近年、「働きがいのある会社ランキング」などで常連として名を連ねるサイボウズ。同社の定時株主総会が3月30日に行われ、同日には「チームワーク経営シンポジウム」が開催された。

  • 青野慶久氏、嘉村賢州氏、塚越寛氏、岡田武史氏、崔真淑氏が登壇

    (左から)青野慶久氏、嘉村賢州氏、塚越寛氏、岡田武史氏、崔真淑氏が登壇

グループウェアの開発や販売、運用などを手がけるサイボウズ。その代表取締役社長を務める青野慶久氏がファシリテーターとなったこのシンポジウムには、サッカー指導者で今治. 夢スポーツ代表取締役会長の岡田武史氏らが出席。パネルディスカッションが行われた。

当日の話題は多岐にわたったが、本稿では“未来の組織のあり方”として近年注目を集める「ティール組織」に関する議論を中心に紹介する。

  • サイボウズ代表取締役社長・青野慶久(あおの よしひさ)氏

    サイボウズ代表取締役社長・青野慶久(あおの よしひさ)氏

そもそもティール組織ってなに?

冒頭、まずは「ティール組織」について第一人者の嘉村賢州氏から解説が。

『ティール組織』(英治出版/2018年1月発行)の著者であるフレデリック・ラルー氏は、コンサルティングファームを経て独立。働きがいや幸せを感じにくい組織マネジメントに違和感を抱き、組織の歴史を探求する。その中で、軍隊・機械・家族など、その時代ごとに通底するメタファーによって組織を5段階に分類。圧倒的な力による脅しで集団を動かすレッド、命令系統を発明し長期的展望で事業を行うアンバーなど、それぞれを色で表現した。

「組織同士の競争が激化すると、能力主義を特徴とするオレンジが現れます。『オレンジ』の組織では生産性が著しく高まりましたが、人が機械のように働かなければならないなどの矛盾が生じました。その後、階級や役職を廃し、文化や対話を大事にしながら権限委譲を積極的に行うグリーンが現れますが、この組織も“船頭多くして船山に上る”“ちゃぶ台返し”といった矛盾をはらみます。グリーンの組織では多様性を重視するゆえ物事が進まず、緩やかにピラミッド構造が残るので、上層部とメンバー層で溝が深まりやすいのです」と嘉村氏。

そして、生命体のように運営される最先端の組織をティール(青緑色)とし、ラルー氏はティール組織に共通する特徴を、「自主経営・全体性・存在目的」とまとめる。

  • 『ティール組織(英治出版)』解説者・嘉村賢州(かむら けんしゅう)氏

    『ティール組織(英治出版)』解説者・嘉村賢州(かむら けんしゅう)氏

「自主経営は、上下関係による組織構造を完全に手放すことを表しています。実は自然界では指示命令型・統率型マネジメントは少なく、各々が自由に動く中で調和を保つ構造がけっこうあります。それまでのパラダイムでは権限委譲がありますが、ティール組織は全員が決定権を持ち、主体性のある1人の人間として自由に意思決定ができる」

「また、本当に大切にしたい顧客や仲間のため、リラックスしながら情熱を注げられる特徴を全体性と呼んでいます。普通、会社は人間性よりも効率性・生産性を重視する場ですが、上司の評価や同僚との給与差にエネルギーを割く前に、全体性を持ち働くほうが熱量も高まりやすいということです」

「最後の存在目的とは、内なる指針とエネルギーに基づき、世界や自分たちの変化を感じながら事業や組織構造を常に進化させること。世界中のほとんどのティール組織が中長期の事業計画を持たないことに驚いたラルーさんは、目標が原因で変化に対応しにくくなるのではないかと、強く警鐘を鳴らしています」

「利益はウンチ」「最先端にあまり価値はない」

パネルディスカッションは、青野氏、岡田氏、嘉村氏のほか、伊那食品工業取締役会長・塚越寛氏、グッド・ニュースアンドカンパニーズ代表取締役・崔真淑氏が登壇。パネリストや来場者の属する組織がそれぞれ何色かという、アンケートの紹介から始まった(以下、敬称略)。

