仕事の悩みだけでなく、結婚をするかしないか、子どもを産むか産まないかなど、現代社会で働く女性は日々、たくさんの悩みの中で生きている。アメリカで暮らす作家・小手鞠るいさんは、そんなビジネスウーマンに優しくアドバイスを提示するひとりで、その言葉に「救われた」という女性も多いという。このほど、都内で小手鞠るいさん&望月衿子さんの共著『働く女性に贈る27通の手紙』をテーマに、著者2人を招いたhonto主催のトークイベントが開催された。

  • 小手鞠るいさん、望月衿子さんが働く女性の悩みに答えるトークイベントが開催された

    小手鞠るいさん、望月衿子さんが働く女性の悩みに答えるトークイベントが開催された

結婚しないという選択

最初の悩みは「35歳を過ぎた頃から、結婚しない選択をした自分に自信が持てなくなってきました」というもの。小手鞠さんは、まず「早い段階で結論づけてしまうから、うまくいかないのかもしれません」と切り出す。何歳になったら結婚しなくてはいけない、ではなく「自分の好きな年齢で結婚すれば良い。そして、それは相手ができてから考えることです」。今後、良い人が出てきたらまた結婚を考えれば良いでしょう、と諭した。

  • 作家・小手鞠るいさん

    作家・小手鞠るいさん

現在63歳の小手鞠さんは「女の人生は50から花開く」としている。それまでは修行期で、50になってから、それまでの積み重ねが実るという意味だ。

「かくいう自分も、日本で暮らしていたときは年齢に追い込まれていました。歳をとるのが怖かった。軽いうつ状態だったと思います。アメリカのフェミニストが、女性にはガラスの天井があると言った。上は見えているんだけれど、行こうとしてもぶつかる。私もまさにそんな心理状態。自分の人生を長い目で見ることができず、この先、良いことなんてあるはずないと考えていました」

でもその頃の自分に、そして来場した女性たちに「大丈夫だよとお伝えしたい」と小手鞠さん。この話題は、後述の「キャリアデザイン」のところでも触れられている。

  •  女性の抱える悩みに親身に答えていった

    女性の抱える悩みに親身に答えていった

子どもを産まないという選択

「夫婦で話し合って、子どもを産まない選択をしたけれど、周りから『まだ間に合う』などと言われる度に辛い」という悩みには「子どものいる人生、いない人生、どちらも全く同じくらい素晴らしいと思います。私は産みませんでしたが、子どもがいないから味わう苦労もあり、いないから味わう幸せもある。子どもを産まない人生だからこそ、得られたこともあるんです」(小手鞠さん)。人生における、ちょっとしたきっかけで進むことになった自分の道の面白さ、味わい深さを興味を持って歩んでいく姿勢が大事だと思います、と話す。

  • 小手鞠さんの言葉に感銘を受けた、と話す望月衿子さん

    小手鞠さんの言葉に感銘を受けた、と話す望月衿子さん

周りでとやかく言う人間には「そもそも子どもがいないことを、マイナスと捉えている人が世の中に多すぎる。そんな考えを女性側からぶち壊していく必要があります。社会が何と言っても、『じゃあ私はどうなの』を第一に考えれば良い」と小手鞠さん。

望月衿子さんは「夫婦で話し合って、子どもを持たないことをお互いに納得して決めたという友だちがいます。それが結果として、夫婦の豊かな時間になっていた。子どもを授かって育てる過程においても、夫婦間でいかに共通テーマと向き合って話し合えるかが重要ですが、それと同じことなんだなと思いました」。夫婦で認識を共にして、「こうだよね」と1つのボールを持ち合える関係性が築ければ良いですね、と続けた。

  • 小手鞠るいさん&望月衿子さんの共著『働く女性に贈る27通の手紙』

    小手鞠るいさん&望月衿子さんの共著『働く女性に贈る27通の手紙』

仕事について

最後は仕事について。

「産休に入るため、自分が担当している仕事を同僚に引き継がなければいけない。でも翻訳という特殊な仕事のため、社内に引き継ぐ人がいない。会社に迷惑がかかりそうで悩んでいます」という悩みには「それを言い出すと、ずっと環境が変わりません。人が辞める、異動するということは、常に突然に訪れる。その時々で、会社という組織は形を変えて不足を補い合っていくものです。発明と言うべき工夫も生まれ、働きやすい環境がつくられていく。後に続く人のためにも、悩む必要はありません」(小手鞠さん)。

ところで小手鞠さんは、かつて出版社からパワハラを受けたこともあるという。夫からは「自分の仕事をリスペクトしろ。傲慢になってはいけないが、安売りするな」と言われたそう。そこで冷静になり、経緯を時系列にまとめたものを用意したら、相手の態度も変わって無事に解決したと明かした。

キャリアデザインについて悩む参加者には「皆さん30~40代で結論を求めすぎです。そこで諦める必要はありません。先ほどの話にも通じますが私は60を過ぎたいま、人生は50からだな、としみじみ思っています。若いうちの苦労は買ってでもせよ、ではありませんが、50までは試練の時期だと思ってください。50~60代になったとき、なりたい自分になっていれば良いんです。若い頃に人生が決まると考えていることが間違っている」。

その上で、社会の風潮に釘を刺すことも忘れない。「日本は、女性の『美しさ』と『若さ』ばかりがもてはやされる社会になっている。でも狭い島国・日本の常識は、海外では非常識。私もかつて、日本で暮らしていたときには30で人生が終わるかのように思って悲観していました。今から思うと30なんてひよっこ。だいたい、若さとは自分が決めるものです。自分は19じゃないか、と思えば永遠に19なんです」。笑いが起こり、やや張り詰めていた会場の雰囲気が一気に和らぐ。

  • 2人の言葉に、来場者が聞き入った

    2人の言葉に、来場者が聞き入った

望月さんは、仕事で出会った大切な友人を『シゴトモ』と呼び、そんな友人を大切にしていきたいと語る。

「お互いに働く女性だからこそ出会えた友だち、って貴重だと思うんです。長く仕事を続ける醍醐味じゃないでしょうか。今後、キャリアを積んでいく女性が日本中で増えていきます。ますますシゴトモの時代になる。仕事を通じて出会い、途中で離れることがあっても、またいつか出会う。そんなときは嬉しいし、信頼関係の延長の中で、面白いことも立ち上がりそうな気がしてくる。横のつながりで何かが派生する、ということって女性は得意ですよね」

これに小手鞠さんも「素敵ですね」と相槌を打つ。

「昔は25で結婚して家庭に入って子供を産まなければ不幸と言われていたけれど、現代は女性にとって生きやすい時代になりました。それも女性の先輩たちが戦ってきた結果です。本当に良い時代を築いてもらえた。皆さんは、その後継者です」(小手鞠さん)。

ユーモアを交えながらも、女性の悩みひとつひとつに丁寧に回答し、爽やかに処方箋を示していった2人のトークショーに、勇気づけられた参加者も多い様子だった。