長澤まさみが出る映画はヒットすると言われる昨今。主演作『コンフィデンスマンJP』は興収25億超、助演作『マスカレード・ホテル』は46億、『キングダム』は54億を超え、東宝シンデレラの面目躍如といったところである。というのは、この3作、すべて東宝作品だから(『キングダム』はソニー・ピクチャーズと共同製作)。

  • 長澤まさみ (C)2019「コンフィデンスマンJP」製作委員会

東宝シンデレラとは、東宝と東宝芸能による女優オーディションで合格した者は東宝芸能に所属する。初代は科捜研の女こと沢口靖子で、最近は連ドラ『義母と娘のブルース』で注目され大河ドラマ『いだてん〜東京オリムピック噺』の昭和編に水泳選手・前畑秀子役で出演する上白石萌歌がいる。なかなかの登竜門である。

理想のヒロインとして人気に

長澤まさみは、2000年に第五回の東宝シンデレラオーディションをきっかけにデビュー。のびやか、さわやかな美少女というイメージで活躍、ブレイクしたのは2004年『世界の中心で、愛をさけぶ』のヒロイン。難病ラブストーリーブームを切り開いた作品で、白血病治療の副作用がある設定のため髪の毛を剃って臨んだ気迫に注目が集まり、日本アカデミー賞最優秀助演女優賞を受賞した。黒沢清や是枝裕和などの芸術性の高い映画にも出る一方で、エンタメ作品にも多く出て、バランスがいい。

なんといっても、多くの男性の憧れ・『タッチ』の南ちゃん(05年)を演じ、『モテキ』(11年)でもマドンナ的存在を演じ、男性向け漫画における究極の女子像を体現してきたのが長澤まさみで、すごくかわいくてスタイルが良くてどこに出しても恥ずかしくなくて、でも決して出しゃばらず、男子に寄り添ってくれたら嬉しいという願望の極みなのだ。例えば、パーティーに一緒にいったら絶対注目を浴びる。集まってきた人たちと適度に社交もするが、はしゃぎすぎず、一緒に来た男子を立ててくれそう。『マスカレード・ホテル』は長澤まさみのそういう面を生かして、主演の木村拓哉を支えた。舞台『メタルマクベス』disc3のマクベス夫人もまさに華やかでキャラ立ちしているが内助の功タイプ。

長澤まさみのもう一つの面

が、いつの頃からか、長澤まさみには違う面が現れる。『コンフィデンスマンJP』のダー子に代表されるイケイケタイプ。そのイケイケが尋常でない、クレイジーな役だ。舞台『クレイジーハニー』(11年)で、絶叫しまくり、他者を追い詰めまくる役を演じた頃から徐々に彼女の内なるエネルギーの強さが発揮されるようになってきた。とにかくダー子は桁違いの猛者である。何億ものお金をがんがん動かす。それも正規のビジネスではなく信用詐欺で。ちょっと義賊的なところもあって、不正でお金を稼いでいる人たちを騙してぎゃふんと言わせるやり方をする。頭がよくて、一夜漬けでたくさんの本を読んで、医者にも俳優にも占い師にもなれる。派手な服を着て、パリピのようにいつも大騒ぎ、男女も年齢差も問わず愛する懐の大きさも感じさせる。こわいもの知らずの勝負師である。

映画公開時、放送されたスペシャルドラマ『運勢編』では、大凶運を、徹底的に不運を受けることで逆転するという荒業に出た。実際の世界にはこんな人、いないよ……と思うが、ドラマだからこそ楽しめる、そのスケール感が長澤まさみにはある。彼女だから、実際、こんな変装ばれるよとか、占い師なんて無理だよとか、手術なんて絶対無理と思っても、なんだか許容できて楽しめる。

なんといっても手足が長くのびやかなところが良い。惜しげもなく出す潔さも素敵だ。『キングダム』で演じた山界の王・楊端和役はその最大の魅力である手足をむきだしにして二刀流アクションも見せている。このときの貫禄がすごい。無表情な顔は仏様のようでもあり、最強、無敵感に満ちていた。そこで思ったのは、萩尾望都の『百億の昼と千億の夜』の阿修羅を長澤まさみなら演じられるのではないか。さらに萩尾望都の『スター・レッド』の星もいい。長澤まさみ、男性向け漫画のみならず、究極の少女漫画の主人公もできる逸材である。

私が長澤まさみ、いいなあと思ったのは、その能力だけでなく心構えもある。とあるインタビューで、昨今の目覚ましい演技の進化は舞台で鍛えられたからかと聞いたところ、「私は映像から俳優のキャリアをはじめているので、そこで学んだこともやはりとても大きい」と答え、ある舞台をやるとき、演出家のすすめで古い日本映画を参考にしたことを教えてくれた。舞台に出ると鍛えられるとわりとカジュアルに語られることが多い昨今、自分の原点である映画を立てる心遣い。映画が彼氏だったらものすごく嬉しいだろう。舞台も、長澤まさみに映画で学んだことも大きいと言われたとしても別に立つ瀬がないわけでもない。いや、逆に、舞台にも敬意をはらっているといえるだろう。長澤まさみ、まさに東宝シンデレラ。プリンセスの品格をもった貴重な女優は、作品の価値を上げる。『銀魂』(17年)で演じた志村妙の『ドラゴンボール』の朗読、最高だったなあ。

■著者プロフィール
木俣冬
文筆業。『みんなの朝ドラ』(講談社現代新書)が発売中。ドラマ、映画、演劇などエンタメを中心に取材、執筆。著書『挑戦者たち トップアクターズ・ルポルタージュ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』、ノベライズ『隣の家族は青く見える』『コンフィデンスマンJP』 など。5月29日発売の蜷川幸雄『身体的物語論』を企画、構成した。

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