  • サッカー指導者であり今治. 夢スポーツにて代表取締役会長も務める岡田武史(おかだ たけし)氏

    サッカー指導者であり今治. 夢スポーツにて代表取締役会長も務める岡田武史(おかだ たけし)氏

  • 伊那食品工業取締役会長・塚越寛(つかこし ひろし)氏

    伊那食品工業取締役会長・塚越寛(つかこし ひろし)氏

  • グッド・ニュースアンドカンパニーズ代表取締役・崔真淑(さい ますみ)氏

    グッド・ニュースアンドカンパニーズ代表取締役・崔真淑(さい ますみ)氏

青野:岡田さん、会場で1人だけレッドですよ(笑)

岡田:それもいいな(笑)

嘉村:わかりやすく物差しのようにまとめていますが、どれが一番とかではないです。

岡田:無理やりフォローせんでええよ(笑)

嘉村:いえ、ラルーさんは必ずしもティールが正解とは言っていないし、レッドが悪いというわけではないんです。場面やチームに相応しい運営方法があり、時々でどの引き出しを使うかなので。

青野:私が『ティール組織』のエピソードを読んで、思い浮かんだのが伊那食品工業の塚越さん。私にとっては神様のような人で、非常にティールっぽいマネジメントをされていて。未来の幸福な会社ってこういう会社かなと思いました。

塚越:私はグリーンにさせていただきました。グリーン的な発想だと社員は家族ですね。私はまず経営者の責任として、雇用した人の一生に責任を持つっていう考えを持っているんですよ。古いですね(笑)。だから、うちの規模だとたぶん上場もできるでしょうけど、私は上場しないことに決めて。500人くらいの会社ですが、会社が嫌で辞めた人はこの20年ほぼいないです。過剰評価されているかもしれないですけど、パートでも大卒でも募集すると定員の50倍くらいきますね。

青野:この人手不足の時にすごいですよね。塚越さんの本に「利益はウンチ」という言葉があって、私、大好きなフレーズですが(笑)。上場企業の経営をしていて利益がウンチだと思ったことはあまりなかったので。

塚越:あまりにもみんな利益第一主義だから少し皮肉を込めてね。渋沢栄一さんの『論語と算盤』という本に「名声や財産は求めちゃいけない。最初にいいことをやれば結果的にカスみたいに出てくる」といった内容があり、そこからちょっと自信を持って。出そうと思うと出ないんですが、健全な会社なら毎年出る。

青野:やはりウンチが毎日出るのは健康な証拠だと。

塚越:「売上-経費=利益」だから、人件費とかを節約すれば利益は出ますけど、経費って、よその会社の売上じゃないですか。日本中が経費節約したら不景気になるに決まっているんで、うちは経費節約と言ったことがないです。もちろん制限もありますが、必要なものはどんどん使いなさいと。

青野:経費で好きに備品買っていいとか、ティール組織はなぜ現場に意思決定権を渡せるんですかね。無駄遣いとかありそうですけど。

嘉村:ティールはさまざまな要素が繋がっていて、意思決定の仕組みだけ導入してもうまく機能しないですね。ティールで特徴的なものとして、専門性の高い人やその意思決定で影響を受けそうな人に、絶対に助言を1回もらう“助言プロセス”があります。フィードバックする人は真摯に助言し、意思決定する人も耳を傾け、配慮しなければならない。信頼関係が前提です。

:企業トップが辞めずに絶対にコミットしているというシグナルを、社員や株主に対して出しているのが大事で。ここいらっしゃるのは名経営者の方々ばかりですが、すぐ経営陣が交代するような企業だと信頼関係もできず、真摯に耳を傾けられないのかなとも思います。

塚越:理念が踏襲されれば変わってもいいんですが、枝葉と基本理念を混同するのは良くない。いま最先端でも30年後は古くなるんだから、私は最先端ということに実はあまり価値はないんじゃないかと思う時があります。自分の裁量を出したくなる後任者の気持ちもわかるけど、それより普遍のものをわからせると社員も変わるんじゃないですか。みんな同じたった一度の人生、繰り返しはできないんだから、会社も快適にしようと。ティールも結局そういうことじゃないのかな。

