東京2020組織委員会は7月18日、東京都葛飾区立川端小学校にて、東京2020大会の競技から算数を学ぶ「東京2020算数ドリル」の陸上競技実践学習会を開催した。
学習会には、2000年シドニー五輪女子マラソン金メダリストであり東京2020アスリート委員会委員長も務める高橋尚子さん、2008年北京五輪400mリレー銀メダリストの塚原直貴さんも参加。子どもたちと実践を交えながら、「速さ」の計算方法について学びを深めた。
東京2020大会の全55競技を取り入れた「東京2020 算数ドリル」は、A巻ではオリンピック競技、B巻ではパラリンピック競技に関連した問題を掲載。2019年度には東京都内の全公立小学校1,273校の小学6年生(約10万人)に配布されたほか、現在までに静岡県、山形県村山市、千葉県市川市、鹿児島県指宿市、三重県鈴鹿市でも活用されることが決定している。
高橋尚子さん、塚原直貴さんが先生に
実践学習会に参加したのは、川端小学校6年1組、2組の児童61名。授業はまず座学からスタートし、東京2020算数ドリルにある「道のりの求め方」をもとに、問題の解き方を学んだ。この秒速の求め方が、これから先の実践授業で利用される。
秒速の計算を復習した後は校庭に移動。メダルをつけて登場した高橋尚子さん、塚原直貴さんを子どもたちは大きな拍手で迎えた。
今回の授業の問題は「50m走でオリンピックメダリストの塚原直貴さんと同時にフィニッシュするには、自分はスタートラインより何m先から走り始めればよいか」。塚原さんはさっそく、今回の問題にもなっている50mを実際に走り、5.85秒という記録を叩き出した。世界レベルのスピードを体験したところで、次に子どもたちの測定がスタート。
なかには50m走に夢中になるあまり、靴が脱げてしまう子どもたちも。そんな子どもたちに高橋さんが「いま塚原先生と話していましたが、靴は体の一部になる、とっても大切なものです。マラソンは皆さんが走った50mを840回走るという長い競技です。50mで靴が脱げてしまったら全然前に進むことができないよね。走り始める前に靴紐をしっかり結ぶというのもとても大事ですよ」とアドバイスし、二重結びの仕方を教えるという一場面もあった。
実践! 塚原選手と一緒に50m走
児童61名全員の測定が完了したら、再び校庭で座学の時間。子どもたちは自分の50m走の記録と塚原さんの記録を比べ、先生や高橋さん、塚原さんに教わりながらも、それぞれ何m先から走り始めればよいかを計算し、発表した。
そして迎えた実践50m走。塚原さんはスタートラインに、代表の児童はそれぞれ計算した位置について、笛の音とともにスタート!
気になる結果はというと……子どもたちがぶっちぎりで塚原さんに勝利。この結末を受け、塚原さんは思わず「ねえねえみんな。計算、合ってる? ……もしかしてみんな、1本目より速く走ったんじゃない?」と一言。
そこに高橋さんが「計算上ではみんな同時にゴールできるはずだったんだけれども、塚原先生が後ろから走ったことが動揺になったり、計算だけでは合わないようなことが起こったりする。これがオリンピックではもーっと起きるわけです!」とフォローし、会場には明るい笑いが響いた。
この後、学習会は子どもから高橋さん・塚原さんへの質問コーナーへ移行。高橋さんや塚原さんが陸上や現在の種目を始めたきっかけ、短距離・長距離の走り方のコツなど、貴重な話が語られた。
子どもたちも東京2020のムーヴメントを支える1人
実践学習会に参加した子どもたちは、普段とは違う形で行われた算数の授業に対して「分かってたこともいつもと違う観点から捉えられた」「いつもは黒板の内容をノートに書くだけであまり面白くなかったけど、スポーツとして実際に体験できて分かりやすかった」「塚原選手の速さを感じて比べたりすることで、普段では味わえない勉強ができた」と感想を述べた。
塚原さんは今回の実践学習会を振り返り「子どもたちの記憶の中に、10年、20年経った時に東京2020のムーヴメントを支える1人になれたということ、ムーヴメントの中に僕ら、私たちがいたんだなということを思い出として残していければなと。そういった記憶は子どもたちの成長の中で非常に大事になってくると思いますし、そんな瞬間を手伝わせていただいたと思っています」と締めくくった。
高橋さんは「東京2020まであとおよそ1年に迫ったこの時期に、東京で小学校の皆さんと一緒に“算数”と“走る”の実践授業ができたことは大きな意味があると思います」とコメント。さらに「オリンピックってテレビの中の出来事じゃなくて自分にもチャンスがあるのかも? と思ってがんばった子が、将来オリンピック選手になってくれたらすごくうれしいですね」と子どもたちにエールを送った。