近ごろ、会社の中でも外でも、やたらと働き方改革が連呼されるようになりました。まだまだ本格的な取り組みはこれからの企業もあるとはいえ、残業時間の抑制、有給休暇取得の推奨などの波は、確実に大手のみならず、中小企業にも広がりつつあります。

働き方改革のおかげでたっぷりの余暇を取ってリフレッシュできるから、みんなニコニコ仕事できています!……なんて効果があればさぞかし幸せでしょうが、実際問題、うまく働き方改革が回っていないケースも多いようです。

  • 働き方改革はうまくいってますか?(写真:マイナビニュース)

    働き方改革はうまくいってますか?

量ではなく「質」で仕事を考えよう

原因はさまざまですが、紋切り型の会社の命令が最も悪影響を及ぼしているといえます。

仕事が片付いていないのにもかかわらず、「帰れ!」の一言に従わざるを得ず、結果として仕事が回らなくなってしまったり、コソコソと自宅で作業したりすることになり、かえって疲れやストレスや疲れを溜め込んでしまう人も少なくないようです。

今の働き方改革のアプローチの手法がそもそも間違っている!――と警鐘を鳴らすのは、トヨタの整備士として働いていた経験をもとに、トヨタ流のカイゼンやPDCAに関する著作を発表し、さきごろ『トヨタで学んだ動線思考』(祥伝社)を出版したプラスドライブ代表取締役の原マサヒコさんです。

原「10時間働いていたのを8時間に短縮しようとするならば、仕事の質を変えなくてはならないのに、ただただ時間という量を減らそうとしているだけ。時間というものを"量的思考"で考えてしまっているんです。一人ひとりの仕事の質にフォーカスした"質的思考"が、働き方改革をスムーズに進める鍵です」。

  • プラスドライブ代表取締役 原マサヒコさん

    プラスドライブ代表取締役 原マサヒコさん

質的思考をするためには様々な要素が必要になりますが、原さんは「動線」を洗い直してみるのが近道だと断言します。同じような業務量なのに就業時間内にきっちり終わらせ、余暇をたっぷり満喫する同僚もいますよね?

そんな「できる」人たちは、決まって1日の行動様式や仕事の優先度の付け方、デスクの整理整頓や備品の管理といった細かなところも含め、頭と身体を効率的に動かすための動線の取り方が優れているのだといいます。

一般企業の動線はダメダメ

そもそもトヨタの工場の最前線では、モノの置き方や作業の手順といった動線がきっちり決まっていたそうです。少しでも素早く仕事をするために、作業中の車の右と左のどちらを通るべきかまで事細かく決められていたという徹底ぶり。

仕事の質を上げる環境を提示してきたことが、世界トップの自動車メーカーとしての地位確立に直結しているのは間違いありません。

原「トヨタ時代、作業者が動く動線が決まっていたおかげで、ロスタイムなく仕事を円滑に進めることができていましたから、その後、IT企業に転職したときは愕然としました。モノを探すために周辺をダラダラと歩き回る人が多く、仕事で使うツールなども置き場所がバラバラ。正直、トヨタ以外の企業はここまで動線ができていないのかと思いました」。

現在はWebマーケティング領域で、複数の企業をコンサルしている原さんですが、規模の大中小を問わず、動線がうまく描けていないように感じられるそうです。

まずはモノの配置やオフィス内の人の動きなどを整理したり、能率的に仕事できるように業務フローの動線を改善したりすることが、仕事の質を高め、働き方改革を実現する第一歩。ただ、あくまでも組織が動かないと実践できないレベルの話ではあります。

原「切れ味の悪いノコギリで木を切っている木こりが、目の前の仕事が忙しいからとノコギリの刃を研がないまま仕事に臨む――『木こりのジレンマ』という話がありますが、これがまさに日本企業そのもの。

忙しさにかまけて仕事の質を上げる環境を整えるのを怠っているのに、1時間早く帰れ、2時間早く帰れと言われても、社員たちはテンパってしまうだけ。まずはノコギリの刃を研ぐことから始めましょう」。

  • 日本企業の問題として「木こりのジレンマ」を紹介する原さん

    日本企業の問題として「木こりのジレンマ」を紹介する原さん

組織全体の動線を変えるのは難しいかもしれませんが、個人が変われば全体の変化のきっかけにはなるでしょう。まずはあなた自身の日常の動線を変えてみませんか

朝の通勤から動線を意識してみよう

原「例えば、朝の通勤。ラッシュ時のすし詰め状態では、せっかく一晩ぐっすり眠って満タンに回復したHP(ヒットポイント)が、会社に着く前にみるみる減ってしまいます。僕自身、転職して自動車通勤から変わった時は、これでは仕事に悪影響を及ぼすと考え、1週間経たないうちに時差通勤にして、早めに出勤をするようにしたところ、頭が回転する朝方に集中でき、仕事の質は上がっていきました」。

確かに"早出"は理にかなっていますが、就業規則等の問題で早朝出勤が難しい会社もあるでしょう。ならば、電車の乗り方一つだけでも変化にトライしてみては?

何気なく車両に乗っていたのならば、会社や訪問先の出口に近い車両を調べて、少しずつ時短をする癖を身に付けてみるのも一つの手段。小さな工夫と意識が、大きな変化のきっかけになるのです。

原「トヨタの現場では、常識や前提を疑えという声がよく聞こえてきました。当たり前を当たり前と思わず、毎日、何らかの新しい変化をもたらしていくことで、仕事の質をどんどん上げてきたのです。地道に一つずつ変化を積み重ねていきましょう」。

取材協力:原マサヒコ

1996年、神奈川トヨタ自動車株式会社にメカニックとして入社。5,000台もの自動車修理に携わりながら、トヨタの現場独自のカイゼン手法やPDCAサイクルを叩き込まれる。トヨタ流のカイゼンやPDCAサイクルを常に意識しながら仕事に取り組んでいった結果、技術力を競う「技能オリンピック」で、最年少優勝に輝く。さらにカイゼンのアイデアを競う「アイデアツールコンテスト」でも2年連続全国大会出場を果たすなど活躍。
IT業界に転身後、PCサポートを担当したデルコンピュータでは「5年連続顧客満足度No.1」に貢献。現在はWEBマーケティング会社の代表として、多くのクライアント先に対してWEBマーケティング施策を推進している。