●アイルランドへの旅で彼女が感じ、吸収したものとは?

――そして新曲でもうひとつ非常に気になっていたのが、作曲を手がけられた「Humming Flight!」です。この曲はアイリッシュなテイストのものになっていますが、こういった楽曲をお好きになられたきっかけは?

元々タップダンスが好きで10年ぐらいやっていたんですけど、今年の5thライブツアーで披露したアイリッシュタップダンスが、数あるタップダンスのなかでも特に自分の好きなものなんですね。それを練習しているうちに、「向こうの音楽とか人・文化ってどんな感じなんだろう?」と、アイルランドそのものに興味が湧いてきたのがきっかけでした。

――6月に実際アイルランドに行かれたとのことですが、この曲ができたのはその後?

はい。本当はカケラだけでも作って向こうで膨らませたかったんですけど、自分の中にはアイリッシュな楽曲について「ティンホイッスルとかフィドルが鳴ってる」みたいなアレンジのイメージしかなくて、いくら作ってもどうしても普通のメロディになってしまったんです。なので、潔く諦めまして(笑)。行ってから作る形をとりました。

――実際に行って感じたものが、メロディに詰め込まれているんですね。

はい。アイルランドでは本当にいろんな経験をして。毎日パブに行って、ビールを飲んだり演奏を聴いたり……。それに、パブにはステージというものがなかったんです。お客さんと同じ目線でビール飲みながら演奏されていましたし、お客さんの中からさっと入っていく方もいたんです。

実際自分も飛び入りで、事前に覚えていった誰もが知っている童謡みたいな曲を歌わせてもらいましたし……そういうふうにみんなで気軽に、好きで音楽をやっている雰囲気とか”境界のなさ”がすごく素敵だったんですよね。その「みんなで同じ目線で入っていって、一緒に歌って……」という雰囲気は、曲を作るときにすごく大事にしました。

――その”一緒に”という点は、歌詞も含めてこの曲の大きなテーマのように感じました。

そうですね。その歌詞は畑亜貴さんに書いていただいたんですけど、今回のアルバムの中で、絶対に畑さんに歌詞を書いてもらいたくて。その中でも、畑さんっていろんな国に行かれている方じゃないですか? インスタ開くたびにすごくオシャレな海外の画像が上がっていますし(笑)、絶対に自分よりも、世界中のきれいなものとかいろんなものを見ていると思うんです。

なので、この曲をお願いしまして。どこかへ旅するときのわくわく感や、どこかの国の誰かに会うときの楽しみみたいな要素を詰め込んでくださいとお話しさせていただきました。

――そんな経験を経てできた曲、歌うときもやはりハッピーな気持ちを前面に?

はい。でも、どうしても性格的に真面目にやっちゃうところがあって、最初は結構硬い感じに歌っちゃったんです。でも、歌詞自体「なんなんなんだか」とか、出だしからかなりご機嫌じゃないですか? なので、リラックスして鼻歌を歌うような感じというか、「ご機嫌になって歌っちゃった」みたいなカジュアルな感じを目指していきました。

そのテンション感を掴むまでは大変なところもあったんですけど、逆にそれを掴んでしまったあとは、ただひたすら「楽しい!」っていう感じでしたね。それにこの曲、実は開催中のアジアツアーの上海公演で初披露したら、予想以上に盛り上がってもらえて! クラップの部分もある曲なので、日本はもちろん海外でもみんなでひとつになれる曲なのかなってそのとき感じましたね。

●力強い”鈴木このみらしい”曲にも、自身も感じる成長が

――その他にも今回は、新曲・新録曲がたくさん収録されています。まず「Sparking light」は、割と王道主題歌のような楽曲で。「シアワセスパイス」の直後・2曲目だからこそ、今までやってきたことも捨てずに大事にしているような印象も受けました。

この曲は、ライブでも2曲目とかにやりがちなんです。弾ける明るさみたいなものを持ったすごくキャッチーな曲で、誰もこの曲を知らない状態で2曲目に置いても全然いけちゃうような楽曲なので、アルバムでも2曲目にしたいなと思いました。

――今回は収録曲のジャンルが幅広いので、並べ方も大事なポイントだったのでは?

結構難しかったですね。今回は”自分の歌”という軸があるだけで、全体的に今までの枠からはみ出た1枚になったと思うので。でもそれって、なんとなくみなさんの中に「鈴木このみといえばこんな感じ!」というイメージが出来上がってきているからこそできたことじゃないですか? そういう意味での嬉しさは、すごく大きいですね。

――強いサウンドとパワフルなボーカルが軸になっているのは、スピード感あるデジタルロック「ANOTHER REAL」もです。

これはもう、完全に自分らしい曲だと思っています。特に、活動初期の頃によく歌っていた感じの曲かも。

――その頃と比べて、ご自身で成長を感じる部分はありますか?

Aメロとかでは、すごく思いますね。デビュー当時からサビでバーンと行く感じは割と得意だったんですけど、なかなか引き算ができなかったんですよ。でも最近は、引いているときが楽しいというか……もちろん、わかりやすいサビの盛り上がり方とかも大好きなんですけど、最近は細かいニュアンスとかそれ以前の声の出し方について、「今、響いてるわー!」みたいな感じのところを突き詰めるのもすごく楽しいんですよ。