「Kintone」などのクラウドサービスを展開するソフトウェア企業・サイボウズはこのほど、「サイボウズ 働き方改革の最新動向レポート」と題したプレス向けセミナーを同社の東京オフィスで開催した。
セミナーでは同社のメソッド事業を手がける「チームワーク総研」シニアコンサルタント・なかむらアサミ氏が登壇。他社における働き方改革の現在の動向や事例を交えながら、「働き方改革の今後」について語った。
働き方改革のこれまでとこれから
サイボウズはITバブル期だった2005年、会社として成長期を迎えていた中で人材獲得に苦戦する事態に危機感を持ち、社員が長く働ける会社を目指して"働き方の多様化"に着手。時代に先駆けて働き方改革を推進してきたことで知られる。
現在に至るまで試行錯誤を重ね、独自の人事制度の導入や風土改革などの結果、当時28%だった離職率は現在4%に。働き方改革の成功企業としてメディアなどでも注目されるようになった。
サイボウズの「チームワーク総研」は2017年に開設され、これまで同社が行ってきた働き方に関する取り組みを様々な企業・組織へ研修などを通して提供。ソフトウェア事業に並ぶサイボウズの主軸事業としてメソッド事業を展開し、研修やコンサルティングの依頼が急増しているという。
「総研ができた当初は『サイボウズの働き方改革について教えてください』といったニーズがほとんどでしたが、大きな変化として、最近は職場でのコミュニケーション・チームワークに関する問い合わせが特に増えていることが挙げられます」
その理由としては、働き方改革に取り組み始めた企業が増えた一方で、自分の時間を大事にしたい若手と、自分の時間を犠牲にしてきた管理職の分断状態が鮮明化したことなどが考えられるそうだ。
「また、昔はマネジメントやマニュアル化がしやすい工場労働がベースとなった働き方がホワイトカラーにも適用されてきましたが、今はマネジメントも一律ではなく、個別対応が求められるようになりました。総研への問い合わせ内容の変化には、かつてより密なコミュニケーションが職場で求められていることも背景にあると思われます」
なかむら氏によれば「人事制度は変えるものではなくて増やすもの」とのことで、サイボウズは100人100通りの人事制度によって、社員の働き方の選択肢を増やす“働き方の多様化"に支援をしてきたという言い方のほうが、働き方改革よりも正確だという。
「総研が提供するのは自社の社員向けの研修で、自分たちがやってきたこと。逆に言うとそれ以外のことは行っていません。サイボウズは社長の青野(慶久)の印象が強く、トップダウン方式で変わったと思われがちですが、実はボトムアップで、メソッドとして提供する際の具体的な方法も全てボトムアップになります」
今回のセミナーでは100人100通りの人事制度を実現するため、様々な制度やツールの整備、それらを活用しやすい社内の風土づくりを行ってきたことが紹介された。
学校の教師への講演や生徒向けの授業も
風土づくりでは、部活動など横のつながりを重視する"場づくり"とオンラインとオフラインを使い分けた"情報共有"などがあり、「チームワーク総研」は新入社員やマネージャー、全社向けなどカテゴリー別の研修などを通してそのノウハウを伝えている。
「研修では自分たちが実践して学んだことを伝えますが、ダニエル・キムの"組織の成功循環モデル"の理論を見たとき、直感的に『自分たちの取り組みが裏付けられた』と思いました。この理論は何か結果を出したいとき、行動を変えようとしても他人や自分の行動を変えることは難しいので失敗しやすい、まずは結果に関係する人たちの関係の質を上げることから始めようというものです。遠回りに見えても、お互いに認め合う関係性を築き、行動の質を上げていくほうが、結果に結びつきやすくなるということですね」
「チームワーク総研」のレギュラーメニューは、研修要素や対象カテゴリーを組み合わせるかたちだが、特に印象的なものでは、顧客企業の社員がサイボウズでインターンするというものもある。2週間、実際にサイボウズで一緒に仕事をすることによって、経営会議や情報共有の方法などを体験。同様の手法を自社の経営会議などに取り入れた事例があるそうだ。
「研修での学びも組織の上下にうまく伝わらないと現場の変化につながらず、トップの支援が必要です。一般社員とトップの間の中間管理職の人たちが共感してくれると、非常に強力な協力者になってくれるので、そうした方たちの理解を得ることを特に重視しながら、ボトムアップで変えていく支援を目指しています」
研修やコンサルティングを行う組織は、労働組合や業界団体など様々なようだ。
「チームワークのノウハウは学校向けに活用しやすく、大人よりも子どもに伝えたほうが将来的な影響力も大きいという考えもあり、生徒向けの授業を行っています。総研は研修会社ではありませんが、教師の方々の働き方改革に関する講演依頼も増え、そうした点は他の研修会社さんとは異なる特徴的なところです。大手企業では現在、パナソニックの人事部門を通じての組織改革を進めています」
今年4月に働き方改革関連法が施行され、働き方にまつわる弊害なども取り沙汰されている現在、働き方改革は次の一手を考えるフェーズに至っている。
「働き方改革が失敗する大きな原因として、いきなり生産性向上という結果を求めることがあります。そこで働く人たちのことを忘れて、機械的に『水曜は残業なし』となると、どうしても不満が出やすい。まずは一人ひとりの従業員がどうしたら幸せになるか、その実現のためにチームでどう効率化するか。その答えの先に生産性が向上するということがあるはず」
そもそも自分はどんな働き方をしたいのか、上司や部下、同僚はどんな働き方を望んでいるのか。企業には働く人、一人ひとりを尊重する姿勢がいっそう求められているようだ。