小田急電鉄が2018年から、自動運転バスの実証実験を重ねている。「MaaS」(Mobility as a Service)への取り組みについても同社は積極的だ。鉄道事業者がなぜ、自動運転やMaaSに乗り出すのか。観光地である江の島周辺で行われた実証実験を紹介しながら解説していく。

ソフトバンクグループも関与

小田急電鉄は8月21日から30日にかけて、神奈川県藤沢市の江の島周辺公道で自動運転バスの実証実験を実施した。「江ノ電」の愛称で知られるグループ会社の江ノ島電鉄およびソフトバンクグループのSBドライブと共同での取り組みだ。小田急は2018年9月にも江の島周辺公道で同様の実証実験を行っているので、2年連続2回目の実施となる

  • 小田急電鉄が実施した自動運転バスの実証実験

    小田急電鉄は昨年も江の島周辺の公道で自動運転バスの実証実験を実施した

昨年の運行ルートは、本土と江の島を結ぶ橋のたもとにあった「江ノ島海岸バス停」から、島内の臨時バス停「小田急ヨットハーバー」までの約1キロだった。今年は本土側が臨時バス停の「県立湘南海岸公園中部バス駐車場」、島内が「湘南港桟橋バス停」となり、距離は2倍となっていた。

  • 小田急電鉄が実施した自動運転バスの実証実験

    昨年の実証実験の様子。今年の運行ルートは、本土側の臨時バス停「県立湘南海岸公園中部バス駐車場」と島内の「湘南港桟橋バス停」を結ぶ片道約2キロだった

「江の島」と「江ノ島」の2種類の表記があって紛らわしいと思った方がいたかもしれないが、筆者もかつて住んでいた藤沢市は「江の島」、小田急と江ノ電は「江ノ島」を公式表記としているので、ご容赦願いたい。同様の例は東京のお茶の水(地域名)/御茶ノ水(駅名)など、ほかにもいくつかある。

自動運転バスは、日野自動車の小型路線バス用車両「ポンチョ」をベースに自動運転化した車両で、筆者は江の島以外に、2019年2月に東京都の多摩ニュータウンで行われた実証実験でも乗っている。SBドライブは、これ以外にも国産バス改造による自動運転車両や仏ナビヤ製無人運転シャトル「アルマ」を所有しており、全国各地での実証実験を通じ、技術検証、実用化に向けた課題の整理、社会受容性の拡大などに取り組んでいる。

  • 実験で使用された自動運転バス

    実験で使用された自動運転バス

江の島での実証実験は、自動運転「レベル3」に相当する。つまり、限定条件下でシステムが全ての運転タスクを実施し、システムが要請した場合のみ、ドライバーが対応するというものだ。市販されている乗用車が搭載する運転支援システムは、人間が全ての運転タスクを担当するので「レベル2」となる。運転主体が人間かシステムかというのが大きな違いだ。

今年の実証実験は、昨年よりも技術検証の内容が高度になっていた。具体的には、信号情報を取得しながらの走行や、交差点に設置されたセンサーで対向車の有無を確認した上での右折などを見ることができた。また、バスには車掌が同乗し、試乗者の乗降の補助や乗車時の本人確認、車内外の安全確認などを実施。自動運転バスの実用化に向けては、技術面以外にも必要になるサービスがある。そのあたりを検証していたようだった。

運転士不足に悩むバス事業者

ではなぜ、小田急が自動運転バスの実証実験を行うのか。

小田急といえば、ロマンスカーをはじめとする鉄道のイメージが強いが、沿線では路線バスを走らせており、東京と箱根などを結ぶ高速バスも運行している。さらには、最初に紹介した江ノ島電鉄や神奈川中央交通など、グループ内にバスを運行する交通事業者を持っている。

  • 小田急電鉄の車両

    鉄道のイメージが強い小田急電鉄だが、沿線ではバスも運行している

路線バスは現在、運転士不足に悩まされている。地方のみならず、東京23区内でも人手不足が問題になっており、運行終了や減便に追い込まれた路線も複数存在する。

東京都渋谷区にある筆者の事務所の周辺で多くの路線バスを走らせている京王電鉄バスでも、2018年2月に渋谷駅と初台駅を結ぶ路線が事実上、運行終了(路線維持のために土曜日朝1便のみ存続)となった。利用客が減少し、路線の維持が困難というのが事業者の説明だったが、運転士不足も理由になっているはずだ。東京を代表するターミナルのひとつ、渋谷駅を発着するバスでさえ、こういう状況になっている。

