鈴木このみ。1996年11月5日生まれ、大阪府出身。全日本アニソングランプリで優勝、畑亜貴リリックプロデュース「CHOIR JAIL」で15歳でデビュー。以降、数多くのTVアニメ主題歌を担当している
撮影:稲澤朝博

アニソンシンガー・鈴木このみが、約2年半ぶりのフルアルバムで”遊びまくって”いる。これまで主題歌らしい主題歌をうたうことの多かった彼女の紹介としては、驚きの一文かもしれない。しかし彼女は、デビューの頃からの音楽に対する真摯さ・真面目さをもってこれまでの活動からは想像できなかったような楽曲を多数作り上げ、ニューアルバム『Shake Up!』に収めた。そこに至るまでの、彼女の”変化”と”進化”とは。

●「あなたが笑えば」には、歌詞で“日常を描く”という挑戦が

――『Shake Up!』はフルアルバムとしては、約2年半ぶりの作品です。

その期間を振り返ると、比較的肩の力が抜けてきたのかなって思います。それは、歌うときに何もプレッシャーを感じないとかそういうことではなくて、ちゃんと人に頼れるようになってきて、より楽しくいろんなことができる環境を作れているという意味で。それと、あまり意地も張らなくなったというか……(笑)。何か新しい提案をされたときに「これは私らしくない!」と言わずに、「あ、そういうのアリだね」って言えるようになったんですよ。

――まさに、そういった部分が前面に出たアルバムになりましたね。

だと思います。やっぱり変わっていかないと進化もないと思うので、個人的にはすごくいい変化だなって思いますね。

――そんな『Shake Up!』は、どういったコンセプトのもと作り始められたのでしょう?

今回はタイトルが決まる前から「自分自身への果たし状みたいなアルバムにしたい」って思っていました。それはきっと、今言ったような心境の変化から来たものだと思うんです。なのですごく挑戦的な、今までの自分だったら歌わなかったかもしれないような曲が新曲として揃っています。ただ、「p.u.p.a.」は作編曲してくださった白戸(佑輔)さんへの果たし状のつもりでもありました。

「リテイク出さないので、今の自分に自由に曲を書いてください」と言ったら、白戸さんはどういう曲を書いてくれるんだろう? って。それができたのは、白戸さんが初期の頃からお世話になっている、作家さんの中でも特に近い存在だからこそだったと思います。

――そのうえで、1枚を通して”音楽で遊んでいる”という印象の強い作品になったように思います。

あ、言われてみるとそうかもしれないです。それこそリラックスじゃないですけど、より気軽に音楽できるようになったのかな、って。今まで「歌詞は絶対意味があるものがいい!」みたいに、なんとなく自分の中で「音楽とはこうあるべきもの」っていう固定観念が無意識的にあったと思うんですよ。

もちろんそれは私らしい音楽の楽しみ方だったと思うんですけど、今回はそれとは違う楽しみ方をたくさんできたように思います。レコーディングも、わざと何も考えないフラットな状態にしてやってみた曲もあったりもしたので。

――ちなみに、それはどの曲ですか?

アルバムラストの、「あなたが笑えば」です。これは自分が作詞した曲なんですけど、言葉もすごくシンプルですし、サウンドもギター一本だけなので、わざと「ここはちょっと声かすれさせよう」みたいに歌うよりは、「想いのままに歌っていったらちょっと不安定な感じになっちゃったけど、それが味としていい!」みたいになるほうがいいと思ったので、この曲はフラットな状態で、ぽつぽつと歌っていきました。

――歌詞は、今回どんなテーマで書かれたのでしょう?

ここ1年ぐらいの日常感を描けたらいいなと思って書きました。たとえば自分自身、昔は見栄を張って、相談したかったはずなのに「今日もすごくうまくいったよ」みたいに言っちゃっうとか、そもそも電話自体できなかったんですよ。でもこの1年ぐらいは、気兼ねなく誰かに電話して、最初はわーっと泣いて相談していたのに、気づいたら終わりの方では全然くだらない話をして笑っている……みたいなことがすごく多いんですよ。それもたぶん、意地を張らなくなったことに繋がると思うんですけど。

そういう今の日常感を、言葉に乗せられたらと思って書きました。なのでタイトルの”あなた”っていうのは自分自身のことでもありつつ、電話をする家族や友達でもあり、あとはやっぱりステージに立ったときに見える笑顔っていう意味でもあって……いろんな人に当てはまる曲なのかな、と思います。

●リード曲「シアワセスパイス」が目指したのは、とにかく飛び抜けた存在

――では続いて、リード曲「シアワセスパイス」についてお聞かせください。かつてないほどに”遊び”の盛り込まれた楽曲だと思うのですが、なぜこういった楽曲を作られようと?

たしか、「第二の『ワタモテ(※私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い)』が欲しいなぁ」っていう話がスタートだったと思います。やっぱり「ワタモテ」、ライブで特に盛り上がるので。ただ、それに合わせてシリアスな歌詞をつけるのではなく、あえて真逆のポップな歌詞や不思議な歌詞をつけてみよう、となりまして。

正直、歌詞が上がってきたときは「ここまできたか」みたいな驚きもありましたけど(笑)、やるからには飛び抜けたものをやりたかったので、予想以上のものを書いていただけて嬉しかったです。

――シンフォニックロック風のサウンドに、とにかく個性的な歌詞が乗った曲になりましたよね。その結果、”ザ・主題歌”のような曲を歌われる機会が多かった印象の今までの鈴木さんとは、また違うアングルから攻めた曲になりました。

そうですね。サウンド的にはどちらかというと得意分野ではあったんですが、ゴリゴリのサウンドに負けないパワーを出しつつ、歌詞のポップさをどう落とし込もうか……というバランスについては、ちょっと考えたかもしれないです。でも第一にしたのは、やっぱり飛び抜けたものにして「すごくかっこいいじゃん!」って言われたい、ということです。こういう曲って、ちょっとでも照れみたいなものがあるとすごくかっこ悪くなっちゃうので。

――しかも、意識的に崩して歌われているように聴こえた部分も多かったです。

それは、音源としてよりもライブのときの歌い方を意識したからだと思います。アルバム自体もライブを意識したものですし、曲自体も出発点が”第二の「ワタモテ」”だったので。

――ちなみに、歌詞の中から特にお気に入りの部分を挙げるなら?

一見語感だけ重視のように思われるかもしれないんですけど、ちゃんと意味も散りばめられているところです。たとえば、「届いて ソーリー ノーピクチャー」っていうフレーズは、最近自分もそうなんですけど、何か感動したときとかって目で見る前につい写真撮っちゃうじゃないですか? だから、その前に心の中に焼き付けてねっていうメッセージが込められていることも。いちばん想いがぎゅっと詰まっているのは、大サビの「ユアライフ イズ ビューティフォー」だと思いますし……そういう意味でも、歌詞をみんながどう受け取ってくれるのかが楽しみです。