広瀬すず主演のNHK連続テレビ小説『なつぞら』(毎週月~土曜8:00~)が、いよいよ佳境を迎えてきた。ひたむきに生きるなつに寄り添ってきたのが、内村光良演じるなつの父であり、ナレーション(語り)という形で娘の成長を見守ってきた。脚本を手掛けた大森寿美男のコメントを交え、その魅力をひもとく。

  • 内村光良

    『なつぞら』でナレーション(語り)を務める内村光良

内村がナレーションを担当することが発表されたのは、彼が司会を務めた昨年の『第69回NHK紅白歌合戦』のステージであり、大いに反響を呼んだ。ただ、視聴者にとって真のサプライズは、第9回の放送時だったのではないか。その正体が、戦死したなつの父親だったと明かされたのだから。それによって、各話の副題や締めのフレーズに来る「なつよ」という呼びかけがもたらす意味合いが変わったように思う。

大森氏は演出スタッフに、「なつよ」のフレーズについて「僕は意地でも、最後に『なつよ』と付けるけど、編集段階で明らかに入れないほうがいいと判断した時は、使わなくてもいいですよ」と言っておいたそうだ。「編集は台本どおりに終わらないし、1回が長すぎたり、違うところで切られたりするので。また、編集されたものを映像でもう1回見せてもらい、そこから映像の雰囲気に合わせて考え直したこともあります」

確かに時々、締めのナレーションがない回もあるし、「なつよ…」で、そのまま絶句して終わる回などもあった。

「最終的には編集によって決まりますが、最後につけるのを好まない演出家の方もいて、外される場合があります。自分が台本を書いている時も、ここはあまり言うことがないなと思いながら、無理やりひねり出してつけることもありましたし。でも、最終的にはこれしかないだろうというものを見つけて書きました」

時折、おちゃめなナレーションが笑いを誘うこともある。たとえば、なつが東京で、夕見子(福地桃子)の駆け落ち相手の高山昭治(須藤蓮)を見た瞬間、高山に祖父・泰樹(草刈正雄)の面影を重ねるが、そこで「なつよ、じいちゃんが、ここに来るわけないだろう。けど、夕見子ちゃん、そういう人が、好きだったのね…」と視聴者の感想を代弁するようなツッコミを入れていた。

また、なつの将来の夫となる坂場一久(中川大志)が初登場した回では「この不器用な青年が、やがて、アニメーターとしてのなつに、大きな影響を与えてゆくことに、なるかもしれません。霊感です」という、未来を把握している立場ならではの、おちゃめなつぶやきも話題に。

  • 大森寿美男

    『なつぞら』の脚本を手掛けた大森寿美男氏

短編映画の完成とマコさんこと大沢麻子(貫地谷しほり)の結婚を、なつたちアニメーション制作チームで祝う際も、ナレーションのツッコミが冴えていた。下山克己(川島明)が全員の似顔絵を描いた際に、“完”という文字が入ろうとするも「こら! まだまだ終わらせるなよ。来週に、続けよ」と一喝するシーンで笑いを取った。

そして、なつと坂場の結婚披露宴を開く回では、「天国のお父さん、お母さん、元気ですか?」というなつの呼び掛けに「はい、元気にここにいます」と答え、さらになつが「私は、この人と、坂場一久という人と結婚します」と報告すると、「はい、分かっています。お母さんも」と、軽快に会話のキャッチボールを披露した。

また、披露宴で、参加者の集合写真を撮った際には「私も、写りたかったけど、やめておいた」というぼやきをお見舞い。うっかり写り込んだら心霊写真になってしまうと、SNSで祭りとなった。

「面白いと思ってくれる視聴者も、いらないと言ってくる視聴者も両方いると思いながら書いていました。ただ、毎回『来週に続けよ』を書いたのは、失敗だったかもしれない(苦笑)。橋本さんの音楽が素晴らしかったので、余韻を壊しているかと。でも、いまさらやめるわけにもいかないので、最後まで意地でも続けようと思いました。今ではそこも、すっかり馴染んでいると思っています。私としては、あのナレーションが入ることで、なつのお父さんの存在を印象づけられればいいなあと思っていたので」という大森氏。

確かに、なつは早くに親を亡くし、柴田家の一員となってからは、多くの人に愛されてきたが、何度も逆境の中で枕を濡らす日もあった。父親としてそばにいられたら、なつを抱きしめることもできるが、その思いは叶わない。だからこそ、父はナレーションとして、娘の身を案じつつ、陰ながらエールを送り続けるのだ。その姿勢はきっと『なつぞら』がゴールに向かうまで貫かれるに違いない。

■プロフィール
大森寿美男(おおもり・すみお)
1967年生まれ、神奈川県出身の脚本家、演出家、映画監督。ドラマ『泥棒家族』(00/日本テレビ)、『トトの世界~最後の野生児~』(01/NHK-BS2)で、当時史上最年少で第19回向田邦子賞を受賞。主なドラマの執筆作はNHK連続テレビ小説『てるてる家族』(03~04)、NHK大河ドラマ『風林火山』(07)、『悪夢ちゃん』(12/日本テレビ)、『64(ロクヨン)』(15/NHK)、『精霊の守り人』(16~18/NHK)など。2009年に『風が強く吹いている』で映画監督としてもデビューし、第31回ヨコハマ映画祭および第19回日本映画批評家大賞で新人監督賞を受賞。

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