歌舞伎役者の松本白鸚が4日、東京・帝国劇場で行われるミュージカル『ラ・マンチャの男』東京公演初日前に、瀬奈じゅん、駒田一とともに取材に応じた。

  • 左から駒田一、松本白鸚、瀬奈じゅん

同作は1965年にブロードウェイで初演を迎え、トニー賞ミュージカル作品賞ほか5部門を受賞したミュージカル。1969年に市川染五郎(現 二代目松本白鸚)主演で日本初演を迎え、今回で50周年となる。名作『ドン・キホーテ』の作者であるセルバンテスが、劇中劇として田舎の郷士アロンソ・キハーナと、キハーナが作り出した人物ドン・キホーテを演じるという、三重構造となっている。

50年同じ役を演じたことについて、「決して楽ではなかったんですけど、それもこれも『ラ・マンチャの男』の歌じゃないですけど、苦しみを苦しみのままにするんじゃなくて、苦しみを勇気に、悲しみを希望に変えて頑張って、それが自分の俳優としての仕事だなと思ってました」と振り返る。

役柄そのままに白鸚のことを「旦那様」と呼んでいる駒田は「最初は幸四郎さんって言ったりしていたけど、白鸚さんに変わったときに、『旦那様』と呼んだ方が間違わないですむ」と笑いつつも、「旦那様なんです。僕にとって」としみじみ。瀬奈はこれまでの大阪公演、宮城公演、愛知公演を振り返り「本当に毎日ありえないほどの緊張感で始まるんですけど、終演後は悲しいはずなのにとても幸せな気持ちと勇気をもらって、明日も頑張ろうと思う。今までにない充実感を日々感じています」と心境を明かした。

1970年にはブロードウェイでの公演も行ったが、白鸚は「倒れるかと思いましたけど、日本でいると歌舞伎の俳優の家の子だとかがありましたが、その時は無名で日本の27歳の役者がやってるというだけですから、舞台だけが勝負。無名の潔さ、かっこよさみたいなものを初めて味わいました」と語る。また60歳を過ぎた頃には公演1,000回のご褒美としてスペイン旅行を用意され、一言を求められるも「『60過ぎてから見る夢が本当の夢だ。今まで見てた夢は"夢見る夢男"の夢だ』としか出てこなかった」という。

さらに「夢といえば、私の子供たちのことです。長男(現・松本幸四郎)は高麗屋である歌舞伎の道を、長女(松本紀保)は、シアターナインスで手掛けてきた小劇場の道を、次女(松たか子)は、ミュージカルや映像の道を、それぞれ進み、そういう意味では『夢』は叶ったとも言えます」と感慨を見せ、「観に来てくださるお客様を前にお芝居を御目に掛ける。人生にとってこんな幸せなことはないと思います」と締めくくった。公演は東京・帝国劇場にて10月4日~27日。