しばしば渋滞する道路を、路上駐車車両を避けつつ、乗客の安全快適を第一に走行しながら、停留所との間隔が狭くなるように車両を停め、両替を含めた運賃収受のみならず、行き先の案内まで行う。路線バス運転士の業務が大変であることは、端から見ていても理解できる。自動化によって運転士が不要になれば、これまで維持が難しかった路線の存続が可能になるかもしれないわけで、乗用車以上に、自動運転が大事な分野だと思っている。

ところで、小田急グループは昨年から、自動運転と並行して「MaaS」(Mobility as a Service)への取り組みを強めてもいる。

MaaSとは北欧フィンランドで生まれた概念だ。ICT(情報通信技術)を活用し、マイカー以外の全てのモビリティ(移動)をひとつのサービスとして捉えてシームレスにつなぎ、スマートフォンのアプリなどを用いてルート検索や運賃決済を行うサービスのことである。フィンランドではサブスクリプション、つまり、定額制のメニューも存在しており、自動車に過度に依存した社会がもたらす都市問題や環境問題解決のためのツールとして、世界的に注目されている。

筆者は昨年秋にフィンランドを訪れ、現地のMaaS関係者から説明を受けたほか、国内外の先進的な交通サービスの取材も続けている。その内容を書籍「MaaS入門:まちづくりのためのスマートモビリティ戦略」にまとめているので、興味がある方はご覧いただきたい。

  • 書籍「MaaS入門:まちづくりのためのスマートモビリティ戦略」

    「MaaS入門:まちづくりのためのスマートモビリティ戦略」

自動運転とMaaSの関係

昨年の実証実験で小田急は、経路検索「駅すぱあと」で知られるヴァル研究所とともにMaaSのトライアルを実施した。ヴァル研究所は自社で提供しているスマートフォンアプリ「Yahoo!乗換案内」に自動運転バスの臨時バス停「小田急ヨットクラブ」を設置し、ルート検索・乗車予約などのサービスを提供。さらに、同アプリの小田急藤沢駅および片瀬江ノ島駅の駅情報に駅構内図を追加し、江の島周辺のカフェ情報も掲載した。

その後の2018年12月、小田急はヴァル研究所のほか、コインパーキングでおなじみのタイムズ24、全国で自転車シェアを展開するドコモ・バイクシェア、スタイリッシュな電動車いすで知られるWHILLと、MaaSの実現に向けたシステム開発やデータ連携、サービス検討などの相互連携・協力で合意。2019年1月にはJR東日本とMaaSでの連携について検討を開始すると発表した。

続いて2019年4月、小田急はヴァル研究所とともに、鉄道やバス、タクシーなどの交通データやフリーパス・割引優待などの電子チケットを提供するためのデータ基盤「MaaS Japan」を共同で開発することに合意。このデータ基盤を利用したMaaSアプリを用いて、年末までに箱根エリアと新百合ヶ丘・町田エリアで、利用者のニーズなどを確認する実証実験を実施すると発表した。

このデータ基盤はMaaSアプリへの提供を前提とした日本初のオープンな共通データ基盤として、ほかの交通事業者や自治体などが開発するMaaSアプリにも活用可能としており、実証実験対象エリア外でもMaaSの実証実験を容易に実施できる環境を提供するという。

それを証明するように5月には、JR九州、静岡県の遠州鉄道、日本航空、 タクシー配車アプリを提供するJapanTaxi、自動運転分野にも積極的なDeNAと、MaaS Japanにおけるデータの連携やサービスの検討を行うことで合意した。

自動運転とMaaSは密接な関係にある。運転士がいない無人運転車では、行き先に関する問い合わせに対応したり、運賃を受け取ったり、両替を引き受けたりという人間ありきのサービスは提供できなくなる。MaaSによる事前のルート検索や運賃決済が必須になってくるのだ。逆にいえば、MaaSを導入すると、自動運転による移動サービスを自然に使うことができるようになる。

小田急ではMaaS Japanの商標を出願中だという。この日本で「Japan」と名乗るわけだから、レベルの高いMaaSを構築できるという自信があるのだろう。自動運転を取り入れたMaaSは、厳しい状況に置かれている過疎地での交通維持にも効果があるので、首都圏の鉄道事業者という枠を超えた展開を期待したい。

著者情報:森口将之(モリグチ・マサユキ)

1962年東京都出身。早稲田大学教育学部を卒業後、出版社編集部を経て、1993年にフリーランス・ジャーナリストとして独立。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。グッドデザイン賞審査委員を務める。著書に『これから始まる自動運転 社会はどうなる!?』『MaaS入門 まちづくりのためのスマートモビリティ戦略』など。