は多いという。

一方で、経営・管理者層への信用や会社・仕事への誇り、職場での連帯感など、「やりがい」にまつわるスコアは低下した企業の方が多くなった。

「働きやすさ」と「やりがい」の両輪がそろった組織を「働きがいがある」と考えている同機関。「働き方改革の動きが加速する中で『やりがい』が置き去りにされている」と警鐘を鳴らした。

  • 「働きがい」を構成する「働きやすさ」と「やりがい」のうち、「やりがい」が置き去りにされているという

    「働きがい」を構成する「働きやすさ」と「やりがい」のうち、「やりがい」が置き去りにされているという

必要なのは従業員同士や経営・管理者層とのコミュニケーション

それでは、どうしたら「働きやすさ」も「やりがい」も実現できるのか。「働きやすさ」に加え、「やりがい」も高められた企業では、そうでない企業に比べて「信頼」や「連帯感」にまつわる項目のスコアが高かったという。

「経営・管理者層が、会社のビジョンやカルチャーを明確にし、必要な情報について従業員にしっかり伝える」「従業員がお互いを理解しあえる機会や仕組みが多様であり、連帯感を高める取り組みに手間暇を惜しまない」といった特徴があるとのこと。つまり、経営・管理者層と従業員、従業員同士で十分なコミュニケーションが取れていて、信頼関係を築けていることが必要だと言えるだろう。

実際にランキング上位に入っている企業では、社長と社員が気軽に雑談できる時間を定期的に設けたり、小グループを作り好きな活動をしてもらうなど、従業員同士がお互いを理解しあえる機会を作ったりしているという。

新しい「働きがいのある会社」の定義とは?

さらに付け加えると、女性やシニアなど、働く人のダイバーシティが進む中で、コミュニケーションの方法にも工夫が必要になってくるようだ。

代表取締役社長・岡元利奈子氏は、これからの人材マネジメントでは、男性社員が中心の施策や、これまで飲みニケーションや阿吽の呼吸で行われていた企業のゴール・ルールの伝達方法を変えるべき、と指摘した。

また競争環境が激化している現状を踏まえ、「社内の環境整備については結果(業績)とのつながりを意識すること」を提案している。

30年以上用いてきた働きがいのある会社のモデル(基準)も、そういった視点を強化できるよう、2021年のランキング(2019年10月-2020年9月調査)から変えていくという。

新しいモデル(基準)では、「マネジメントと従業員との間に信頼があること」「一人ひとりの能力が最大限に生かされていること」「優れた価値観やリーダーシップがあること」「イノベーションを通じて財務的な成長を果たせること」といった項目を定義に盛り込んでいる。

  • 全員型「働きがいのある会社」の定義: マネジメントと従業員との間に「信頼」があり、一人ひとりの能力が最大限に生かされている(For All)会社のこと。優れた価値観(バリュー)やリーダーシップがあり、イノベーションを通じて財務的な成長を果たすことができる

    全員型「働きがいのある会社」の定義: マネジメントと従業員との間に「信頼」があり、一人ひとりの能力が最大限に生かされている(For All)会社のこと。優れた価値観(バリュー)やリーダーシップがあり、イノベーションを通じて財務的な成長を果たすことができる

働き方改革の"順番"を間違えると失敗する

岡元氏に、同機関が考える働き方改革のあり方について聞いてみた。

「働きがいのある会社として成功しているところは『働き方改革をやりましょう』とは言っていない。これからの時代を勝ち抜くためにどういう価値を世の中に提供していけばいいのか、そしてそのために、どんな人たちにどんな風に働いてもらうのがうちの会社としてベストなのかと考えたときにはじめて、『働き方をこうしよう』という流れが生まれています」。

働く目的や企業の存在価値、仕事の意義・価値からさかのぼり、これらを実現するために「こういう働き方が必要だ」という展開がないと、働き方改革は失敗しがちなのだという。

また、働きがいのある会社ランキングで上位に入っている企業は、「組織開発」の部分にパワーと知恵を割いている印象だそうだ。

「日本企業では組織開発のためだけに部署を作ったり担当を作ったりすることは少ないかもしれません。一方、ランキング上位に入るような外資系企業では、企業のカルチャーを作るためだけの担当者がいるなど、力の入れ具合が違います。企業の力を高めて、業績を上げる強い組織を作ろうと思ったときに、カルチャーを作ったり、人材開発をしたりということにとても知恵を絞っています。その辺の意識改革も含めて、今後、いろいろと発信しないといけないかなと思っています」。

何を達成するための「働きやすさ」なのか、「やりがい」を醸成するためにはどんな組織のあり方が必要なのか、考えるべきときなのかもしれない。