――重次という役柄について、台本を読まれてどのように感じましたか?
武羅土(ぶらど/演:石黒英雄)という主君に仕えており、彼のための任務を忠実に遂行する男ですが、自分の中にもいろいろ"葛藤"を抱えているなと思いました。自分がやっていることについても、すべてが正しいと思っていない。いつかは自分も"地獄に落ちる"と思いながら生きているという。侍として、人を斬るという無常さをどこかにしまいこんで、あえて非情な道を歩んでいるんだろうなと思いながら、演じさせていただきました。あまりセリフが多い役ではありませんが、ちょっとしたセリフの節々に重次の背景がうかがえるような芝居を入れようと心がけました。
――律花を演じる山本千尋さんと、剣による対決があるとうかがいましたが、アクションシーンについてはどのような心がまえで挑まれましたか。
ご存じのとおり山本さんはものすごい身体能力で華麗にアクションをこなされますし、こちらとしても"かつてないほどの稽古"をして、現場に臨みました。
――坂本監督は東映京都撮影所で時代劇を撮られるのが初めてだとうかがっていますが、現場での坂本監督のようすはいかがでしたか?
いつも以上に力が入っていた印象でしたね。演技やアクションの指導にも強い熱がこもっていて、今までの現場では聞いたことのないような厳しい口調だったりもしました。これはいつもと一味違うなと思い、ちょっとだけふざけるのをやめました(笑)。
――それだけ、撮影には緊張感があったということでしょうか。
撮影が長引くと、ついふざけて空気を和らげてみようと思うことがあるんです。でも今回は、山本さんも複雑な動きをこなそうと集中されていましたし、役にも入りこんでいる。これは今、何も言えないぞと思ってしばらく黙っていました。アクションのハードさよりも、ふざけたことを言わずに我慢しているほうがたいへんでしたね(笑)。律花と重次の対決シーンは、ほんとうに何度も何度もアクションを繰り返していましたが、そういった緊張感が、いい形で画面に出ているのではないかと思います。
――他に撮影で苦労されたことなんてありましたか。
根来衆(ねごろしゅう)を引き連れて山道を歩いているシーンでは、地面が濡れているのもあって、ワラジが水を吸い込んでとんでもなく冷たかったんです。ワラジってカカトの部分がなくて、足袋のカカト部分に水が染み込んでくるんですよ。でも冷たくて辛そうにしていたのは僕だけで、先輩俳優さんたちは平気でサッサッと歩いているんです。何か、水が染み込んでこない工夫とかがあったんじゃないかなって思っています。僕はそのあたり知りませんから、足がとにかく冷たかった。これが京都の"洗礼"だったのかもしれません(笑)。
――撮影期間中、京都の街を歩かれたり、お食事に行ったりされた思い出はありますか?
『GOZEN』のときもそうだったのですが、今回も撮影スケジュールがタイトでしたから、プロデューサーさんと食事に何度か行ったくらいで、京都を満喫、というまでには至りませんでしたね。そんな僕に、スタッフさんたちは「昨日はどこで飲んでたんですか」とか、毎日のように聞いてくるんです。いえいえ、仕事ですからそんなに頻繁に遊び歩いてはおりません。ふだんから真面目に過ごしていました、とここで声を大にして言っておきたいです(笑)。
――重次はさまざまな相手と戦いますが、これは手ごわかった!と思える方がいらっしゃったら教えてください。
根来衆のジンを演じていた出合(正幸)ちゃんですね。以前も撮影でご一緒したことがあったんですけど、あの人は立ち位置をよく間違えて、共演者を困らせることが多くありました。だいたい2回、間違えるんですよ。あの人は手ごわかったです(笑)。あと、真冬の撮影だったので、寒さで口が回らずセリフがとても言いにくかったのも苦労した部分です。最大の強敵は"冬の京都の刺すような寒さ"でした。