2019年に入り、携帯電話の次世代通信規格「5G」の普及に向けた動きが本格化している。先行する欧米や一部アジア地域ではすでに携帯キャリア各社の5Gサービスの売り込みに拍車がかかっているほか、日本でもNTTドコモが「プレサービス」と冠した先行商用サービスを開始し、2020年以降の本サービス投入に向けた準備を進めている。

今回は「なぜ5Gという規格が登場したのか」という背景を振り返るとともに、この5Gの登場によって「われわれの生活や仕事にどのような影響があるのか」といった話をまとめていきたい。

  • 5Gがすでに先行スタートしている米国では、このような表記を街中でよく見かける

10年ごとに進化する携帯ネットワークの世界

「5G」とは、「モバイル」や「携帯電話ネットワーク」と呼ばれる無線通信規格を指す名称の1つだ。「5th Generation」つまり「第5世代ネットワーク」を意味する略称であり、この世代に登場する技術を総称した規格の名称でもある。

この携帯電話ネットワークの世界では、1979年にNTTが最初の世代にあたる商用通信サービスを市場投入したのを皮切りに、およそ10年単位で世代交代が進められている。各年代の名称と特徴は下記のとおり。

年代 名称 技術的特徴
1980年代 1G アナログ通信
1990年代 2G デジタル通信
2000年代 3G CDMA (変調)通信
2010年代 4G LTE、キャリアアグリゲーション(CA)
2020年代 5G 5GNR、CA、マッシブMIMO、ミリ波

最初の1Gはアナログ通信であり、特定の周波数帯を占有することで音声通話を実現していた。同じ周波数帯で複数の通信は同時に行えないため電波の利用効率が非常に悪く、これは2Gでデジタル通信が導入されたことで改良された。

音声信号をデジタル変換し、さらに時分割という形で同じ周波数帯に複数の通信を載せることが可能になり、周波数当たりの回線収容率が大幅に向上。また、この時期にデジタル通信を応用したデータ通信サービスが本格化し、後のiモードなどの先駆けになるショートメールやコンテンツ配信がスタートしている。

いまや携帯電話においては音声通話よりもSNSや動画配信といったサービスを主体に利用するという人も多いと思うが、この時代を切り開いたのが3Gの登場だ。

信号を変調して電波の利用効率を向上するCDMAという技術が登場し、携帯電話においても大容量データをある程度高速にやりとりすることが可能になった。動画配信には不十分だが、前述のメールや簡単なコンテンツサービス程度であればストレスなく利用できる速度であるため、日本ではiモードを中心にさまざまなコンテンツ事業者が参加する形で携帯文化が花開いたのである。その後も3G世代での技術改良は続き、最終的には速度面でいえば80倍近い高速化が実現されている。

その後2010年代が近付いて「4G」に向けた技術開発が進むが、3Gでは複数の技術規格が乱立して混乱を招いたことを反省に、標準化団体の3GPPが主導で「LTE (Long Term Evolution)」の規格をまとめた。既存の3G技術の延長であり、スムーズにより高速で信頼性の高い技術を導入できるよう配慮された形だ。

最初のLTE規格は「3.9G」の名称が付与された「プレ4G」の位置付けにあたり、後に登場したLTE Advancedをもって4G時代の本格到来とした。速度面で高速なことに加え、3G世代と比べても遅延が大幅に縮小している。技術面では、携帯ネットワークのバックエンドでの処理がすべて「IP」というコンピュータ通信の標準技術に置き換えられたことが挙げられる。

ネットワークの効率的な運用管理の面で有利であり、LTE上での音声通話は「VoLTE (Voice over LTE)」という技術が用いられ、3G回線などでの音声通話と比べても高品質なものとなっている。このほか、キャリアアグリゲーション(CA)という複数の異なる周波数帯の通信を束ねてより高速なデータ通信を可能にする技術が導入されており、条件次第で最大2Gbpsのダウンロード速度(理論値)に到達する。これは3G最初期の仕様の1,000倍にあたる。

  • 「5G Evolution」の名称で「5G」を謳っているように見える米AT&Tのサービスだが、「“高速な”LTE」をマーケティング的にそう呼んでいるだけで、実際には5Gそのものではない