日野自動車は大型観光バスの安全性向上に向け、新たな技術を開発した。ドライバーの異常を自動で検知し、バスを停車させる「ドライバー異常時対応システム」(EDSS:Emergency Driving Stop System)だ。こういった技術を商用車に搭載するのは今回が世界初の事例となる。
ドライバーの異常を検知する新技術
日野によれば、ドライバーの健康状態に起因する商用車の事故は増加傾向にあり、特にバスではその傾向が顕著だという。こういった状況に対応するため、同社は大型観光バス「日野セレガ」にEDSSを搭載し、7月1日に発売する。
EDSSは、ドライバーの異常をダッシュボードに設置したカメラで検知する「ドライバーモニターⅡ」と「車線逸脱警報」を組み合わせたシステム。健康状態の急変などにより、ドライバーが体勢を崩したり、目を閉じ続けたりすると、EDSSが異常を検知し、バスを徐々に減速させ、停止させる。その際、車内では非常ブザーを鳴動させ、赤色フラッシャーを点滅させることで、乗客に緊急停止することを伝達する。車外に対してはホーンを断続的に鳴動させ、ストップランプとハザードランプを点滅させることで異常を知らせる。
日野の大型観光バスには、ドライバーに異常が発生した場合の対応手段として、乗客が車内前方のボタンを押すことで、バスを緊急停止させられる「非常ブレーキスイッチ式EDSS」が設置されていた。ただ、この装置だと、ドライバーの状態を目視で確認できる車内前方の乗客であれば話は別だが、バスの真ん中から後部にかけての乗客にはドライバーの状態が確認しづらく、ボタンを押そうにも距離があるので、異常発生時にとっさの対処を行うのが難しかった。
最新の安全装備を搭載することにより、日野セレガの価格は上がるが、日野自動車 先進技術本部の奥山宏和副領域長は「費用対効果を考えると、お客様には納得して購入して頂けるのでは」との見方を示す。
大型観光バスの事故は大きな被害につながりやすいし、人命にかかわる事故が発生してしまえば、お金には換算できないようなさまざまな「費用」も発生する。バスは運行会社にとって「生産財」なので、コストについてはシビアに見る顧客が多いらしいが、事故発生時の費用=リスクの大きさを考えれば、最新のEDSSに対する投資はリーズナブルだと捉えてもらえるのでは、というのが奥山氏の考えだ。
気になるのは、ドライバーの異常を検知するEDSSが、大型観光バス以外にも広がるかどうかだ。具体的には、路線バスへの導入が進むことを期待したいのだが、この点について日野の説明員に聞いてみると、「路線バスは街中を走るので、周囲に何があるか分からないし、立ったまま乗車されているお客様も多いので、制動(ブレーキの効かせ具合)が全く違ってくる」とのことだった。ただ、こういった課題は「ほぼクリアできている」との話だったので、路線バスに同様のシステムが搭載される日も近そうだ。