嘉村:まさにそうです。たった一度の人生、職場で鎧着て効率のため働くのか、ちゃんと自分の人生を生きましょうと。リーダー職に命令権限を与えたのはオレンジ組織の大発明ですが、これは上の人からすると結果だけで昇進を決められるラクなマネジメントで。そこで出世した人がトップに立つと、存在目的より結果責任を果たす熱量の割合がどうしても増えてしまう。失敗から成長があるのに挑戦しにくくなったり、そうして組織の方向性を少しずつ間違うのかなと。

日本人はレッドのほうが幸せを感じやすいのか

:なぜ職場で鎧をつけるのかは、働き方や制度に依存する部分がありますね。

嘉村:ラルーさんは今のティール組織の文脈を指し、馬車の時代に車が登場しているようなものと言うんですね。馬車の時代は道路も砂利道で車の部品も高い。現状ではグリーンやオレンジのほうがやりやすくて、正直ティールは今の時代やりにくいと。ヨーロッパは法律面から変えていくムーブメントも起こり始めていますが、株式制度や会社法が変わってティール組織が増えるとより運営もしやすくなる。日本はまだまだですが。

岡田:特に日本でティール的なことを本当に望んでいる人は少ないかもしれない。主体的に責任を持って選ぶこと、自立を求められることが重荷に感じる社員もいて。レッド組織で命令されるほうが働きやすい人もいるというか。だから僕は青野さんのいう100人100通りが好きで。

塚越:確かに幸せは多種多様です。ただ、末広がりじゃないといけないとは思いますね。だんだん良くなる形の中に希望や夢って言葉は存在するけど、右肩下がり、あるいは激しく乱高下するだけの世界や会社にはない。多少、波があっても右肩上がりだから夢も希望もあるんですよ。

岡田:ある意味、俺はハッタリに近い夢を見させて全国から社員が集まってくれたんだけど、4年くらいすると「やりがい詐欺ちゃうか」と思われ始める(笑)。次の手を考えないと(笑)

嘉村:よく勘違いされるんですが、「組織の階層構造を壊したからティール」ではなく、痛んだら思い切って変えていく過程のほうが大事です。社員が辞めていく、なんとなく空気が悪い、日々の経営で生じるそうした歪みは病気みたいなもので、柔軟に変化を続けるうちに階層がなくなるのかもしれない。グリーンまでの価値観は未来予測をして、計画通りに目的地に行こうとする。一方、ティールは飛び込むことで学びを得て、その学びを全員で共有しながら、成長しようという世界観で存在目的を果たしていく。その意味で不安定も伴いますが、1人で背負うわけではない安心感もあるんですよ。

サイボウズは「ティールはあんまり考えていない」

シンポジウム後半には質疑応答も行われ、サイボウズをオレンジ組織と位置付けた青野氏に「今後グリーンに変えていく考えはありますか」という質問も。

  • 後半には質疑応答の時間も設けられた

    後半には質疑応答の時間も設けられた

青野:あんまり考えていないですね(笑)。やはり色を目指し始めると違う方向な気がするんですよ。危機の時はレッドのほうがワークする場合もあるわけで。超オレンジなIT業界のグローバル企業と競争するために、オレンジの引き出しを持ちながらバランス良く経営する感じかなと。

嘉村:もしオレンジの運営で何かしら痛みや課題があった時、ティールはもうひと段階変わるヒントになりますが、ティールを目指すと絶対に歯車は狂います。最近はティールを目指す経営者も多いですが、採用で人が集まるかもしれないという理由も少なくない。社員が振り回されては本末転倒です。

青野:色で並べられると目指したくなるんですけど、本質はそっちじゃないんですよね。塚越さんがおっしゃるように、社員の幸せという部分でブレちゃいけないと思います。

ティール組織が今後どれほど普及するかは未知数だが、現代の組織が抱えるさまざまな課題を考える上で、ティールの議論は良いきっかけとなるようだ。